美少女
頭が揺れるキノコさんに案内される。
庭に面した一面がガラス張りの、日光が燦々と降り注ぐ広い部屋に通された。
既に部屋には、10歳位の貴族の子と分かる見目良い子が一人窓際で佇んでいた。
凛とした静かな佇まい…ただ立っているだけで一枚の名画のようです。
横顔しか見えないけど、可愛い事が一目で分かった。
その小さい身体に、上品さと威厳と可愛さがバランスよく成り立っている。
それは、庶民とは一線を画する貴族の雰囲気。
ああ、きっと、この子がキャンブリック殿下に違いあるまい。
キャンブリック殿下は、茶髪を肩まで伸ばした、色白の少女の様な見た目でした。
事前情報で10歳の少年であることを知らなかったら、きっと性別を間違えたかもしれない。
「殿下、テンペスト殿をお連れしましたぞ。」
キノコさんの言葉に、窓から外を眺めていた殿下が、振り向いて、僕を見つめる。
僕の方も、殿下を真正面から見る事が出来た。
窓辺から陽が差し込む部屋で、互いにに見つめ合うこと数十秒間。
おお、これは、なんていうか…真正面からマジマジ見ると、美少女としか思えないわ。
ちいさくて儚げで可憐な美少女です。
成長したら、男どもが放っておかないはずだ…て、男の子ってあらかじめ聞いてたんだけどなぁ。
ズボンは履いてるけど…元来、男と女は骨格からして違うので、間違いなく殿下は女の子だ。
全く美少女は見ていて飽きません。
殿下は殿下で、僕の方を見て驚いた顔をしている。
「えっ、テンペスト様って女性の方だったんですか。噂で聞いた話しから、私てっきり…。」
そう、実は殿下のおっしゃる通り、今世の僕の性別は女性です。
女性の身体を持って生まれてしまったことに不満は無い。
慣れ親しんだ男でなかったのは少し残念だが、元々二分の一の確率だし仕方無しと思う。
女性の不利な点は、体力は劣るし、背は伸びない、純粋に体力だけで男と勝負したら負けるだろうし、しかも月一で体調が悪くなるくらい。
この時ばかりは神様に愚痴を言うほど最悪な気分になるけれど。
しかしながら、両性を経験し比較できる僕から言わせると総合的に女性の方がスペックが高い。
特に内なる分野が高い。知覚力、記憶力、直感力、感情が実にスムーズに連動、連結、表出している感がある。
今では男の時は世界が霞が掛かっていたかのような、血管が詰まったかの印象さえある。
とにかく明瞭なのだ。
体力等の身体的スペックが多少劣ったとしても、このアベレージは高い。特に魔法に関しては女性に一日の長があるかもしれない…が、ここで、少し思い直す。
いやいや、これは個別のスペックかもしれない…前世より今世の方が、単純にスペックが高い可能性がある。
とにかく検証材料が少な過ぎる。
2人だけでは断定はできないなぁ。
…
「良かった、私、てっきり、噂から野蛮な男だと思って心配してましたの。それがこんなに可憐な…。」
殿下は、僕にシズシズ近寄ると、僕の手を恥ずかしそうに取り、薄らと顔を赤らめて、こうおっしゃった。
「お姉様と呼んでよろしいですか?」
僕の目が丸くなる。
少し驚いたのだ。
…やりますね、キャン殿下。
この感性て貴族だから?
「…殿下の仰せのままに。」
無視では失礼だから適当に返事しておく。
あれから、殿下からお姉様呼ばわりされながら、事情説明を受けた。
自分が女性であることは公然の秘密であり、身内は皆分かっていることではあるが、アッサム家は男子相続の伝統があり、弟が生まれるまでの代わりであること。
殿下の役割は、アッサム家嫡男代理として外交と伝統行事に従事することだが、この春待望の男子が生まれる予定なので任務解除の日は近いとか。
それを感情豊かに語る殿下は、表情がコロコロ変わり、最初の印象を裏切っている。
まったく都合よく利用されてやんなっちゃうわ。などと頬を膨らませ、足をバタつかせる姿は、ちょっとおませでヤンチャな女の子だ。
しかしながら、初対面の一護衛に、こんなに砕けた態度で良いのだろうか。
多分、駄目なんだろう。
その証拠に、先程からキノコさんが、ゴホンゴホンと咳をしている。
そして、殿下はスキンシップが激しい。
手を握ったり、抱きついたりしてくる。
今は、横に座ることを指定されて超密着されている。
うーん、両親と離れてるから寂しいのかな?
よく小さい子がぬいぐるみを抱きしめるような感覚なのかもしれない。
側に控えていたギャルさんからは、「殿下ズルイっす。」などの言葉が漏れている。
僕の任務を、直接護衛対象者から聞いたところによると殿下の直近の護衛役は、なんとギャルさん一人だけらしい。
無論、施設や沿道にも護衛は配置されているものの、直近護衛は一人だけ。
…無理があるでしょうに。
特に外に出る時に一人では無理ありありでしょうに。
でも何度も申請しても却下はされないものの、調整中なのでしばらく待つようにとの回答ばかり。
今回の都市旅行は名目で、有力な家と友好関係を築くのが真の目的だと聞かされました。
それなのに護衛が一人だけでは心元無かったらしい。
更に昨日殿下は襲われ掛けたらしいのだ。
ギャルさんと、偶然居合わせたギルド員が一致協力して撃退したらしいけど。
事が終わった後、事情を聞いたギルド員が、ギルドを紹介してくれたらしい。当ギルドには、護衛にうってつけの凄腕のギルド員がいると、名前はテンペスト…。
こらー!
誰だー勝手に僕を指定するよう紹介したのはー?
どうりで腹黒受付嬢が強引に依頼を受注させるわけだ。
ほぼ指名依頼だったわけだ。
殿下からは、できればテンペスト様でお願いしたいとの希望を出されたらしい。
アッサム辺境伯爵家のお願い依頼を、ギルドが断れるはずがない。