顔合わせ
ボロボロと涙が止まらない。
そんな僕を、ギャルさんはハンカチを取り出して涙を拭いて、抱きしめて、背中をトントンと優しく叩いてくれた。
優しい人だ。
自分が情けない。
前世では、冷静沈着で顔に感情が出ないと評された僕だが、今世の身体は妙に涙脆い。
多分身体的特徴なのだろう。僕のせいではない。多分。
抱きしめてくれていたギャルさんから「役得、役得、くふふ。」と言う妙な声が聞こえる。
見上げると、ギャルさんの顔は、先程の疲労した険がとれて、ニンマリとしていた。
「ギャルさん、もう大丈夫ですから。」
「そお、まだいいのよ。」
ギャルさんの鼻息が荒い。
「あと、ちょっとだけ…。」
「本当に平気ですから。」
などと応酬しあっていると、ギャルさんを呼び掛ける声がした。
「ギャル・セイロン衛士、何をしている。テンペスト殿をキャンブリック殿下のもとへ、お連れせぬか。殿下がお待ちだぞ。」
振り返ると、キノコがいた。
いや、よく見ると、人間だ。見事なマッシュルームカット。聖職者の黒色の法衣を着ている。マッシュルーム型の黒髪と合わさって、人間大の大きなキノコとしか見えない。
「え!え?テンペスト、誰が?」
慌てる、ギャルさん。
ちなみに僕の名前はテンペストではない。
勿論、ギャルさんにも、アール・グレイとしか名乗ってはいない。
話が通じないことに業を煮やしたのかキノコが喋りだす。
「テンペスト殿、お初にお目にかかる。私の名前はクラッシュ・アッサムと申します。殿下とは母方の遠縁あたるものです。今回の殿下の都市旅行の目付役を伯爵様からおおせつかっております。」
40歳位の太めの男だ。喋るたびに、風に揺れるキノコのようにユラユラしている。
「ささ、こちらへ。殿下がお待ちですぞ。」
さあさあと、ユラユラと身体をうねらせながら促してくるので、案内されるまま、庭園を横切り邸宅の方へと、キノコの後をついて行く。
ギャルさんも、もちろん一緒だ。