囁く者
殿下のスケジュールは滞りなく進んで行く。
何よりなことだけど、昨日襲撃されてるのだから、絶対それだけで終わろうはずがないのは必定。
この絵地図を描いた人の思惑は何だろうか?
…仮定法を使って考えてみよう。
この地図職人は、他都市の中枢に位置する貴族であり、その目的は、辺境伯爵領たる衛星都市を衰退させること、又は乗っ取りであると仮定してみよう。
もし、僕が人として糞な地図職人であるならば、頭は潰さない…何故なら組織というものは金太郎飴のように頭は幾ら切っても生えてくるので、潰しても意味はないのだ。
逆に自分が優秀だと自負しているボンクラを頭に置いていた方が都合が、地図職人には良い。
ボンクラは誘導できるからだ。
さも自分が名案を考えたように思わせるのだ。
人員を、末端の下部組織から引き抜いて、忙しい所や新しい所や本部に回すように、誘導してやる。
引き抜かれた者や忙しい部署はボンクラに感謝するだろう。
大義名分は立つし、ボンクラは、さも自分が名案を考えついたかのように思い込み、プライドを充足させることだろう。
だが地図職人の意図が現れるのは、それからだ。
組織は、頭が腐っても下部組織がしっかりしてれば100年は耐えうることができるという。
ならば、狙うのは都市民と直に接する下部組織だ。
…直には狙わない。
囁くだけ…ボンクラに。
後は、ボンクラが勝手に組織を崩壊に導くだろう。
元々人員に遊びのある下部組織などないはずなのに、そこから人員を引き抜いたらどうなるのか?
最初は、効率的に業務を進め、残業で補おうとするだろう。
そこでまたボンクラに囁くのだ…予算削減の為、休日手当等を無くせと。
全体的に休みを取ることを奨励しながら、人と金を下部組織にだけ流さず、休みを取らせない。
必要だからこそ、今まであったのに、人と金が流れて行かないようにする。
つまり、敵対組織の頭に囁いて、頭に下部部分を兵糧攻めにさせて壊死させるのだ。
さすれば静かに死んでいく。
内部の人間は頑張って、ある程度持つかもしれない。
だが壊死しないのならば、その下部組織は、生きる為に癌細胞のように変質していくしかない。
苦しむのは下部組織だけなので、誰にも気づかれないし、下部組織を救ける者はいない。
なんて醜悪な離間の計。
人間に例えるならば、自分で手足の血管を縛りつけて、その分の血を他に回すからいいだろう的な理由を囁き、手足を壊死させる。
蛸は貧すれば自分の足を食べると言う。
自分で食べた足は二度と生えてこないのに。
題して、オクトパス作戦だ。
やることは潜入して、囁くだけ。
後は勝手にボンクラが手足を食べて、衰弱して、崩壊するだろう。
大義名分の概念を悪用した昔ながらの由緒ある作戦だ。
但し、頭が阿呆な組織にしか引っかからない。
今の衛士隊の状況が似ているけど、まさかねぇ?