噂
護衛は、今日も含めて一週間。
外出時はキノコ、ギャルさん、僕で3人の護衛態勢。
邸宅に戻ってからの就寝、翌朝の外出までは、僕とギャルさんの二交代だ。つまり夜間は隔日で自宅に戻れるのだ。
今日は、早速車で外出らしい。
有力貴族のお茶会に出席だ。
キノコ…名は確かクラッチ、いやクラッシック、あー、クラッシュさんだ。
忘れないように、心の中で呼ぶときは、ココナッツを頭に冠しよう。ココナッツクラッシュ。
「殿下を守る上で、クラッシュさんとギャルさんの得意な武術とか、魔法とか教えていただけますか。ちなみに私は、風魔法でしたら少しだけですけど自信あります。時間さえあれば防御魔法も使えます。体術、剣闘術は少しかじった程度ですので後衛、良くて中衛タイプです。できればバリバリの前衛タイプとは相対したくはありません。」
正直に自分の情報を開示する。
無理は禁物なのだ。この世界、少しの無理が死に直結する。僕は絶対に自分をもったりはしない。
クラッシュさんが、ホーッと意外そうな顔をした。
いったい僕の噂から、どんな僕像を想像してたのだろうか。クラッシュさんが喋りだす。
「私は、昔、騎士団に在籍しておりましたので、剣、槍、拳闘、などはソコソコやります。魔法は回復魔法を嗜んでおりますので、怪我した際はお申し付けください。」
おー、キノコなのに中々。だがきっとキノコさんは貴族の次男、三男で、将来の為、親にに無理矢理騎士団に入れられ、イジメに会い、しごきに耐えられず教会に逃げて坊さんになったに違いない。そこでも修行に耐えられず、本家に泣きついて殿下の側用人になったに違いあるまい。うんうん、その身体つきを見れば分かるよ。見栄を張らなくとも大丈夫だから。(偏見と推測)
うんうん頷いていると、殿下から訂正が入った。
「お姉様、クラッシュ叔父様は、今でこそ私の執事のような真似をしていますが、元は銀狼騎士団で強さだけで副団長まで上り詰めた方です。二つ名は暁の殲滅者、単独で他都市の騎士団と一昼夜戦い続け全滅させたほどの強者です。
あまりにも人を殺めたことで、僧籍に入ることを決意し、何もかも財産を寄付し、教会に入り修練を積み、僧兵のトップにまで上り詰め、高度な回復魔法を自分に使うことで、倒しても倒しても立ち上がる、漆黒の不死明王と異名がついたほどの者ですから心配は無用ですよ。この度は私の心配をしてくれて駆けつけてきてくれたのです。」
え、まじですか、それって世間に疎い私でも知ってる話ですよ。有名です。
殲滅者といったら、一騎当千の強者で敵対した者はすべからく殲滅して生き残りがいないことから、実態が掴めない都市伝説レベルの人だ。あと殿下は漆黒の不死明王と言っていたが、正確には、漆黒の不死魔王だ。こちらは剣で刺されようが銃で撃たれようが死なない黒衣の死神扱いされてる武人で、極悪人の前に顕現し、高笑いしながら雑巾の様に絞り殺すとか自分の身の丈以上の極太の刀で、頭から尻まで真っ二つに切り裂くとか、あまりにも嘘っぽい話しからか、こちらも都市伝説化している。
あー、伝説は本当だったのか。
「いえいえ殿下、それは現役の頃の話が大袈裟に伝わっただけですから。拙僧は今では神への祈りに日々を費やしておりますから、現役の方々と比べられては困ります。」
うん、うん、そうだよね。噂っておおげさに伝わってしまうんだよね。分かるよ。僕もそうだもの。
いやぁ、親近感湧いちゃうなぁ。きっと今がクラッシュさんのスローライフなんだろうなぁ。
姪扱いの子を世話して過ごす日々。
そんな片時の幸せを邪魔するとは許せないよね。
「アールちゃん、私はね、クラッシュ様とは程遠いほど実力は無いけど、前衛で剣も体術も修行を積んでるから、魔法も増強系と放出系なら出来るから、アールちゃんも守るからね。」
ギャルさんみたいな、普通の常識人と話すと何やらホッとする。なんか言葉の端々に、思いやりとか、善なる思考が溢れ染まっているようで好き。
思わずギャルさんの方を向いて、ありがとう。と言うと、ギャルさんは、ウッと言って俯いてしまった。
きっと照れてるのだろう。良い人だ。
周りで、殿下も 「ウッ…尊い。」とか言って胸を抑えたり、クラッシュさんも「なんと…。おお神よ、お赦しください。」などと呟いていたので、皆ギャルさんの善性に感銘を受けたのかもしれない。




