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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの冒険
30/617

読み合い

 襲撃は突然きた。


 二日目の夕方頃、所定の行事が終わり、茶事の会場から邸宅へと帰ろうと、クラッシュさんが先導して部屋の敷居をまたいだ途端地震が来た。


 唸るエンジン音

 建物が揺れる。敷居で分断される建物。

 ズレる。敷居で、分断された出入口で、なんと出入口が左右にズレていく。

 これは、地震ではない。建物が車のように移動しているのだ。

 クラッシュさんが、離れていく。

 車だ、この建物は車で、部屋ごとに別方向へ移動しているのだ。乗っている車は既に高速移動している。

殿下を抱えては飛び降りられない。

 来る。来るぞ。確実に来る。というより既にいた。

「ギャルさん。殿下を後ろに。そこのメイドから離れて。」

 僕より小さいメイドが、僕を睨み付けている。

 メイド少女は、もはや敵意を隠そうともしていない。

 子供とも見紛う小ささだ。そして、おそらく僕より若い。

 その手には、いつのまにかレイピアが握られていた。

 

 メイド少女は、おもむろにレイピアを構えると、ゆっくりと剣先を僕に伸ばし始める。

 剣先が急に早くなる。おそらく剣先には毒が塗ってある。色が変わってるからね。

 当然、僕は避ける。

 裾が膝下位のスカートをはためかせながら、舞うようにレイピアを振るう少女。

 軽い。早い。舞うように立体機動しながら、針のように剣を刺してくる。

 まるで重力などないかのように、しかも緩急自在に四方八方から攻撃してくる。


 これはマズイ。たまらず携帯していた刀を抜く。

 少女の突き出した剣先を刀ではじく。

 下がりながら、はじく、はじく、はじく。

 怒涛の攻めだ。これだけ動いてるのに息を切らしていない。

 少女の目付きが険呑だ。

 あれは、「なに逆らってやがるんだ、早く串刺しになって死ね。」と言っている目だ。間違いない。

 少女の動きのシフトが上がった。

 もはや雷光のような速さだ。レイピアの銀光が稲光りのようだ。

 防御に専念する。もはや反射では間に合わない。予測してかわす。

 剣撃の金属を打ち合う音だけが辺りに響く。

 しばらくして、少女の動きが止まった。

「おまえ、何者だ?面倒だ。時間が無い。不死魔王が戻ってくる。おまえ全力で死ね。」

 初めて聞く少女の第一声は、聞くに堪えない残念な内容だ。回答は求めてなかったらしく、又、動き始める。

 また速さのシフトが上がったらしく、最早、残像が見えるだけで、動きが見えない。予測だけで防ぐ。

 僕の思考は、現在7つ並列思考可能だ。並列して思考出来る出来ない関係なく、僕の思考が7つあると仮定して、機能すれば問題はない。嘘でも役立てば、それでよい。人類の武器は嘘だ。思考を7つ直列して、少女の動きを予測する。

 前世では、無理だったが、今世の頭脳はすこぶる優秀だ。

 戦いながらも演算処理すると、このままでは、1023手目で僕は負けるらしい事が分かった。少女も勿論分かっている。


 読み合いは彼女の勝ちだ。


 剣撃の速さも、追いつけない。


 ならば、遅さではどうかな。

 前世の年齢を足すと、僕は少女の何倍も年寄りだ。ここらで老練の妙を見せてやろう。


 たいしたことをする訳ではない。一手一手を丁寧にするだけだ。ゆっくりと意図した処に狂いなく剣筋を通していく。

 ゆっくりと丁寧に、正確に、針の穴を通すが如く、刀を振るって少女の剣をはじく。いや合わせるのだ。


 953手目。

 やがて、少女の動きがゆっくりと見えて来た…。


 

 975手目。

 更に、ゆっくりと少女のレイピアに刃先を合わせる。


 998手目。

 一ミクロンの狂いもなきように、調節、刃先に触るように、力加減を調整、寸分の狂いもない。


 999手目。

 少女の呼吸さえわかる。スローな世界。

 合わせた刃先から、妙な感触が伝わるのか、傲岸不遜だった少女の顔付きが変わる。


 1000手目。

 少女の顔が驚愕に歪む。

 更にゆっくりと、なぞるように、少女の剣に、僕の剣が巻き付くように合わせた。

 まるで蛇のように僕の刃が、少女が振るうレイピアの刃体に巻き付いていく。

 そして、僕が刀を跳ね上げると、少女のレイピアは手元から離れて飛んでいってしまった。


「あぁ!」


 僕は、刃先を少女の首元に突きつける。

「レディ、降参しなさい。」

 投降を呼びかけた。

 僕は、とても少女を殺すきにはなれない。


 少女の手から離れたレイピアが落ちる音がした。


 少女は、何がなんだか分からないと呆然とした顔をさらしていた。そして突き出していた無手の手元を見た。

 「ばかな、1023手目で勝ってたはず、何故だ、この私が負けるとは…ありえない。貴様、私に何をした、、お姉さま以外に私が負けるなど。しかもこんなか弱そうな少女に。」


 ガ、シャーーン!!


 突然、壁が盛大に、ぶっ壊れる。

「殿下ー。ご無事ですかー。このクラッシュ、不覚をとり申した。ぬー、敵は何処や。」

 おお、怒りで頭が沸騰している漆黒のキノコ王が現れた。

 この人、高速で離れて行く車から飛び降り、更に走って車に追いついてきたの?もはや人間技ではないな。


 怒りで、黒くてデカいキノコがウネウネと動く。

 キノコ、いや、クラッシュさんに僕が気をとられてる間に、少女に後ろに下がって間合いを取られてしまった。


 「時間切れだ…。おい、おまえ、今回は魔王に免じて、引き下がってやるぞ。だが決して、私がお前に負けたわけではないからな。勘違いするなよ。」

 心なしか、涙目になっている。


「うん、うん、負けじゃないよね。君の剣、速くてビックリしちゃったよ。」

 ニッコリ笑ってそう言ったら、少女の顔が林檎のように赤くなる。


 「うぉっ、お、お前、何なんだ、ば、馬鹿にするなよ、お前なんか,可愛くて、格好良くて、優しいなんて、思ったりしてないからな。お姉さまに言いつけてやるんだからー。私を覚えてろ。」

 少女は,捨て台詞を吐き、建物から飛び出し、去っていってしまった。


 一応一難は去ったのかしら。


 


 

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