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アールグレイの日常  作者: さくら
赤龍討伐
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破・赤龍討伐戦(肆)

 赤龍は討伐された。

 その正体は、炎龍に、数万単位の悪霊の如く怪異、腐魂が取り憑いたものだった。

 龍ならざる偽物の龍、贋龍であった。


 人類が生み出した汚物である。


 腐魂とは、自ら創り出した、又は歪めて利用した想念、概念に取り込まれた魂の慣れの果てである。

 最初は、概念を利用して他者に強制したり、騙したり、主張したりしただけだった。

 しかし想念、概念は創り出した者、利用した者に癒着する習性がある。

 それが悪想念ならば腫瘍のようにその魂と一対になるのだ。

 

 概念を歪めて利用する魂は、逆に歪めた概念からも縋り付かれる。

 そうなった魂は輪廻の輪から外れて、腐れた魂となり地上を永遠に彷徨うしかない。


 更にいつしかその主客関係が逆転する。

 腐れた魂を苗床に悪想念、歪まされた概念が成長し、または、他の腐魂や悪霊と自然霊と混ざり合い半物質化する。

 人魂を発祥とした人類の敵、怪異の誕生である。


 現在、地上を彷徨う腐魂、怪異は、文明崩壊以前の爛熟の腐れた社会に発生したものが大半だから、およそ5000年以上、あの醜い姿で地上を彷徨っていることになる。

 地上を無限に近い時間彷徨いながら、悪想念に喰われながらその魂は、何を思っていたのだろうか…。

 自然現象とはいえ、なんたる罪禍なのか。



 今、その数万もの悪霊、腐魂、怪異が白炎に燃えて消滅していく。何万もの苦しむ悲鳴が聞こえる。


 でも…何を思うことは無い。


 自業自得という言葉が擦り切れるほどに、これは当たり前のことだ。

 自ら為した決断、行動の結果なんだ。

 因果応報…返ってくる、必ず帰ってくる。

 分かってはいたけど、数千年以上懸けてリターンした結果を、僕は目の当たりにしている。

 これで本当の最後だ。…この先はない。


 本当に大迷惑な話しだ。

 自分のやりたい放題して、最後の最後まで迷惑をかけ通し。

 まさに人類が生み出した汚物…救えない話しである。

 なんて愚かな…。


 だから…汚物が迷惑を掛けた詫びと…炎のエレメンタルの馳走のお礼の為に、炎龍に対して僕は合掌してるだけ。

 …別にコイツらの為に祈っているわけではない。

 


 …



 そろそろ夜の帷が落ちる。


 これにて契約は終了である。

 だって僕らは依頼を果たしたから。




 撤退避難したアナさん達が戻ってきた。


 僕らは、民の為に、全員で悪龍を倒したドラゴンバスターだ。依頼、任務、派遣、皆それぞれの事情がありながら、ここに集い命を賭けて悪龍を退治した勇者達。

 皆んなの顔を見渡せば、ボロボロで土と汗にまみれている汚い姿だ。

 しかも、本当の龍でもなかった。その正体は、ただの下劣な怪異の集合体である。

 ならばドラゴンバスターの名誉も返上であるから、彼らには何も残らない。ただのくたびれ損である。まったく割に合わない話しだ。

 だが、彼らが龍退治に来なければ、当然アナさんがギルドに依頼することもなかったろうし、赤龍は退治されずに更なる害悪を撒き散らしたに違いない。

 誰かがやらねばならなかった。


 世の中には、全く得にならないのに火中の栗を拾う役どころの人達がいる。

 …人々は、その人達のことを崇敬の念を持って、勇者と呼ぶ。まさに腐魂、怪異とは対極の存在だ。

 僕の周りに集まった面々を見ていれば、どいつもこいつも憔悴した冴えない顔つきをしている。

 土砂にまみれてボロボロのズタボロだ。


 うん、これは…ないな。

 僕は人類の代表ではないけど、彼らは賞賛されてしかるべきだ。少しは激励してやろう。

 「見ての通り、当騎士団の力を持って赤龍は退治された。その正体は何万もの怪異の集合体であったが、諸君らの活躍により囚われていた炎のエレメンタルも解放された。諸君らには、もしかしたら御礼に加護がついたかもしれないぞ。」

 ここで僕は、アナさんを始め彼らを見渡す。


 僕の言葉に騎士団の面々が自分の身体のアチコチを触っている。

 よく見ると、彼らの身体の一部に点のような炎色が見える。

 え!…本当に加護が付いてるの?

 腐魂に迷惑かけられたのに、人に非ざる炎龍が感謝してくれたの?自然精霊が加護をくれるなんてそうそうないよ。

 だとしたら、ほんにありがたいことです。


 「ところで、アナスタシア准尉、定時より多少過ぎましたから残業ですよね。この時間では都市には帰れませんし。…ドラゴンステーキも食べれませんでした。であるならば残業代として、騎士団で夕食を馳走されたとしても薮坂ではありませんが。ついでに騎士団のテントで寝さして下さい。僕ら依頼は完了しましたし。」

 この実力至上主義世界では多少図々しいほうが、相手も安心するのだ。

 僕自身は奥ゆかしい性格なので、もちろん演技です。


 「ははは、違いないや、わしも腹へったわい。」

 「あんた、たいしたもんじゃのう。」

 「准尉殿、飯にしようや。」

 「いやはや、疲れたのう、酒が飲みたいぞ。」

 僕の言葉に、それぞれがワイワイガヤガヤ言い出し始めた。


 アナさんは、泣き笑いのような顔をしている。

 僕の方にツカツカと近づいて来ると、僕をジッと凝視した。

 

 え、…ちょっと図々しいかったかな?


 ドギマギしてると、アナさんは僕の手を両手でギュッと握り締めた。

 そして踵を返すと元気一杯に、爺様達らにキビキビと指示し始めた。

 「さあ、今日は無礼講よ、任務達成のお祝いです。ありったけの食糧を出しなさい。お酒も解禁です。但し、結界とテントは先に張りなさいよ!」







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