激・赤龍討伐戦(弐)
空を見上げると、真夏の陽射しが、眩しい。
青空に、クッキリとした白い入道雲の存在感が見事。
これぞ夏って感じです。
…変わらない。
前世から、この青空だけは変わらないなぁ。
僕らは討伐部隊の、ほぼ先頭付近を行軍している。
僕らの前には、案内役だと推察される若い騎士と年老いた従士がいるだけ。
この時点で、騎士団の士気の高さの程がうかがえる。
非戦闘員である主計さんが、何故に先頭に位置してるのかが分からない。
そして、外様たる僕らギルド員が、何故に…以下略…。
後ろを振り向いて見れば、馬上の騎士が10騎と同数以上の従士達。その後続に荷馬車の輜重隊が続く。
数ならば、十分にあると言える。
だって騎士10騎もいるじゃん。僕達不必要では?
それでもいると言うのであれば、質の問題かな?
彼らの携行している装備品等は、前世の記憶持ちの僕から見れば、中世と未来が入り混じっている品々のような印象です。
でも、これが今世のスタンダードであるのは、今世19年の人生経験で承知です。
僕が、彼らを値踏みしている事に、気がついたであろう主計さんが、説明するように静かに語り掛けて来た。
「…彼ら騎士は、騎士とは名ばかりの張子の虎とお考えください。そうですね…ギルドのランクを基準にするならば、グリーンの星二つから一番高い者で黒の星一つの実力です。補助戦力と認識して下さい。案内役の従騎士だけは、若年ではありますが、ブルーの星一つの実力で多少は役に立ちます。」
「姉さん、俺は、ギルド程度なら、もうレッド位の実力はあるぜ。そこの女の子達よりかは役に立てる!」
僕らの話しを聞いてたのか、案内役の従騎士が振り向いてのたまう。
あらあら、まあまあ。主計さんの弟さんかな?
兜を上げて、こちらを見た顔立ちが、主計さんと良く似ている。
…その顔は明らかに幼い。まだ子供と言って良い顔立ちだ。
でも、人の話しに割り込んでの失礼な物言いは、お行儀が良いとは言えない。
大人ならば、その場でぶっ飛ばして、根性を正してやるのが世の為、本人の為ですが、相手が子供ならば話しは別です。
握り締めた拳から力を抜く。
危ない、危ない。
主計さんから、叱責が飛ぶ。
「ニヤード、クス家の当主として、かような言葉使いはなりません。応援に来てくれた方々に失礼です。お詫びなさい。」
従騎士の子は、バツが悪い顔して素直に謝った。
「許されよ。騎士団の体たらくに、ちと腹が立った。」
一言いって、顔を背ける。
「多分、照れているのです。学校を卒業してからは、こんな環境で、周りに可愛い異性がいなかったのです。許してあげてください。」
主計さんが、チョコンと頭を下げる。
なるほど…綺麗なお姉さんに対して、気恥ずかしくて、どんな態度をとっていいのか分からないのですね。
うんうん、分かるぞ、少年よ。
前世の記憶持ちの僕ならば、少年の、君の気持ちが良く分かります。
実際、ジャンヌは綺麗で凛々しい。
一緒にお風呂に入った仲だから知っているけど、脱いでも凄い。抜群のプロポーションを誇っている。
しかも、ジャンヌは外面のみならず内面も素晴らしい。
性格は、直情傾向あるも、対応は常に真摯で誠実あるし。
きっと理想の自分を心に抱いているのだろう。
僕の自慢の友達です。
うんうん…青少年の心情を鑑み、ならば、仕方がないと結論を出す。
「許します。確かにジャンヌは美人さんですからね。仕方ない面もあるかと思います。」
友達を褒められるのは、自分の如く素直に嬉しい。
澄まして回答すると、主計さんが微妙な顔つきをしている。
ん?…僕、何かしら回答間違えた?
思わずジャンヌの方を振り向くと、ジャンヌも同じ微妙な顔をしている。
あれ?…いやいや、あっているはず。
どう考えても、少年の心情を理解出来る僕の解釈に間違いはないよね。
ここで、ふと気づく。
そう言えば、僕らは、まだ挨拶すらしていない。
「主計殿、改めてご挨拶申し上げる。ギルドより派遣されたアールグレイと申します。階級は赤の星一つです。魔法専攻ですが、探索も多少は出来ますから。」
「ダルジャン・ブルー・ダーマン・エペと申す。階級は赤の星無し。槍と剣ならば、少尉殿に及ばぬまでも多少は使える。盾を借用できるならば、前衛で壁役もこなそうぞ。」
「私の名前は、アナスタシア・クスと言います。ニルギリ家騎士団発足の初期支援の為、都市軍から派遣されました。階級は准尉。専門は、経理と補給、備品管理。要は戦い以外の全部を担当してます。」
なるほど、一番大変で損な役回りですね。
すると影の騎士団長みたいなものですか。
そうそう、責任者である団長は何処だろう?
最低限、挨拶はしておきたい。失礼だからね。
アナ准尉に聞いてみた。
「いません。」
え?それって居残り?
「いえ、騎士団長自体まだ存在してませんので。取り敢えず人員をあちらこちらから集めただけで、正確に言うと、今は騎士団発足前の準備段階なのです。要は、ニルギリ家に人気が無くて他所から有望な人材を引き抜け無かったのです。余りの人材の酷さに、弟を応援に呼んで、尚且つギルドを頼ったわけです。ここで赤龍を討伐し、騎士団の力を誇示し人材集めの一助とし、且つ今いる人材を育てる計画なのです。貴方達、高かったんですから本当お願いしますね!」
う!騎士団の実情は、かなり切実で情け無い内容です。
これって、烏合の衆じゃん。
このままの状態で赤龍と対戦したならば、まずいのは分かりました。
…ちょっと、討伐計画を考えてみましょうか。
皮算用ですよ。
僕は、必ず計画は立てる。
計画は、計画通りには必ずいかない。
だからと言って、計画を立てないわけにはいかない。
何故ならば、立てた方が実際に達成率が高いから。
予定と違ったり、計画が遅れたりしたならば、その都度修正すれば良いのだ。