フォーチュンクエスト
「失敗したらしいな。」
第一声が、それだった。
おい、おい、殺すのが無理なら、今回は良いって話しだったじゃん。
だいたい表最強10本指の一角を殺しちゃっていいのかい?
それにありゃ、俺には無理だぜ。
俺の予感では、やったと思った瞬間に俺死ぬるぜ。
俺という資源の無駄遣いだし…[暴風]の恐ろしさは戦闘力だけじゃない。
あの見えない紐まで見ることができるような神霊なみの察知力…俺が手を出した途端に、[暴風]の手がアンタの首元まで伸びるぜ。
そしたら俺どころかあんたまで串刺しになって死ぬるでしょう。それでいいの?
だいたい[暴風]は、敵対した手先よりも黒幕に厳しいらしいぜ。
もしも、安易に俺が手をだして、脅威の察知力でアンタを見つけ出して、或る朝、アンタがこの部屋で108つにバラバラになってたり、ネジリン棒みたいなオブジェと化した姿を発見した時の俺の心的外傷はどうしてくれるの?
これは、親代わりのアンタへの恩返しの忠告なんだが、アンタが[暴風]を覗きこむ時、[暴風]もアンタを見つけていると思ったほうがいいぞ。
アレには手を出さない方が賢明だ。
敵対したら滅ぶぞ。
だいたい起きてる時は、絶対無理だし、寝てるときは女達が周りを囲んで守っているから、もっと無理っしょ。
俺も命が惜しいし、無駄死には御免だよ。
そもそもアンタ、直接対戦した俺の恐ろしい気持ち分かるかい?
急に目の前からバビューンと消えて、皆んなの視線が俺の真後ろに来てると気づいた俺のあの時の気持ちが分かるかい?
気配が無いのに、俺の真後ろに、いるんだぜ。
ゾーとしたぜ。
流石、表十本指の人差し指だ。ありゃ化け物だ。
敵対しちゃいけねえ。ダメダメ。
噂に聞いた話によると裏会の古老にも勝ったらしいじゃないか。聞いてたら絶対こんな依頼受けなかったぞ。
それにな…アレはまだ実力を見せていなかった。
一瞬だけアレの中を覗きこんだけど、底なし沼の暗闇を覗いた気分になってドン引きだよ。
遠間からの監視に留めておくべきだね。
着かず離れずの友好関係にしとくべきだな。
助けて貸しを作るのも悪く無い。
アレの見た目で判断して侮ると、痛い目を見るぞ。
とにかく俺はアレとは今後一生関わり合いになりたくないね。
以上、報告終わり。
(ふふん、これだけ盛っておけば、今後、暗部も手を出すことはないだろう。まあ本当の事を正直に話しただけだけどな。これでも俺は人情に厚いし、あんな良い女の子がやられるのは寝覚めが悪いし、勿体無い。まあ師を助けるのは弟子の務めだしな…他の奴らとは同期の絆もあるし…今思えば、悪くはなかった。もう会う事はないだろうが、元気でやれよ。)
俺の報告を受け、しばらくヤツは考え込んでいた。
ん?…嫌な予感がした。
こんな風にヤツが考え込んだ後は、いつも碌でも無い事を言い出す事を思い出した。
「…おめでとう。フォーチュン准尉。昇格だ。良かったな。給料が上がるぞ。」
は?…おいおい、まだそれするの?
そりゃ今回だけの役割じゃないんかい。
(しかも士官になっちゃってるし。レッドを演じるには実力不足だし…いや、[暴風]師匠のお陰で実力は上がった気はする…そこは感謝かな…二度と参加したくないが。)
「さて、[幸運]、今回の君の任務だか、[暴風]の味方になり、[暴風]を助けることだ。君の同期が主宰してる組織に潜り込み情報を報告すること。因みにこれはバレたとしても構わない。引き続き任務を続行すること。言わば[暴風]との繋ぎ役だな。君の活躍に期待している。くれぐれもワシがネジリン棒にならないように気をつけること。以上だ。」
え!…なんてこった。
薬が効き過ぎたらしい。
い、嫌ーーー!