激・赤龍討伐戦(捌)
ビルのようにそそり立つ赤龍が、紫色の糸に上下から巻かれて蠢いている。糸が張ち切れそうでミシミシといっている。
…暴れているね。
そりゃそうだ…誰であれ、龍であれ、自由を奪われれば抵抗するに決まっている。
だって、こちらの思惑や都合など赤龍には関係ないから、全部人間の都合によるもの…赤龍からしてみれば、なんたる理不尽。
僕が赤龍ならば人類を許さない…根絶やしにする。
少なくともトビラ都市は、根こそぎ壊滅にします。
僕ならば絶対そうする。
束縛が嫌いな僕だからこそ、今の赤龍の気持ちが分かるの
だ。
ここで赤龍を仕留めなければならない。
逃がせば必ず報復が来る。リターンだ。
放った呪いが破られれば返って来るに似ている。
だからこそ、報復される覚悟も無く自由を束縛してはいけないのだ。
赤龍が暴れている。
字面にすると8文字で収まる程度だけども、現状は酷い。
現場の大変さが少しでも伝わるように説明してみよう。
赤龍が吠えると音域を超えた波動が衝撃となり四方の空間を震わせ。もはや声のやり取りは不可能。辺りの樹々が衝撃で千切れ飛び、池の水が水滴に分解されてミスト状態、池が干上がりそう。
そして、天上に浮かぶ雲さえも千切れ飛び、消えていく。
従士達は、あらかじめ掘っていた塹壕に避難状態。
これもまた保険の一つ。
周期的に赤龍の口から吐かれる火炎放射器のようなブレスが厄介です。
あれは…当たればお終いと分かる程の勢い…超高温の指向性の波動砲。
前世でみた戦艦大和の宇宙船バージョンに出て来る波動砲の火焔型です。
当たった地面が、抉り取られるように溶けて無くなってますから、もし人に当たったら一瞬で存在が消えることでしょう。
乱発が出来ないのが幸いです。
赤龍も抵抗無く足首を斬られているわけでは無い。
地面が地震のように揺れるほどの地団駄を踏んでいる。
こ、これは震度6強を遥かに越えているよ。
舌を噛みそう。
ジャンヌは器用にも地面から離れて静止した一瞬を狙い斬りつけている。
あれは、拙くも連環駆動を発動していると見ました。
自分が考えた技を身につけて使ってくれると嬉しいかな。
大地に足を着けられないので、身体の回転力のみを槍に伝えることで切り付けているのだ。
斬りつける度に、辺りに血飛沫が舞います。
赤龍の地団駄で土煙りが漂い、視界が悪い。
アナさんが揺れる地面に転がりながら、時折り飛んでくるブレスを跳んで避けながら、両手で組む呪印は崩さずにいる。
アナさんは呪印が命綱であるのが分かっているのであろう。
もうその姿は僕と同じく黄砂に塗れてボロボロです。
眼鏡がまだ顔に引っ掛かっているのが不思議な程。
でも僕には呪縛は使えないので、リスクが高くともクス姉弟には呪縛の継続をこのまま頼むほかない。
上空を見れば、騎士ーズの爺様達がブレスが吹かれる度に右往左往しながら歪な円を何とか維持している。
僕の居る処には届いてないけど、きっと野次や愚痴を喚いていることだろう。
円の中心では、これまた空馬に乗った二ヤード君が呪印を組んでいる。
この姉弟の呪縛は、何としても維持してもらわなければならない。
もし赤龍が自由になり空から火焔波動砲を撃たれたら、もう手がつけられないことだろう。
周囲の自然の景観は破壊されて既にメチャクチャです。
そんな赤龍ビルの足元で地道に赤龍の足首を削りだしている僕とジャンヌ。
赤龍の皮の下一枚の先はコンクリート状の硬い骨に突き当たります。
コンクリートと形容してるが、ドラゴンの骨だから金剛石並みに硬いです。
それを金属製の武器を使って力と技と速さで斬って行くのだ。もはや戦っているのではなく道路工事でコンクリートをツルハシで掘削している気分です。
作業は遅々として進まず。
なるほど、この異常な頑丈さがネックです。
この炎天下で肉体労働は堪えます。
霞みながらも思考が加速する。
今の僕には激しい動きは出来ない。
咳が出る…体調不全…熱が出て来たようだ。
このままでは時間切れで、赤龍に空へ飛ばれる。
制空権を取られたら、圧倒的に僕らが不利。
主導権を握っているうちに何とかしなければ。
…何とかしなければ、皆、長くは持たない。