氷雪のアナスタシア(前編)
私の名は、アナスタシア・クス。
両親は、既に他界。二ヤード・クスの姉。それが私。
我が家に貴族位は無い。
両親が亡くなった時に、叔父に家督が受け継がれてしまったのだ。
二ヤードがまだ赤ん坊の時で、私がまだ子供の時の話しだ。
叔父は、私達に家督を返す気は無いと思う。
その証拠に私は、叔父に程よく、軍士官学校に追いやられてしまった。
でも、それは悪手です。叔父上。
最初は、幼い二ヤードを背負いながらも学校に通い、士官学校に入ってからも、二ヤードを学校に通わせるため、少なくない給料を仕送りした。
士官学校に特待生枠で入れた私は、逆に奨学金や給料を貰うことが出来た。
つまり、手に職を付け、自立することが出来たのだ。
更にはクス家縁の貴族と教官らから推薦をもらい、学校を飛び級して卒業した二ヤードを騎士団に押し込むことに成功した。
これで二ヤードが騎士位を取得すれば、新たなクス家を立てる事が出来る。
さすれば、叔父上から家督を取り返す。
貴族である騎士が、正当な理由により要求したならば、叔父上とて無視は出来ないはずだ。
私は、昼も夜も勉学に励んだ。
運動は、苦手だけど頭を動かすには、運動が良い。
武器の使用はダメだけど、体術ならば上位の方。
金融、経済、経理と、戦闘以外のものを重点に頑張った。
何しろ私の生存戦略は、危険箇所には近寄らない事。
軍士官学校に入って、何を言ってるんだとお思いでしょうが、軍の用務は、結構多岐に渡る。
要は、前線には行かず、後方支援に徹すれば良いのだ。
下手に武術、武器、戦闘のスキルは伸ばさない方が良い。
魔法も、いざと言う時に逃げる為の、捕縛、逃走、防御、察知妨害といった支援系を習った。
勉学と魔法の修練に睡眠時間を削り、食費をケチったせいか背はあまり伸びていない。
むむ…補給、栄養学も習得せねば。
友達は、あまり出来なかったけど、成果は出た。
卒業後は、軍の主計局に内定が決まる。
だが、ここで、待ったが掛かる。
叔父上の寄親であるニルギリ家から、騎士団発足の為、初期支援をいただきたいとの要望が都市軍司令部に出された。
なに、ニルギリ家縁の新米士官の一人で良いからと。
私の事ではないか。
叔父上め、やりおったな。
私への嫌がらせと足留め、ニルギリ家への恩を売る一石二鳥の策です。
いまやニルギリ家は、ダージリン家を落とし、五公の一角に入っている。司令部も無碍にはできまい。
そして、私は卒業と同時に、ニルギリ家へと派遣された。
私を出迎えたのは、ニルギリ家の執事と名乗った若僧のみ。
予算も人材も、既に叔父上に渡したそうだ。
叔父上に確認したら、もらって無いと言う。
ニヤリと叔父が笑った。それが若僧の執事の笑いと重なる。
こいつら、やりやがった…横領の罪を私になすり付けるつもりだ。失敗すれば、こいつらの思い通り。
負けられない。
…無ければ、借りるしか無いよ。
あらゆる伝手を使い、他部門、他部署から人材を揃える。
あくまでも転用、派遣で借りるだけ。
給料は派遣元で、払ってもらう。
伝手なので、レンタル料金もはらいません。
苦渋の決断。
このツケは、私では無く、他の者がはらう事になる。
御免なさい、御免なさい。心の中で何度も詫びる。
こうして、分隊規模ながら、なんちゃって騎士達が揃った。
いずれも自家用に空馬を所有した変人共です。
中には、昔、先祖が騎士であった名残りで、旧タイプの空馬を大事に手入れして大切に保管していま家もあった。
分隊が揃ったと思ったら、赤龍討伐指令が下った。
何ですとー?
そして、またしても予算は無い。