僕の休日(モツ煮編)
途中道無きを踏み込え、ルートがズレても軌道修正しながらもシナガ付近に近づいて来ている。
山道ではなく、基本起伏が無いので、行程はそれ程に大変ではないのだ。
一応目的地はシナガに決めたけど、目的地そのものが目標では無いので、結果より過程に意味がある。
最後に無事であれば問題無いので、着かなくても、別の場所に変更しても全然構わないけど、どうやら無事シナガに着きそうですね。
幾つかの雑木林を抜けると、前が開けてイの村に出た。
大昔は、大イと呼ばれて栄えていたらしい。
今では、疎らに家があるだけの村です。
それでも中央付近の大広場まで行くと、商店街が軒を連ねていた。
意外と開けている。
のぼり旗が立ち、結構人で賑わっている。
…良い匂いがする
ちょうどお昼頃の時間である。
フードに入って寝ていたシロちゃんがモゾモゾと動きだしている。
きっとお腹空いたのかも。
僕もお腹空いたし…。
匂いの出処をフラフラとクンクンとしながら辿っていく。
シロちゃんが動いて僕の左肩に両手を乗せて、鼻をヒクつかせている。
匂いの出処は、臓物屋でした。
グツグツとスープを煮詰めている。
中身の具がカラフルです…赤、黒、白、茶、緑、黄、金?
店の構えは、木造りの年季の入った墨色でカウンターのみですが、スペースは広めに取られている。
古いのに不潔感はない。
厨房では店主と思われる30歳代の男が串打ちをしている。
無精髭を生やしたゴツい体格で、僕の方をチラッと見た。
「お客さん、美味いよ、寄ってって。」
客は、まだ居なかったので、その言葉にフラリと店内に入り奥の席に座る。
声の掛け方が絶妙です。
スルリと入っちゃいました…まあ、いいか、お腹空いてたし、少し頼んで味見くらいしても良いし。
直ぐにスープが目の前に出された。
「これサービスね。お代わりは有料。うちは焼き串とご飯しかないけど、お任せならサービス料金、お好みでも何でも焼くよ、これメニューね。」
店主は体格ゴツいのに雰囲気が柔らかく、声も優しい。
メニューを見ても肉にしては安い。臓物だから?
スープから湯気が立ち昇っている。
ゴクリと唾を飲み込む。
「お任せで…。」
「あいよ、お任せ一丁。」
打った串を炭火で焼き始める。
パチパチと炭が割れる音と焼けるタレの匂いが食欲を誘う。
これ、絶対美味いよ。
「いただきます。」
レンゲでスープをすくって口をつける。
… … …。
…スープを全部飲み干してから、無くなったいることに気がついた。
左肩のシロちゃんが悲しみの声を上げる。
「お代わり!…あと、この子にあげたいので、小皿いただけませんか?」
店主は、しばし考えると、別の場所から小皿を取り出して置いてくれた。
「これ、前に飼っていたうちの猫のお皿ね。ちゃんと洗ってあるから。よければ使って。」
お代わりのスープも鍋から汲んで出してくれた。
シロちゃんと一緒にスープを飲み、具を食べる。
今、気がついたけど、これモツ煮ですね。
生姜も効いて味噌の味が絶妙で柑橘系の香りもする。
美味いよ、絶品です、感動した。
シロちゃんが今まで聞いたことの無い鳴き声を出している。
うん…モモンガって雑食でしたっけ?
続いて長串に、モツがこれでもかと刺されて押し込まれている焼きたてで湯気が出ている串が三本とホカホカご飯が出てきた。
おーまいごっと!
…
…非常に、満足しました。
最後に出てきたお茶を啜る。
あれから店内は、直ぐにいっぱいになった。
今は外のテーブルまで使って満杯です。
当たりです。大当たりでした。
うんうん…今日コチラを探索に赴いて本当に良かった。
僕、満足です。
「…ご馳走様でした。」
自然と手を合わせて頭を垂れる。
「ありがとうございました。」
店主は、しっかりとコチラを見て挨拶して来た。
うむ、最後まで気持ちの良い店でした。
気分良く勘定を済ませてから、外に出ても身体はポカポカしていた。
なんだか心までポカポカして来るような感じ。
うん、美味しかった。
シナガに向けて歩きだす。
シロちゃんは、僕の左肩に乗ったままグテっとしてます。
満足そうに目を瞑って糸目になっています。
シナガに到着は、そんなに掛からない。
ほぼ隣りであるから。
お腹がいっぱいになったら、甘いものが食べたいです。
次は3時のオヤツですよね。
自然を満喫し、歩いて運動し、美味しいものを食べられて、僕、幸せ。
シロちゃんと幸せを共有できて感動。
うんうん…これぞ休日です。holidayですよ。
僕は、満足しながら、シナガに向けて歩き始めた。
紅葉して落ちた枯葉の絨毯を踏み締める。
カサカサと音がする。
出す息が白い。
天気は良いけども、陽が陰ったら風が冷たく感じる。
…秋ですよね。
四季が美しい。
この世界に転生させてくれた存在に、こんな時は感謝したい。