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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの休日
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ペコーの休日・秋(前編)

 私の名前はペコー。

 皆んな覚えてるかな?

 清掃作業でアールグレイのお姉さんとご一緒した少女だよ。

 そうそう、茶髪で三つ編みソバカスの痩せっぽっちの女の子、学校の8年生、それが私。

 綺麗とか可愛いとかの言葉とは縁遠いけど、知的とかスレンダーで格好良いとかは、友達からの褒め言葉。

 私自身は、光りの加減ではオレンジ色に見える髪がチャームポイントかなと思っている。

 口が悪い子からは、ただ陽が当たり過ぎて赤茶けているだけとか言ってくる…超ムカつくよね。


 今日は日曜日。

 日曜日は、私にとって好きでもあり嫌いでもある。

 休みという意味で好き。

 食堂が閉まるという意味で嫌い。

 食堂が閉まるなら外食するか自炊すれば良いじゃないかと思った人は、恵まれた環境にある人だ。


 私には外食するお金が無い。

 自炊するには料理する施設が無いし材料も無い。

 無い無い尽くしで笑ってしまう。

 働こうにも子供では働き口も中々無い。

 結局は部屋でじっとして動かないのが一番良いのだ。

 しかしながら、私には目標が出来た。

 それはアールグレイお姉さんです。

 

 いやいや、何もあの美しさ可愛いさを目標にしている訳ではないよ。私如きが、それはそれは畏れ多くてガクブルですから。…いやはや、誤解無きよーに!

 私が目指すのは、なんとゆーか、あの内から滲みでる精神性の高さです。

 真白の雪が降り積もった山頂を戴くほどの山のような不動で強靭でかつ壮麗で見るだけで心洗われるような覚悟です。


 うーーん、アレは凄いよ。憧れてしまいます。

 強さと優しさが混然と混ざり合い眩しいほどの明るさです。

 慈愛玲瓏の光りとゆーか。

 精神性の高さが肉体にも影響してるんだよ、きっと。

 何てゆーか、あの出会い以来、お姉さんの顔を思い浮かべるだけで、頑張れちゃう。

 今朝もかなり頑張っちゃった。


 朝、陽が出ないうちに起き出して、誰もいない学舎の外れへ行く。使われていないグラウンドは一周約1km。

 まずは基本の走り込み。

 なんと4kmを1時間で完走しちゃいました。私偉い!

 その後筋トレを腕立て腹筋背筋スクワットを10回3セット。

 正拳突き等の型を10回3セット。

 最後にダッシュ3回で終わり。

 いやいや、良くやりました。

 自分で自分を褒めてあげたいです。

 良くやった、私、凄いよ。

 しかし、こんな重めの訓練を成し遂げた代償は高かった。


 さっきからお腹の虫が鳴いている。

 切ない、情けない。

 朝ご飯は、ありません。

 魔法で出した水を飲む。…ゴクゴク。これで少しは気が紛れます。

 これは一番始めに覚えた魔法です。

 お金の無い私にはそれこそ死活問題ですから。

 水道代もただでは無いし、飲み水には適さない。

 厳しい訓練で体力は尽きました。

 枕をお腹に押し付けて横になる。

 こうすると少しは気が紛れるのです。

 嘘だと思うなら試してみて下さい。

 私も苦し紛れにやってみたら確かに多少は効果がありました。


 しかし、それも限界です。

 もしもの時の為に取っておいたチョコの一カケラを口に含む。

 甘くて美味しい…命の味がします。

 それが口の中で段々と消えていく。

 …それがとても哀しい。

 

 眼を瞑る。

 ああ…お姉さんの牛カレー美味しかったなぁ。

 思い出したら涙が出てきた。

 皆んなはお腹が空いて涙を流したことがあるんでしょうか?

 私は度々あります。慣れています。


 ああ…


 きっとお姉さんなら、行けば喜んで御飯を食べさせてくれるだろう。

 もしかしたら、私がお願いすれば養子にでもしてくれるかもしれない。

 でも、それではダメなことも分かっている。

 優しさに頼ってはダメなんだ。

 子供の私でも分かる。

 人は楽な方へと流れていく。それは自然の流れだ。

 易きに流れる自分を律して、流れに逆らう。

 そこに人の価値がある。

 そこに動物とは違う人の意志があり、それを認識出来る精神活動を英知と呼ぶ。


 私は貧乏でも人間だ。

 人としての矜持だけは棄てるわけにはいかない。


 しばらくするとお腹の苦しさは薄れてきた。

 大丈夫…慣れている。まだ平気。

 ササっと身支度を整えると、私はギルドに出発した。


 何か私でも出来る一日仕事が有れば受けたい。

 私の財布の中は小銭が少々…。

 ギルドへの片道切符なら買える。





 

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