表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アールグレイの日常  作者: さくら
赤龍討伐
229/615

ペコーの休日(中編)

 …転機の話しをする前に、時を遡り、一冊の本に出会った話しをしたい。




 その日、図書館の棚に置かれていた一冊の冒険者録が、私の将来を決めた。


 それは、私が9歳の誕生日の出来事。

 私の本当の誕生日は分からないから、その日付は、私が拾われた日付でもある。

 今は、もう居ない、私の名付け親である前の院長先生が、そう教えてくれた。

 時は、流れて行き、戻ることはない。

 院長先生とは、もう会うことは、出来ないのだ。


 その日、私は院長先生と永遠の別れをした。


 逃げるように駆け込んだ図書館で、悲しみに暮れる私を、励ますように、その本は私の前に現れた。

 その本を手に取り、開いた事が、後から考えれば、私の冒険の始まり、これからの運命を、自分で選んだ瞬間だったと思う。

 私の人生のタイトルを名付けるとすれば、「ペコーの冒険」が相応しいと思う。

 何故なら、私がその本を選んだ事によって、冒険者の道を歩み始めたから。


 本の内容は、素晴らしかった。

 それは冒険者達の数々の冒険譚。

 知恵を絞り、勇気を出して、仲間と協力し、危難を乗り越えた日々を、綴っていた。

 なによりも、本の中の彼らは自由であった。

 常識に執われず、しがらみに縛られず、快刀乱麻を断つが如く、自由に大空を飛び回る大鳥のようだった。

 何処までも強い覚悟を持って、意志を貫き通す彼らは輝いてみえた。


 読みながら、感動に心身が震えた。

 震える手で、頁を捲ると、金線の階級章を付けた司令官を、拳で殴り、天空へぶっ飛ばしているブルーの少女の挿し絵が目に付いた。


 夢中で、本を読み進める。


 …信じられない。

 こ、この少女は下士官に過ぎないのに、民や部下を護る為に自らの犠牲を顧みずに、自軍の悪虐非道な司令官をぶっ飛ばしたのだ。

 しかも、その後、軍を指揮して、民や部下を一人も死なせずに護りきったのだ。

 …にも関わらず、ギルドは、この少女を査問会に掛け、死刑を求刑した。

 ああ、なんて酷いことを。

 少女は、皆を救けたのに、何故、この様な非道がまかり通るのか?!


 私は本を握りしめ、悔しくて、悲しくて、怒りで、涙が溢れて、本に落ちた。

 

 こんなことが、現実にあるなんて…!


 一時は、貴族の圧力により、少女は死刑を求刑されるも、当時の心ある将軍や、部下の証言などにより、一命を取り留めた。

 しかし、貴族への不敬により降格処分とされ、他のギルドへ追放措置となった。

 …記述は、ここで終わっている。


 理不尽極まりない酷い話しだ。

 でも、涙で、ズタボロになりながら、私の胸中には、清々しいまでの風が吹いていた。


 自己の信念を貫き通した彼女のことだから、きっと今も、彼女は自由に生きている。

 そして、今でもギルドで、冒険者を務めて、冒険を続けていることだろう。


 …私も、彼女に続かなければ。

 熱い思いが込み上げる。

 彼女が皆を救けるのであれば…彼女の危機を、私が助けたい。


 だって、それが人間ってもんでしょう?



 私が、袖で涙を拭いていると、いつのまにか司書のお姉さんが、後ろまで来ていた。

 「その本、ちょっと凄いでしょ。この世界には、絶望的な状況でも、あきらめず勇気を振り絞る人や、理不尽な目にあっても己れの信念を貫き通す人、皆を救ける為ならば、自らの生命を犠牲にすることも辞さない人達がいるの。…嘘ではない、みんな本当の話しなの。」

 リアリティがある、この本を読んだ後では、司書のお姉さんの言うことが、腑に落ちて分かる。


 このお姉さんが、こんなに長く話してくれたのは初めて。

 思えば、いつも、ある程度離れた場所で事務作業をしていた。

 あっ…もしかして、私が話せる気分になるまで、待っててくれていたの?


 少し…考えてみた。

 このお姉さんならば、冒険者になる為には、どうすれば良いかを相談する価値がある。


 これが、私の判断。

 自分で、分からければ、他人から知恵を借りるのだ。

 私は、冒険者になりたい。

 いや、なるのだ。


 冒険者となれば、私は、きっと本の中の彼女に会えることだろう。

 私は、司書のお姉さんから、学校の特待生制度や奨学金制度を教えてもらうことが出来た。


 そして、月日は流れ、私は13歳となった。

 学校に編入し、8年生となったある日曜日、私はギルドで都市清掃の依頼を受け、現場に行き、或る人と出会うことになる。

 


 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ