秋の朝
朝、パチリと瞼を開け目覚める。
ペンペン様がゴソゴソと台所を物色している音がする。
きっとお腹が空いたのであろう。
でもペンペン様、今日は僕はお休みで、まだ時間は朝の7時前ですよ。
時計を確認すると僕は又瞼を閉じた。
何はともあれ睡眠時間を確保するのが優先なのです。
僕は普段ペンペン様と居間に布団を敷いて寝ている。
部屋は幾つかあるけれど、大抵は十畳の居間で寝起きしてるから、もう間取りは1Kで良いんじゃないのと思わないわけじゃないけど。
他の部屋は、買い溜めした図書を置いてあったり、客間にしてたりしている。
もしかしたら、そのうちペンペン様も結婚相手を連れて来るかもしれないし。
そうしたら僕少し寂しいかも…。
人は僕一人だけだけど部屋は多くあっても困らない。
心と生活に余裕があってもヨウソロって感じです。
ちなみにペンペン様は雌ですから。
そう言えばモモンガのシロちゃんは、どっちだろう?
胸の上で寝てたので、摘み上げて確かめてみる。
うん…よく分からない。
シロちゃんは熟睡しているので、両脚を掴み広げてみる。
…うん、雄ですね。
知的欲求を満たしたので、シロちゃんをお腹の上に置いて、また寝る。
…
朝の陽が厚手のカーテン越しに差していることに気付いて起きる。
なるべく週休二日制を実施しているから、今日はお休みの日なのです。
まあ、急に休んでも誰に迷惑かけようがないので、それもありです。
この選択の自由が素晴らしい。
時計を見れば、午前8時を過ぎていた。
うん…9時間は寝ている…睡眠時間は十分です。
横を見るとペンペン様がうつ伏せで、突っ伏している。
きっとお腹が空いて、台所を漁って簡単に食べれる物を発見できずに料理するか悩んだ挙句に、腹立ち紛れにバタバタしながらフテ寝してしまったのだろうと推察する。
お湯を沸かして珈琲を入れる。
珈琲の良い香りが辺りを漂う。
ペンペン様の身体がピクピク動いているので、もうすぐ起きてくると思う。
シロちゃんは一足早く起きていてナッツを美味しそうに齧っている。
偶にナッツを僕にくれる。
まるで、ご主人様、色々食べなければ大きくなりませんよと言っているようだ…もちろん僕の気のせいに違いない。
あれから色々ありました。
珈琲を淹れながら、新しく僕の騎士になったアナスタシアに思いを馳せる。
アナスタシアに影響があったのは、ニアード君が家督を継いでクス子爵となったことです。
何でも当主代行してくれていた叔父さんが失踪したらしい…。
大変だ。探さなくて良いの?
アナスタシアに、その話しを聞いた時に尋ねたら、溜め息をついて、首を横に振った。
ニアード君は継いだは良いが、その叔父さんが膨大な借金まで残したとの事で、アナスタシアが返済計画を立てて債権者に了承させていた。
僕も第一回の話し合いを見に行ったけど、全然荒れてなくて淡々と話しが進んでいたので安心しました。
でも叔父さんは、元々代行で管理してただけだから、これって横領ではないの?
ニアード君が、叔父さんの借財を返す必要あるのかな?
それでもアナスタシアの為ならばと、僕の資産からの借財の返済を申し入れしたが、「いけません、筋が違います。」とキッパリ断られた。
うん、まあ、…そうですね。
でも、もし困ったら言って下さい。
(借財の鎖をアナスタシアに付けようと言うならば相手にもリスクを払ってもらう。一方的な言い分は通さない。もし我らの自由を奪わんとするならば…。)
お金は借りたら返すのが当たり前だと思われている。
それは私有財産制度の元では当然の帰結か。
因みに今世のトビラ都市では、限定私有財産制が採用されている。
私有財産制度の社会では、人類滅亡の危機を乗り切れなかったせいもあるが、廃止されたその際、客観視されたことにより、あまりにも弊害が大きいことが認識された。
よって、滅亡危機を乗り切った際、限定的に採用されたのだ。
枠が決められ、その中での制度内容は前世と変わりはない。
ならば、その理屈ならば今回の借財は叔父さんがしたものだから叔父さんが返すべき。
それを親戚とは言えアナスタシア達が返すのは道理が通らないと僕は思うと述べた。
しかしアナスタシアの考え方は違ってた。
クス子爵家で負った借財は誇りと信用に掛けて返すと言う。
うん…それもまた一理あります。
ですが、僕の考えではあくまでも借財は個人に紐づいてると思うのです。
借りた者が返すべきなのです。
当たり前の話し。
それが何故他人が返すのか?訳分かりませんね。
それは借し主が困るだけの話で、都合で、責任です。
本来借し主が負うリスクであり責任です。
それが貸し主が困るという一事だけで、連帯保証なる新たな何の根拠も無い制度が超古代に創り出されました。
これは悪しき風習です。
何故なら、これは借りてもいない人から借財を取り立てる、訳のわからないトンデモ制度だから。
…意味が分からない。
今回、アナスタシアは、このトンデモ制度にも署名すらしていない無関係の立場です。
借し主はアナスタシアに自分の責任を負わせているだけ。
アナスタシアには本来全く関係無い話しなのに?
返して欲しければ貸し主が、叔父さんを自ら探して回収すれば良いだけの話しです。
だから、もし困った事があったら僕に言って下さいね。
あなたの敵は私の敵です。
無理強いされたり、相手に都合の良い理屈、利率を押し付けられたら、それに従う謂れはない。
従う謂れは無いのだ。
何故なら、それらは全て貸し主に都合の良い制度だから。
それを強制するならば、こちらの都合も相手に押し付けても構わないという許可証を相手から得るに等しいと、僕は考えます。
複利計算?
連帯保証人?
商人側に都合の良い理屈を押し付けるならば、こちらは礼を持って返しましょう。
大丈夫です。この際、……しましょう。
押し付けるならば、相手にもその覚悟はあるのでしょう?
(うんうん…この世界は実力主義です。商人の理屈が当たり前に横行していた前世の世界ではありません。生半可な実力と覚悟の無い理屈は潰すべき。自分の都合を相手に押し付けるからには相手にも相応のリスクを負ってもらわなければ。)
その様な論を、アナスタシアと貸し主の商人の前で話して、僕はアナスタシアを説得した。
対象は目前にいるので処理は一瞬で済む。
なのに実行せず説得したのは、アナスタシアの自由な意思を尊重したのだ。
アナスタシアと僕は、もはや一心同体。
我らに鎖を付け自由を奪わんと目論む不届き者には、相応の罰を与えなければならない…いや、与えるべきです。
僕であれば、まず拒否するし、それでも五月蝿いならば、叩き潰します。
でも、結局アナスタシアに断られた。
「アールグレイ様、これなる商人はクス家御用達の商人です。長らくクス家を信用して便宜を図ってくれました。だから信には信を持って応えたいのです。ですので今回は私にお任せ下さいませ。」
アナスタシアの言葉に、青い顔していた商人がホッとした息をついた。
そお?
でも、アナスタシア、気が変わったら、いつでも言ってね。
…珈琲の香りが素晴らしい。
お腹が空きました。
今日はお休みです。即ち自由!
素晴らしい…今日は何をしようかな?
まずは、ムクリと起き上がったペンペン様に朝ご飯を作らなくては…。
僕は珈琲を一口飲んだ。少し苦いです。