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アールグレイの日常  作者: さくら
赤龍討伐
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フォーチュンクエスト3

 以来、未だにアプル・モーニン・フォーチュンを名乗っている俺は、AFCに入会して少尉殿の写真を愛でたり、設立準備間近の(仮)アールグレイ騎士団に、目立たぬようレイやクールに声を掛けて一緒に潜り込んだりした。

 …ルフナの大将はとっくに入り込んでいた。


 はっきり言って神霊の類いと日常交流するのは、俺にとってはハードル高く、本当は畏れ多いので、敬して遠ざけたい。

 しかしながら、どうやら少尉殿は身内にはメチャクチャ甘いと分かった。

 少尉殿に限り、下手に遠ざけるよりも身近にいる方が安全圏なのだ。

 呼び方も皆んなに合わせ、少尉殿と呼ぶことにした。

 うっかり[暴風(テンペスト)]とは呼べないからな。


 俺はプロだから任務ならばキッチリやるぜ。

 子供の時から、この仕事しかしてないし、既にこの歳でベテランだ。


 自然と鼻歌を鳴らしていることに気づき、俺はこの仕事を楽しんでいることに気がついた。

 いやはや、油断してはいけない。


 過去の親しくなった同僚の末路を思い浮かべる。


 いつでも、不幸は幸運の後にやってくるのだ。

 だから、今は幸運であってはならない。

 俺は幸せになっちゃいけないのだ。



 …



 交代で、遠隔から少尉殿の護衛に当たった。

 これ必要なのかと思わないわけでもないが、少尉殿には敵が多いらしい。

 …俺が言うのもなんだが、確かにそうだ。

 人跡未踏のハクバ山とは違い、確かに少尉殿は見張られている。少なくとも常時20組は引き連れている。…ウザイ。

 もっとも、かなり遠巻きに見ている感じだ。


 それにしても、少尉殿の察知力には畏れいる。

 100m圏内に入ると確実に察知されたと分かる。

 こんな人、今まで見たことない。

 少尉殿を見張る多くの監視網は1km圏外からだ。きっと長年の少尉殿を監視した結果の位置どりであろう。

 俺も、それに習う。

 何事も先人には従う方が効率的である。


 目立つ金髪を頭巾で隠す。

 マスク、サングラスで覆面。全身黒尽くめだ。

 ライフル銃にスコープをセットする。

 見つかったら怪しさ大爆発な格好だが、身バレするよりかはマシである。それに見つから無ければ良い。

 景色に溶け込むのだ。

 カメレオンのように。

 気配も消す。息を殺す。思考しない。

 存在感を消すのだ。



 …



 それは三巡目の護衛の際だった。

 

 スコープ越しに少尉殿の可愛い身姿を覗きこみ、今日も少尉殿は可愛いなうとポカポカとした気持ちになりながら、ハッとした。

 これって、傍目から見たら年頃の女の子を付け回して覗きをしている変態じゃん。まるでストーカーだ。

 いやいや、違う、仕事だ。

 そう思いつつも、今までの仕事と違い、楽しんで少尉殿を監視している自分を否定は出来ない。

 いや、違う、何故ならば俺は変態ではない。


 どうも今までの仕事とは勝手が違う。


 少し考え込んで、これは先人に相談する方がよろしかろうと判断する。

 さっそく、ルフナの大将に電話して聞いてみた。

 ルフナ准尉とはハクバ山探索以来、業務連絡で割と話しをする仲だ。…なんてゆーか話し易いんだよな。

 話しているうちにルフナ准尉の機嫌が悪くなっていくのを感じた。何故だ?

 それでも、最後に、「それは正常な反応である。」と回答をくれた。よし、俺は正常だ。変態ではない。

 改めて少尉殿を付け回して覗き込む。


 む…今日の少尉殿は、些か体調が悪いのか?

 僅かなから反応が鈍い気がするな。…あの日か?いや違うな、早すぎる。うん…女の子はいろいろと大変だ。

 もっとも男にもバイオリズムはあり、最低の日は意識と身体が噛み合わず失敗が多い。身体が弱って風邪をひくこともある要注意の日だ。

 俺なんて計算して、その日はお休みにしている。

 まあ、今日の少尉殿は、少々調子が悪くてもダルジャン准尉を同伴しているから大丈夫であろう。


 



 …大丈夫じゃなかった。

 なんだありゃ?

 少尉殿達が20m級の赤龍と戦っている。

 1km離れた此処からでもデカいと分かる遜色さだ。

 後ろを振り返り、遥か先に聳え立つビルと大差ない。

 それが動いている。

 龍と遭遇するのは貴重だ。

 何故なら遭遇して生きて帰ってきた者が貴重だから。

 いくら龍でも1kmは圏外に違いないから俺は安全だ。


 ありゃ…重機や飛行部隊を含んだ軍隊の一個師団以上無ければ無理だな。なんちゃって騎士団では相手すらならないだろう。

 いくら少尉殿が強くても、これは分が悪い。

 ここは遭遇した時点で逃げの一手だが既に戦端が開いている。

 少尉殿でも判断を誤らせることがあるのだな。

 もっともいろいろと事情があるんだろう。


 だがやはり限界は来た。

 呪縛はこれ以上は無理だ。人の死傷が無いのが不思議なくらいだ。

 スコープ越しの向こうの少尉殿は、全身泥砂にまみれでボロボロになりながら、何か叫んでいた。

 読唇術で読み解く。

 テッタイダ…。


 やはり、少尉殿は素晴らしい。

 銃身に沿える手が震える。

 俺は今までの経験と知識から、撤退すべきときに撤退を決断できる指揮官は稀であることを知っている。

 それほどに戦いの最中に撤退を判断し、決断することは難しい。だから俺は指揮官の真価は引き際にあると思っている。

 図らずも少尉殿は、それを今証明した。


 少尉殿は、強く優しくだけでなく自分よりも部下の命を第一に考えてくれていることが、監視しているだけでフツフツと伝わって来るのだ。

 胸中がざわつく。

 身体の奥から震えが止まらない。

 なんなんだ…この気持ちは?


 今でもスコープ越しの向こうでは、部下の撤退を殿で見守る少尉殿がいる。

 この時俺は、ショコラ准尉が良く口にする尊いという言葉の意味が初めて分かった。


 こんな人は、何処にもいない…。


 赤龍の片脚が持ち上がる。

 マズイぞ。咄嗟にスコープを赤龍の顔に向けると、知的生命体特有の悪意ある醜悪な顔が映る。

 糞ったれめ!

 奴の足元にはダルジャン准尉、きっと少尉殿は救けに入る事だろう…。


 俺は、躊躇せず奴の醜悪な顔の右眼を狙い引き鉄を引いた。


 喰らえ!一弾50万イエンの特別性の爆裂鉄鋼弾だ…突き刺さって内部から大爆発する優れもの…大赤字だ…別の意味で泣きたくなるが後悔はない。


 硝煙の匂いが辺りを漂う。


 撃った瞬間に、この弾は着弾するであろうことが分かった。

 どうか間に合ってくれ。



 

 

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