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アールグレイの日常  作者: さくら
赤龍討伐
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続・ペコーの休日(後編)

 いつの間にか、私も眠っていたみたいです。

この後、既に起きていたお姉さんと一緒に掃除して、ミッションを終えました。


 掃除中に、会話して、あれこれ聞かれて、日曜日は寮御飯は無くて朝食も食べれなかったことを聞き出されてしまいました。

 お姉さんのお顔が、愕然としている。

 きっと、(いけない!…育ち盛りの子供が、ご飯を食べれないなんて。)と、思っているようなお顔です。


 案の定、夕飯に誘われました。

 

 「いやいや、清掃依頼を受けてる人にたかれません。だいたい私に奢ったら、今日の報酬ほとんど無くなってしまいます。」

 都市清掃の依頼は、本当に薄給で、夕飯を外食したら足が出てしまうほど。

 ボランティアのような依頼料なのです。

 だから、受けるのは学生か、ギルドでも新人のグリーン位です。

 お姉さんのような貧乏…コホン、収入の少なめの方に、人の良さにつけ込んで夕飯をたかるなんて、できません。


 「大丈夫。僕、結構年齢の割に高給取りだから。心配無用です。それに、これは投資です。未来の大冒険者に恩を売っておくのです。これは僕の未来戦略なのですよ。」

 お姉さんは、清掃服を全部脱ぎながら、私の心の負担を無くそうと、弁明している。


 でも、この時、私の視線は、お姉さんの胸元に吸い寄せられた。

 ギョッとした。

 清掃服の下は、薄手の夏制服のシャツ。その左胸に付いている階級章が赤地に星一つ…少尉の階級章です。

 

 「お姉さん、胸元の階級章が少尉になってますが…擬装するとギルドから罰せられますよ。冗談でも危険です。」

 「…大丈夫です。僕、少尉ですから。」

 心配から、忠告した回答に驚きました。


 私の為に、誰にでもばれるような嘘をつくお姉さんだけど、その性格は、真っ当で真正直な人だと思う。

 冗談でも、この手の嘘は付かない。

 だとしたら、お姉さんは将校?

 でも、その若さで、叩き上げの将校は、ありえない。

 すると、士官学校出?士官学校は貴族しか入れない。

 だとすると…お姉さんは…?


 私の頭脳がフル回転している。

 目が回りそうです。

 「その年齢で少尉?!…き、貴族様?た、た、大変失礼を致しました。ま、まさか、夕食に誘ってくれたのは最後の晩餐?!ああ…私の馬鹿、この気品と美貌で貴族と気づくべきだったのに。あまりの優しさに気安くタメ口きいちゃいました。御免なさい、許してください。生命ばかりは取らないでください。お願いします。」

 あー、油断しました。

 今まで、私は、貴族を避けていました。

 私は、口が軽いし、悪いし、気を使わないので、貴族に対し失礼するだろうと、自分で予想できたから。

 お姉さんの可愛さと優しさと心の美しさに魅了されて、すっかり、心解けて、貴族様に気やすい口調で喋ってしまいました。

 あ、アウトですか?

 温情で最後の晩餐の後、失礼千万で打ち首とか?

 赦してもらおうと、その場で、土下座しようとするのを、お姉さんから慌てて止められた。

 

 「僕、貴族じゃないよ。ちゃんと学校卒業してギルドに入り、グリーンから順当に上がって来ただけだから。」

 「嘘!…その年齢で、叩き上げの将校なんてあり得ない。私にだって分かる。子供だと思って馬鹿にしないで。」


 わ、私、貴族様に対して、何て口調で言っちゃてるの?

 で、でも、お姉さんのお歳は、どう見ても、16、7歳です。

 学校をスキップしたとしても、僅か数年で少尉まで駆け上るなんてあり得ないのが分かる。


 「嘘ではないです。僕は19歳ですから。少尉の階級も今年運良くの成り立てです。少し前までブルーでした。」

 お姉さんが、私に、切ない表情で訴えかける。


 私は、黙ってしまいました。

 私の中で、現状認識とお姉さんを信じたい心が葛藤している。

 今まで、私は他人がどう言おうと、自分が見た事実のみで判断して来た。

 でも、今回は、お姉さんが私の中に入りこんで、切なげな表情で、事実と反することを、私を信じてと訴え掛けてきている。



 …私は、お姉さんを信じるよ。

 だって、お姉さんは、私を信じてくれている。

 見ず知らずの私を、救けようとしている。

 そんな人が嘘をつくはずがない。


 初対面の人に優しくされただけで、私、どんだけチョロインだと思わないわけでは無いけど、もう私は、お姉さんにお手上げだよ。


 何と無く気づいていたけど、私はお姉さんが大好きだ。

 もう、好きで好きでしょうがない。

 お姉さんが、白を黒と言ったら、もう黒でよいよ。

 自分の気持ちに気づいて、頭から煙が出そうです。

 この感情は、言葉には、とても出せない。

 よって、私は黙ってしまった。


 でも、お姉さんは、私が黙ったのを、未だに疑っていると勘違いしているみたい。


 私の手を引いて、ギルドに連れ行ってもらいました。

 お姉さんの手が、小さくて柔らかいよ。

 お姉さんの手を握っている感触が、私の手を伝わって脳髄を直撃する…気を引き締めないと、幸福感で表情が二ヘラと崩れちゃいそうです。



 今日の分の報酬をギルドに受け取りの際、ギルドの受付嬢の方から、お姉さんが少尉であることを聞いた。


 うむ、やはり私がお姉さんを信じた事は正しかったのだ。

 私の見識が正しい事が裏付けされて気分が良いです。

 それにしても、受付のお姉さん、凄い美人ですね。

 それでも、私のアールグレイお姉さんには敵うまい。


 「ほらみなさい。レッドなのに清掃作業受けるから、こんな目に遭うのよ。次からは、ちゃんと分相応の依頼を受けなさいね。」

 アールグレイお姉さんが、受付のお姉さんから、忠告を受けていた。


 そうですよね…レッドが都市清掃してるなんてビックリだよ。普通あり得ない。

 それでも、お姉さんが清掃の依頼を請けなければ、私達は出会わなかった。

 だから、お姉さんは正しいのだ。


 「だから、夕食は、僕の家で食べよう。扶養家族も二匹いるから気にしないで。」

 改めて、お姉さんから夕食に誘われる。


 否応も無いです。コクンと頷く。


 赤面し過ぎて、顔が熱い。

 繋がっているお姉さんの手を、ギュッと握る。

 幸せ過ぎて涙が出そう。

 口を開くと、感情が決壊しそうで喋れない。


 もしかして、家族って、こんな感じなのかな…?


 お姉さんの自宅は、マンションでした。

 エレベーターが付いてます。

 凄い…かなり老朽化してるけど、文明崩壊以前のテクノロジーが、まだ生きている。


 玄関ドアを開けて、お姉さんと一緒に室内に入ると、短い廊下の向こうの居間で、テレビを見ている丸い生物がいた。

 ペンギンをコンパクトにして丸く膨らましたような…まるでペンギンをキュートにしたヌイグルミみたい。

 生物と判断したのは、こちらを向いて目が合ったから。

 「キュイー?(お前誰?)」

 しかも鳴いた…誰と聞かれた気がした。


 腕に収まる程の小ささなのに、なかなかふてぶてしい面構えです。ふて可愛いと言うのだろうか?


 「あ、私、アールグレイお姉さんの後輩で、ペコーと申します。お夕飯にお呼ばれして来ました。」

 ペンギンさんの眼力に、思わず挨拶してしまった。


 「キュ…。(あ、そう。)」

 ペンギンさんは、一声鳴くと、向きを変えて、またテレビを見始めました。

 よくみると、頭にモモンガを乗せている。


 何だろう、これ?…私、初めてみました。

 お姉さんの扶養家族二匹云々の言葉を思い出す。

 ああ…これの事ですか。



 お姉さんが、ただいまと言うと、モモンガが飛んで来てお姉さんの胸元にダイブして来た。

 ペンギンさんが、こちらを見ずに「キュウア。」と鳴いている。テレビに集中しているらしい。

 あれって、多分、おかえりって言ってるんだよね。


 お姉さんの、どうぞどうぞの言葉に促されて、お邪魔しますと室内に入る。

 短い廊下から、洗面所で手を洗わせてもらい、居間まで来ると、ペンギンさんの横に座って待つように言われる。

 お姉さんは、手を洗うと、別の部屋で着替えるようだ。


 「お邪魔します。」

 ペンギンさんの横に座る。

 そう言えば、学校で習った生物の時間に、魔法生物と言う人類に匹敵する知的生命体が、文明崩壊後に発見されたと習った記憶を思い出しました。

 ああ…もしかして、それ?

 初遭遇です。


 そして、モモンガが、先ほどから正面のテーブルの上を陣取り、私をチョコマカ、ジロジロと見て来ます。

 まるで、私を見定めているような…。


 モモンガがペシリとペンギンさんに引っ叩かれました。


 「キュウ!(客人に失礼するな!)」

 ペンギンさんは、ジロリとモモンガを叱責したように見えました。

 萎れてペンギンさんの頭に戻るモモンガ。

 

 私は、何を見せられているのだろう?

 …いやいや、驚くまい。

 世界は広い。

 そう、私の小さい見識では測れないほどに。

 世界は広くて未知なるもので満ちているのだ。


 だって、今日私は、超絶可愛いお姉さんと出会った。

 未知との遭遇です。

 この世界には、お姉さんみたいな人がいた。

 多分、希少で貴重なオンリーワンです。

 私は、超運が良い。

 眼から鱗が落ちました。

 素直な心で、この現実を受け入れたい。

 私は、今日、生まれ変わったのだ。


 …


 お姉さんが室内着に着替えて、エプロンをして来た。

 超可愛い!あわわ…写真に撮って記録化したい。


 「牛カレーにします。」

 お姉さんが、高らかに宣言する。


 鳴き声を上げて、賑わう魔法生物達。

 …嬉しいらしい。


 …


 うん、お姉さんが作った夕飯の牛カレーは、絶品でした。


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