フォーチュンクエスト2
俺の今回の任務の名はフォーチュン。
たしか、バター・クッキー・フォーチュンだったっけ?
身分証明書を見る。
ふむ…全然違ってた。
アプル・モーニン・フォーチュンだった。
約一週間だけの名前だからと適当に名付け過ぎた。
どうしてこの名前にしたんだっけ?
…
…たしか、フォーチュン元準男爵家の次男坊の設定だった。
もっともフォーチュンと言う名は、俺に全く関係ないわけではない。
ギルド暗部に始末された貴族の名がフォーチュンで、俺は気まぐれに、その現場からヤツに拾われたらしい。
ヤツに感謝していいのか、恨むのが普通なのか良く分からない。
俺のコードネームはヤツが付けた。
そうするとヤツは俺の名付け親になるな。
しかし[幸運]とは、笑ってしまう…なんつーギャグセンスか。
果たして、今まで生き抜いて来た俺は幸運なのか不運なのか、どっちであろう?
あ、思い出した…。
俺は林檎が好きだ。ある朝に朝食代わりに林檎を丸齧りしていたら、ヤツから新しい任務がきたんだ。
[暴風]抹殺指令。
ハクバ山探索任務に潜入しての抹殺任務である。
流石の俺も痺れたぜ…。
[暴風]は、表最強十本指に入るほどの強者。
噂が頭をよぎる。
通った後には、誰も立つものなし。
権力が通じぬ天邪鬼。
何もかも吹き飛ばす未だ無敗の化け物。
…どうやら俺の運も尽きたらしい。
殺すチャンスは一度しかない。
実力差がありすぎるから悟られたら終わりだ。
これが俺の最後の任務になることだろう。
だから、名前を何にするかと問われたとき、言っちまった。
フォーチュンにしてくれと。
嘘ばかりだった俺の人生も最後くらいは、本当の名前で死にたい。
…
しかし、奇想天外にも、またも俺は生き残っちまった。
任務も、途中から、殺さなくても構わないかもしれないとの妙な指令に変わった。…なんだそりゃ?
どうやら、上層部で政治的な駆け引きと圧力の均衡の結果、このような妙な指令内容に変わったらしい。
…胃が痛い。
ならば、俺は絶対に[暴風]には逆らわないようにしようと思った。
見た目にも度肝を抜かれたが、俺は中身に畏れを抱いた。
俺は呪を使うからか霊気を敏感に感じることができる。
一目見て、これはアカン…怒らしてはいけない存在だと分かった。
崇めて奉り、そっとしておくのが一番良いと思った。
御利益に触ってみたかったが、別れ際に握手してそれもかなった。おお、小さくて柔らかい…俺に対する慈しみの暖かい神気が流れ込んで来た。俺の煩悩が恥ずかしくて昇華するほどだ。
…最後に何か頼まれたような気がした。
あれは、多分、神霊の類いが地上に顕現したのであろうと思う。
手を合わせてみる。
俺は信心深いのさ。
だって、生き残るには最後には運によるからな。
それに、あんな畏ろしくも可愛い神様を、俺には到底殺すことなど出来やしない。