激・赤龍討伐戦(壱)
真夏に遠征とは、此れ如何に?
僕は、今、騎士団と共に真夏の炎天下で行軍中です。
依頼を受けに、まずは話しを聞こうと騎士団本部に行ってみれば、一時間前に着いたにもかかわらず即発でした。
僕は騎士では無いので徒士での行軍です。
道々、不明な点を聞いてみる。
騎士の代行とは、蓋を開けてみれば、害獣討伐でした。
近隣の村々に赤龍が居座って困るとかの陳情を受けての討伐戦です。
此の世界には、龍が存在します。
魔法生物たる龍から蜥蜴レベルまで、その強さはピンからキリまで。
中でも、赤龍は火の気性の魔法生物。
その強さは、推して知るべし。
人間個体では、討伐不可能とされる生命体です。
騎士団に出動が掛かるには十分な理由です。
…其処までは理解しました。
ならば、民の為に騎士団の総力をあげて、事に当たれば良いではないですか?
それを何故に外注?
此れは、騎士団の名誉も掛かっているのでは?
其処ら辺の事情を、先ほどから話してくれていた今回討伐戦に追従して来た騎士団の主計局担当に聞いてみる。
「外注しなければ、まず全員死にます。うちは騎士団と言っても、公爵様の一声で今月、設立したばかり。新人と他部署からの寄せ集め部隊です。応援を呼ばなければ、絶対全滅間違い無しですから…フフフ。」
主計担当さんは、眼鏡を掛けた20歳の女の子でした。
眼鏡を中指で押し上げながら、可愛い顔に不似合いな黒い笑いをしています。
良く見ると、目の下に熊さんが住んでいます。
淡い肩までの銀髪は、手入れがされておらずザンバラ髪。
背は、僕と同じ位。つまり普通かな。
普通ですね…うんうん、同じ背丈の女の子と言うだけで好感が持てます。
少し顔色が悪いかな?
寝てませんね。ダメだよ。身体に悪い。
大丈夫かと心配して声を掛けてみる。
「私は、大丈夫。…いつもの事です。私よりも貴女達の事の方が、失礼ながら心配です。ギルドには、龍を討伐できる騎士クラスの実力者を要請したんですが…だ、大丈夫でしょうか?…しかも女の子2人で!」
主計さんは、疑わしそうに、泣きそうになりながら、此方を見る。
「大丈夫です。主計担当准尉殿、私とアールグレイ少尉殿に任せて置けば、火蜥蜴の一匹や二匹、ものの数ではござらん。大船に乗った気で、御安心めされよ。」
主計さんの疑念に答えたのは、偶然、今回僕と一緒に派遣された、ダルジャン・ブルー・ダーマン・エペ准尉。
僕らと一緒に歩いている。
偶然?
うんうん…本当に偶然だね、ジャンヌ。
最近、依頼先で知り合いに、かち合う事が多い。
この前は、アンネに会ったし。
その前は、ショコラちゃんに会った。…偶然が過ぎるし。
皆んな、レッドの制服を着ていたので、昇格試験に合格したのが分かった。
まるで、僕にお披露目してくれてるように存じます。
ジャンヌにも、おめでとうと言うと、少尉殿のお陰です、ありがとうございましたと返されました。
うん…その一言だけで報われた気がする。
…嬉しいです。
でも、この遭遇には何となく作為性を感じる…ダージリン嬢の好意から来る差配かな?
まあ、僕としては、…嬉しいから良いけど。
主計さんが、僕らの横で、「値切り過ぎたかしら…。」と、俯いて、ブツブツ言っている。
どうやら、僕らの報酬に関して、ギルドとかなりの応酬があったらしいけど、それは僕らには預かり知らぬ処でごさいます。
…大丈夫ですよ。うちのギルドは事案に応じて解決できる人材を派遣しますから。…でも、それを主計さんには言わないのは、僕らの実力を疑われたので、ちょっとした意趣返しです。
実際の話し、サイズにも寄るけど赤龍ならば、騎士二人と補助部隊で迎撃は可能です。
討伐になると少々難しい。…なんせ対象は空を飛ぶし。
そこは、空馬に乗る本職の騎士にお任せしたい。
空馬とは、飛行式馬型乗用機の通称です。
其処ら辺を主計さんに、申し入れしておく。