ダルジャン・ブルーと相談
赤龍の喉元の逆鱗を槍で刺し貫き、少尉殿から教えを受けた白家神道の[白雷]を槍に通して赤龍を内から雷炎で燃やし尽くす。
少尉殿は、この技を私がアッサリと修得し才能あるかのように言うが実は違う。
修行した際に神意が漏れ聞こえたのだ。
(まあ、アルちゃんの紹介ならばサービスしちゃうわ。アルちゃんを護ってあげてね。このことは秘密よ。)
なんと!少尉殿は神に護られている。…人徳甚だしい。
(元より承知である。少尉殿は必ず私がお護り通します。)
間髪入れず自信を持って返答したら、落雷に打たれた感覚と共に自然と修得していた。
だから、私の才能ではなく少尉殿の人徳故なのだが、神様との約束だから少尉殿には秘密である。
赤龍が白炎に燃え上がり浄化されているのが分かる。
憑依していた怨霊の類いであろう怨叉の声が聞こえる気がするが、いやいや、合理的に考えれば、きっと御礼の声であろう。
感謝の調べであるか…そう思うとパチパチと爆ぜる音も心地良い。
残念ながら私は少尉殿より音感が悪い…霊の声は僅かに聞こえるような気がする程度なのだ。
少尉殿の隣りに並び立ち、燃える白き炎を見つめる。
…
しばらくすると、炎のエレメンタルが小龍の形をとって出てきました。
少しビックリ。
小蛇に一対の翼を持った赤と橙の半透明の炎の身体を持って、宙に浮かんでいる。
その瞳は叡智に満ちている。
明らかに善性を持ったエレメンタルである。
炎龍の説明を聞く。
…なるほど。怪異・腐魂が龍の形を取ったのは、この炎龍に憑依したせいであったのか。
炎龍と少尉殿との遣り取りで少尉殿が炎を食す話しになる。
いけません。
神意の御言葉を思い返す。
少尉殿を護らなくては!
私は、咄嗟に毒見役と称して炎を吸い込む。
私がこれで死ぬことがあったとしても、少尉殿が救ける事が出来れば本望です。
一瞬身体中が燃え尽くされたと錯覚するほどの熱さが席巻する。思わず片膝を着く。
少尉殿が心配して私の名を呼ぶ声がする。
少尉殿は私が死んだら泣いてくれるだろうか…?
ふふ…きっと泣いてくれるだろう。多分大泣きだ。
本望である。
熱さは一瞬で過ぎ去った。
馴染んで五感に作用する。
美味しい…メチャクチャ美味しい旨味を感じる。
炎が身体を巡る感覚を脳内変換して味として感じる。
炎なのに凄烈なアイスクリームの味がする清涼さと甘味が半端ないほどの旨味です。
思わず、美味しいと言い漏らす。
私の言葉に、少尉殿は一瞬だけ逡巡するも、炎を吸い込んだ。私よりも大量の炎が少尉殿のお口に集束して入りこむ。
少尉殿の目が白黒した。
少尉殿の果断さに危うさを感じると共に、私を信じてくれた上でのその行動を嬉しく思う。
…
全てが終わった…依頼は達成された。
私は、そう思ったが、アナスタシア准尉から相談を受けた。
アナスタシア准尉は、今回の依頼人であり、騎士団の実質的な設立者である。
依頼人は完了しても尊重しなければならない。
そのお顔は赤龍を倒した直後の朗らかな顔ではない。
「ダルジャン准尉、あなたに折り入って相談があるのです。まずは、今回貴女達のお陰で赤龍討伐は達成されました。ありがとうございました。」
アナスタシア准尉が頭を下げる。
いえいえ、どう致しまして。仕事ですから。
御礼すら言わない依頼者もいるので、好感は持てる。
礼儀は人徳のバロメーターであるからに。
まあ当然次に本題が来るのでしょうね。
アナスタシア准尉は、騎士団設立の経緯を、自分の生い立ちまでも赤裸々に語りだした。
ちょっと待って、重い、重過ぎる話しです。
そんな話しを初対面の私に話して良いの?
アナスタシア准尉は経緯を全部語り終えるとスッキリとした顔で、団員は、アールグレイ少尉を救世主の如く、自分らの団長として認めている。…認めてしまった。もし少尉がいなくなれば今度こそ騎士団は瓦解するでしょうと私に告げる。
そして黙ってしまった。
ここは設置した大テントの裏側です。
表側では、老騎士らや従士達が夕食の準備をしている。
時折り笑い声や、少尉殿を嬉しげな声で団長呼ばわりする声が聞こえて来る。
あれ?何で私、ここにいるのだろう?
アナスタシア准尉を少し恨む。
何故私に言うの?
少尉殿に直接相談すればよいのでは?
そう聞くと、本来騎士団内の話しで少尉殿には関係無い話し、にも関わらず騎士団にとって少尉殿は最重要人物になってしまった。この場合、当人に相談しても困惑するだけで解決はしないと語る。
確かに一理ある。
つまり私に解決策を考えて欲しいとのことか…。
まず、解決策を一緒に考えて提示するのは構わない。
アナスタシア准尉は優良の依頼人に入る。
協力するのに藪坂ではない。
更に解決策は少尉殿や私の損になってはならぬ。
そして策は私が提示しても、その覚悟や行動はアナスタシア准尉が全部実施してもらわなくてはならない。
それが最低限の条件。
これだけの難しい案件を初対面の私に無料で相談するのだ。
全部呑んで貰いたい旨を話す。
アナスタシア准尉は真剣な顔付きで了承した。
その覚悟は良し!
私は、たった今思いついた策を話す。
もちろん練り込んでないから穴だらけだ。
話してるうちにアナスタシア准尉が息を呑む音が聞こえた。
だが、私が思いついた策である、その覚悟の厳しさは少尉殿好みである。
きっと責任を尊重する少尉殿ならば無碍にはしないだろう。
アナスタシア准尉は即断で覚悟を決めた。
先祖に懸けて実行すると誓う。
よし…ならば、この時をもってアナスタシア准尉は仲間である。
さて、すると、この後が問題だ。
少尉殿の気質は、自由を尊ぶ。
あんまり束縛すると、逃げる気がする…フラッと居なくなる気がして怖い。
これは、慎重に考えなければならない。
今度は、私が少尉殿の事をアナスタシア准尉に話す番だ。
私の信じられない驚きの話しに准尉が息を呑む。
この後、アナスタシア准尉と二人して計画を練った。
もちろん、これは全部少尉殿の為なのは言うまでもない。