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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの休日
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ある騎士の独白(中編)

 武器庫にて置いていた装備品を身につけ、消耗品を補充する。


 畏れ多くもニルギリ様に敵対する輩は、私が全て殲滅する所存である。



 私には尊敬すべき者が三人いる。

 我が主君アーストラ・ニルギリ様は別格の列外であるとして、一人目は、私の師匠に当たるニルギリ家のお嬢様の執事、[冷徹者(アイスマン)]フィヨルドルフ・アーシュラ。

 実戦では、師匠の技は実にシンプルで主に首を掴んで捻るだけしか見たことが無い。

 相手が弱過ぎる故だ。

 打撃技より柔なる技が多彩であることを知っているが、私の実力では稽古で引き出すことは叶わずである。

 無手同士では多分最強に近い。

 最強十本指の一人。



 二人目は、襲撃して来た敵騎士団とたった一人で一晩中戦い続け全滅させたという[暁の殲滅者]クラッシュ・アッサム。 

 この御仁とは、まだ会ったことはないが、話しに聞くに敵対する者は一人として生かして返さぬ血も涙も無い所業の持ち主であるとか。


 およそ人間技とは思えない、あまりにも凄まじい逸話に都市伝説の類かとも思われだが…どうやら実在の人物らしい…凄い!本当の話しであったとは恐れ入る。

 彼の伝説の中で私のお気に入りの話しは、都市内に蔓延りし人屑どもを赤い月を背にして等身大の斬馬刀で真っ二つにする下りである。

 対象は人間の屑とはいえ、全く躊躇せず真っ二つとは…まさに非道、悪鬼羅刹の精神を持っているとしか思えない。

 非道を怖れず、理念の為に覚悟を決めて突き進む。

 まさに私の騎士の理想像である。


 私も、いつかは見倣って彼のようになりたい。

 もしかしたら、今日にも真似するチャンスがあるかもしれないと目論んでいる。

 武器を持たせたら、師匠をも凌ぐ実力と見ている。

 もちろん最強十本指の一人である。




 準備を整えて、機械馬に乗り込む。

 起動したばかりで機械馬はまだ冷たい。

 機械馬は空を飛ぶ機能が省かれた代わりに地上での高速移動に特化した乗り物だ。

 何しろ馬のトップスピードを維持したまま走れるし、跳躍力が凄まじいことから悪路でも山道でも関係なく進めてしまう。下手な車よりも使える。

 オフロードバイクの上位互換機と考えると分かりやすい。




 さて三人目だが、これは二つ名しか知らない。

 彼の名は[暴風(テンペスト)]。

 ここ近年で最強十本指の上位にくい込んできた。

 逸話だけが独り歩きしているようだが、不敗であることは間違いないらしい。

 人相風貌等が情報管制が敷かれているのか、フェイク情報が多すぎて真実と見分けがつかない。


 逸話ではギルドのゴールドを一撃で下し、かの鉄鋼弾小隊を壊滅させ、侍魂を近接戦闘すらさせずに魔法だけで撃破、軍の飛行魔導小隊を退かせたという。

 更に昨今では、裏会の狂い猿に尻餅を着かせて勝利したとか。

 少年とも古老とも情報が流れて、中には美少女であるとか埒もない噂までもある。

 だが、私が情報の真偽を解析したところ、年若い軽量級のギルド員である可能性が高い。


 その戦闘方法は超攻撃的手法のバリバリの前衛タイプがメインでありながら、中衛、後衛としても一流。魔法にも造詣が深いオールラウンダーの魔法戦士だ。

 もしかしたら武芸十八般全て網羅してるかもしれない万能さだ。

 だが私が[暴風(テンペスト)]を尊敬する故は、そんな理由ではない。

 他の最強十本指に比べれば、[暴風(テンペスト)]の個の強さは…落ちるとみた。

 それでも、もし戦えば[暴風(テンペスト)]が勝つであろうと思うのだ。

 事実、今日(こんにち)まで彼は勝ってきている。

 何故?

 最初は、それが実に不思議であると興味を持った。

 勝つには必ず合理的な理由があるはず。

 情報を収集して解析するうちに、…彼の強さの理由に薄々気がついた。

 一言で言うと、盤外戦術が巧みである。

 つまり戦闘以外の能力が高性能で、その結実が戦闘に集約されている。

 [暴風テンペスト]は戦闘を個で見ていない。

 戦術・戦略レベルの広さ…いや、それではまだ足りない。

 リアルな時空で幅広い視野を持っているのでは?

 戦う前から既に戦っている…即ち、常在戦場?



 …



 吐く息が白い。

 機械馬は静かであるが、周囲の景色は高速で過ぎ去っているからスピードは出ている。

 メーターをチラリと見ると時速120kmは出ていた。



 …


 …全て私の妄想に近しい想像に過ぎない。

 勘だが強さの理由はそれだけではないような気がする。

 戦い方が効率的と思えば、妙な拘りがあるのか自己を不利にしている。

 これは過失では無く故意だと思慮される。

 …多分[暴風テンペスト]なりの譲れない信条なるものを優先してるのかもしれないが、戦いに信条を介入させるなど私より若いかもしれない癖に前時代的な古臭い考えだ。

 なるほど…[暴風テンペスト]古老説が出るわけだ。

 自己をわざわざ不利にするなど、なんて馬鹿馬鹿しい!


 だが、知れば知るほど、調べれば調べるほど、何故だが妙に惹きつけられる。

 コイツは私とは真逆のタイプだと分かった。

 きっと、この男とはソリが合わない。

 確信を持って言えた。

 この男とは、会えば戦うことになるに違いない…だからもっと情報を集めなければ。


 [暴風テンペスト]は仮想敵ではあるが、私とは違う強さを持ち、今の私よりも強いのは事実である。

 敵であるとしても、私にとって強さこそが優先される。

 よって、[暴風テンペスト]よ、私はお前の理解出来ない強さを尊敬しよう。


 私がお前を倒すまではな…。




 …




 しばらくして機械馬は荒野のようなデコボコの道を駆け抜けて、シナガに到着した。



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