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アールグレイの日常  作者: さくら
赤龍討伐
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破・赤龍討伐戦(参)

 ジャンヌの槍が赤龍の喉元を貫いた。

 断末魔の叫びが辺りに響き渡る。



 ああ…夕映えが目にしみます。

 僕、何だかお腹空きました。


 ふっ…溜め息をつく。


 ドラゴンは最強の魔法生物であるから、弱点を突かれた程度では死にはしない。

 現に傷つけた赤龍の足首は既に自然治癒している。

 ならば全身を燃やすなどして灰にすれば良かろうかとも思うが、赤龍とは炎の龍であるから、今回は無理。


 もう、何だか面倒くさい。


 それにつけてもドラゴンは割とエレメンタルな生き物なのに、この様に他人様の牛豚を盗み喰らいて悪意かつ悪知恵を働きそうな面相をしてるドラゴンもいかがなものか。

 …見た目も美味しくなさそうですし。

 …食べたら食当たりしそう。

 煮ても焼いても食えないとは、まさにこのこと。

 このドラゴン良いとこ無しです。

 ドラゴンステーキは諦めるしかない…残念無念。


 いっそ百八つにバラバラにして埋めてやろうかとも考えた。


 …いや待てよ。

 どうにもこのドラゴンの外形の印象は、見覚えがある。

 何故か分からないけど黒山羊様が憑依していた怪異の集合体に見た目が似ている気がします。

 これってもしかして…もしかする?


 …だとしたら清浄なる気に弱いかもしれない。

 何でも試すのが僕の方針ですから。

 「ジャンヌ、神気を流してみて。」

 「心得ました。」

 ジャンヌは快諾すると赤龍の首の上に乗ったまま、槍を逆鱗の位置から深く突き出して、瞼を閉じてムニャムニャ言い出し始めた。


 …


 ジャンヌには神術の素養があると感じたので、ハクバ山探索の折り、白家神道の技を何手か教えこんである。

 案の定、ジャンヌは独自感はあるものの即時に覚えてしまった。

 苦労して覚えた技を見せて、少しコツを伝授しただけで習得されるとは複雑な心境だけれども、僕の目に狂いは無かったのが証明されて嬉しいです…うんうん。


 それにしても天性の素質って…本当にあるんですよね。


 僕は既に、素質云々に関しては諦めモードなので、何事に対しても自分には最初から素質無いものと決め付けている。

 何を挑戦するにしても、「オマエさん素質ないのう。」と何度も言われれば達観した境地にもなるもの。


 そんなジャンヌの得意技は…

 「白雷!」

 ジャンヌが眼を見開き、神術名を唱える。

 槍が避雷針の代わりとなりて天からの白雷を呼び寄せて白色に輝く。

 神気が雷の形を取り、槍を伝導して赤龍の内部を浄化していく。

 赤龍の皮膚の隙間から白色の輝きが漏れ光り、眼窩からも白雷が漏れ火花を散らしている。

 よく見ると純粋な真白ではなく、ほんの僅かに透明な黄金色の火花が散っていると分かる。

 多分、この金色がジャンヌ自身のカラーなのであろう。

 赤龍は、ピクリと身体を一瞬だけ震わせると動かなくなった。

 そして、その姿が白い焔に消されていく。


 ジャンヌは雷と相性が良いらしい。

 僕自身は白雷をそんなに使わないけど覚えといて良かった。


 ジャンヌが赤龍の首から槍を引き抜き、飛び降りて僕の横に並ぶ。


 赤龍を構成していた、おそらく何万匹もの怪異や腐魂が白き炎に浄化されて消えていく。

 何万の苦しみの叫び声が、炎の揺らめきの狭間から漏れ聞こえて来る。

 うわ…食べなくて正解です。

 うん…この赤龍、悪想念の塊でした。

 尚更、ステーキは無理ですね。


 悪想念の塊であるコレらからしてみれば白き清浄なる炎は生きたまま焼かれる地獄の炎に感じているかもしれない。


 でも…僕は可哀想とは思わない。


 このような結末を引き寄せたのはコレらが人であった際の決断と行動の結果であるから…だから、目前に展開されている地獄絵図は当然の帰結である自然現象であると思う。

 コレらは生きてる時から人たる資格は無かった…自らの私利私欲の為に他者を騙し貶め蔑ろにした人生はさぞや満足するものだったろう。

 それは他者の犠牲の上に成り立つ狡。

 それは罪禍を積むような人生。

 そんな私利私欲にまみれた行く末だから腐魂や怪異に成り下がったのであろう。


 しかも成り下がった後でさえ、このように人様に迷惑を掛ける始末。

 …永遠に消滅するのがコレの為、皆の為、世界の為なのです。


 しかし、コレらは何故に赤龍になったのか?

 燃え盛る白い炎を見上げながら、ふと疑問に思った。

 でも、その疑問の答えは直ぐに分かりました。


 立ち昇る炎から、ヒョッコリ顔を覗かしている小龍がいたから。

 んん…?

 身体が赤色透明の炎で出来ていて蛇のように長い。

 その龍は、物質ではなく揺らめいて一対の翼をはためかせて目前に浮いていた。

 しかも、その眼には叡智の輝きを放っている。


 あう…これでは二重の意味で食べられない…またもドラゴンステーキはお預けです。


 (人の子よ、感謝します。私は炎を掌るエレメンタル…何万もの悪霊に不覚を取りました。助けてくれたお礼を差し上げましょう。願い事はありますか?)

 小龍から熱波のように話さずとも念が伝わってきた。

 ん…どうやらジャンヌだけでなく僕にも言ってるみたい。

 だとしたら、僕、ドラゴンステーキが食べたいな…。


 (月の御子よ、…それは無理です。…当代の月の御子は食いしん坊さんですね。でも、…そんなに食べたいのであれば試しに私を吸い込んでみなさい。貴方ならば炎に焼かれずにいられるでしょう。)

 「しからば、私が毒見役をしましょう。」

 そう言ってジャンヌが小龍に近づき息を吸い込んだ。

 これには小龍もギョッとしたようだ。

 炎が棚引いて、ほんの極一部がジャンヌの唇の中へ吸い込まれたように見えた。


 「うっ…。」

 呻くように言葉にならない声を発するとジャンヌは片膝を着いたまま俯いて動かなくなった。

 「ジャ、ジャンヌ…?」


 「う、美味い…です…少尉殿!」

 キラキラと瞳を輝かせて顔を上向くジャンヌ。

 

 う、嘘!…本当?

 むむ…何事も試すのが信条なれど、ジャンヌのことは信じているけども…炎って美味しいの?

 いや、これは炎に仮想してる一種の高エネルギー体。

 もしかしたら、人体における水に近い概念なのかもしれない。

 口をすぼめて、息を吸い込む。

 すると小龍の尻尾からオレンジとレッドが混じり合った透過した炎が大きく猛り巻き込み、僕の口中に集束していく。

 …ゴクン。


 本当だ。美味しい。

 甘酸っぱいのに(ラー)の旨みが体内に溢れるです。


 体内を炎が流れ循環していると感じる。


 吸収した炎を味に脳内変換してるのか、旨みを流れている全身から感じるのだ。

 堪能する…酢豚の味が一番近いかもしれない。


 (んん…あなた方が私を求めたように、私の一部は、あなた方を選びました。以後、共生してあなた方の一部となり、融合して、最後まで、あなた方と運命を共にするでしょう。…それと私を助けた勇者の仲間にも幸あらんことを。さらばです。)


 小龍から飛び火した炎が燃えあがりて、アチラコチラにロケットミサイルのように飛んで行った。


 部隊が撤退して行った先から、キャーだの、痛いだの、アチチーだの人声が聞こえた気がする。

 

 小龍は、上空に一旦上昇し、タンザニア山系方向へ、別れを惜しむように一声鳴くと飛んで行った。


 「ご馳走様でした。」

 僕は、小龍が飛んで行った方向に向けて合掌した。

 ああ…白いご飯と味噌汁が欲しいです。



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