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アールグレイの日常  作者: さくら
赤龍討伐
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氷雪のアナスタシア(後編)

 依頼したギルド員と遭遇したのは、約束の一時間前。

 今回の討伐限定で応援に呼んだ弟が、倉庫前で声を掛けられたらしく、私の元に、二人連れを連れて来てくれた。

 会う前から好印象を抱く。

 約束の時間前に来るのは当たり前だけど、当たり前の事を守れない人も多い。


 案内してきた弟の顔が薄らと赤い。

 あなた、どうしたの?

 普段の生意気そうな弟と違う様子も気になったが、弟が連れて来た私の運命を左右するギルド員の方が気になった。


 注目して見る。

 最初の印象は、小さいだった。

 まるで少女のよう…弟と同じ位の小ささだ。

 いえいえ、よく見ると本当に少女だった。


 野戦服に身を包み込んだ美少女だ。


 気づいた途端、パリンと何かが割れた音を聞いた。

 おそらく、私が注目することで、彼女からの隠形の術が破られたのだと後から考えて分かった。


 …口をあんぐりと開ける。

 度肝を抜かれた。

 …なんて、可愛い子なの。

 凝視して、目が離せない。

 艶やかな肩までの黒髪に白磁のような白い肌。

 好奇心旺盛そうな瞳が私を見つめている。

 あまりの神聖を秘めたような厳粛な美しさに後光が差して見える。

 彼女からの太陽風に心が蕩けてしまうようだ…あなたいったい何者ですか?て、天使?妖精?女神?



 …いやいや、私が依頼したギルド員だよ。

 ハッとして、無理矢理、目を外す。


 期待は、悪い意味で裏切られた。

 凄腕と聞いていたから、てっきり男だと思い込んでいたのは私の先入観のせいだけど、こ、これは無いんじゃないかしら。

 ある限りの罵詈雑言が、頭の中で思い浮かぶけど、あまりの可愛いさに嫌いにはなれないこの子には、とても言えない。


 いやいや待て待て。

 外見で判断してはいけない。

 前衛ではないが、魔法特化の後衛かもしれない。

 膝を着いて、拝みそうになる気持ちを抑えながら、チラッと彼女の胸元を見て階級を確認した。

 赤地に星が一つ…少尉の階級章です。

 西ギルドは、規律と実力至上主義に定評がある。

 あの受付嬢の太鼓判もある。

 何より、この可愛さは尋常ではない。可愛いは正義だ。

 私は、不平不満を無理矢理飲み込んだ。

 心配は指揮官の専売特許だ。


 ふと気がつくと、もう1人いた。

 美少女の後ろに、スラリとした騎士然とした美人が。

 こちらも若い女性だ。

 女性にしては背が高い方で、モデルと言われても遜色無い程の美人だけど、武人特有の雰囲気がそれを裏切っている。

 胸元や手脚に最低限の鎧をつけ、槍を持ち既に臨戦態勢だ。

 抑えていても、見た目で分かる強烈な覇気。

 強い…この人、私が今まで見た中で一番強いよ。

 士官学校時代、強すぎると感じた武技教官よりも、遥かに飛び越えた強さを感じる。


 なるほど…こちらが本命だったんですね。

 こちらが前衛で、美少女が後衛と考えれば得心がいく。

 私自身も後衛で参加するので、どうせならば前衛2人でお願いしたかったけど、支払う依頼料は、契約で1人分であるから贅沢は言えない。

 挨拶より先に料金が気になって確認すると騎士然とした美人さんが答える。

 2人でも料金は変わらず、ギルドからの特別サービスであるらしい。


 もしかしたら、美少女と騎士然とした美人は、訳ありの主従なのかも知れない。

 冒険者になりたい貴族のお嬢様と護衛の騎士と考えれば合点がいく。

 こちらとしては、支払う料金が1人分で、赤龍を討伐できる実力さえあれば問題は無い。


 よし。準備は既に出来ている。

 ギルドから冒険者も来た。

 出発は早い分には越したことない。

 車を調達できる予算が無かったので、現場までは歩きとなる。今、出発すれば、昼前には着ける。

 即、赤龍を討伐すれば、夕方には戻って来れます。


 冒険者に出発してOKかの確認をとってから、出発の号令をかける。

 私達は、弟に先導を頼み、そそくさと出発した。




 道々、冒険者の2人には、今回の目的を説明した。

 歩きながら自己紹介してもらう。

 なるほど…やはり私の見識は間違ってなかった。


 美少女の方は、アールグレイ少尉。

 この年齢で、私よりも上位の士官とは…叩き上げではあり得ないので、アールグレイ家とは貴族に聞いた事ないけど、私の知らない貴族に違いあるまい。

 私のクス家も、元は貴族であり、この派遣が無事終了すれば少尉に階級が上がる。

 つまり、だいたい同格だから気後れする必要は無い…と言い聞かせていたけどダメでした。


 話してるうちに、私とは格が違うことに気がついた。

 アールちゃんは(可愛いから勝手に私の心の中でアールちゃんと呼ぶ。)妙に大人びている。

 子供が大人ぶるとは違っている。

 そう、まるで学校長のような遥かに歳上の目上の人と話しているような印象にさせる。

 心理的に頼ってしまうような凛々しさと安心感があります。

 後光のような可愛いさと凛々しさが相まって魅力がもう半端無いよ。

 同性なのにドキドキしてしまう。


 道中の途中、我が愚弟がアールちゃんに失礼な物言いをした。

 弟よ、分かる…気持ちは分かるよ。

 可愛い子に対する、その、つっけんどんな態度。

 きっと好きな女子に対する恥ずかしさから出た態度に違いない。

 しかしそれは、女の子に対して逆効果です。


 姉としては、弟の恋を応援したい。

 でも、弟とアールちゃんでは格が違うのが分かる。傷が浅いうちに諦めなさいと、弟にアドバイスしたい。


 せめてもと、愚弟の言動のフォローをしておく。

 アールちゃんは青少年の心理を理解してくれていた。

 十代の少女と思えぬ懐の深さに感銘を受ける。

 でも、弟の言動はダルジャン准尉に対してであると、何故か誤解している。

 え?アールちゃん、あなた、もしかして無自覚ですか…?



 …



 道中は暇なので、いろいろと考えてしまう。

 ああ、こんなアールちゃんみたいな子が私の上司だったら、どんなに良かったか。可愛いくて頼りがいのある上司なんて最高です。

 アールちゃんが、心の清純さと強靭さを兼ね備えてることは、今まで話していてヒシヒシと感じられた。


 ああ…癒されるよ。

 畏れながら、持ち帰って抱きしめて一緒に寝たい。


 そんなことを思っていたら、ダルジャン准尉と目が合う。

 ダルジャン准尉の目が語っている。

 (どうですか?私の御主人様は?優しくて強くて凛々しくて可愛くて最高でしょう?私の自慢の御主人様です!)

 自慢げなドヤ顔がもの凄い。

 あなた、美人が台無しですよ。

 まるでゴールデンハウンドの様な大型犬がハフハフ言いながら尻尾をグルグル回しているような印象です。


 確かに、この2人で、あの依頼料は格安であると感じる。

 「…値切り過ぎたかしら。」

 当初抱いた不安感は、もう無い。

 おそらく私は、最高のカードを引いた。

 我が家の守り神である黒山羊様とギルドの受付であるダージリン嬢に感謝をささげる。


 しかし、問題は、この幸運は今日一日限定であることです。赤龍が来なければ討伐の仕様がない。

 

 そうこうしているうちに目的地である三ツ池に着く。

 さあ、赤龍よ、来なさい。

 準備は、全て整いました。



 

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