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アールグレイの日常  作者: さくら
赤龍討伐
227/615

清掃、考え、招待

 僕にもたれ掛かって来て寝ている幼な子の重さを、感じながら、考えてみる。

 もうすぐ、午後の清掃作業開始の時間ですから、そそくさと頭巾を被り、手袋をはめる。

 ペコちゃんは、ギリギリまで寝さしてあげましょう。

 

 短めに5分間thinkingです。



 僕の深層意識からの警告。

 このまま漫然と過ごしたのでは、新たに来る脅威を解決出来ないのは、自明。

 今の僕では、対応出来ないと深層意識が判断した程の脅威が来ます。

 よって、僕は、変わらなければならない。


 ざ、ちぇんじ!…です。


 想像する。遠方から来る脅威を、津波が来ているのだと、思うようにする。…危機感を持って認識する。


 …想像中。


 …

 

 うん…全速力で逃げよう!

 自然災害級の脅威には逆らえません。無理!


 逃げて生き残る為に、新たな目標とベクトルを設定しなければならない。

 例えるならば、表現するならば…

 それは、山だ…避難できる新たな登る山を決めるのだ。

 今までが登山の初級者だとすれば、中級者になる程に脱皮しなければ、生き残れないかもしれない。


 12の衛星とは、惑星を廻るもの。…これは比喩。

 惑星とは僕、ならば、衛星とは僕の周りの人々?

 しかり、しかり。


 今まで、会った人々の顔が思い浮かぶ。

 よし、縁だ…縁を大切にしよう。

 今まで、僕は周りとコミュニケーション不足でした。

 性格的に幅広く交友するのは苦手ですけど…エペ家の人達とかは、柔らかい対応してくれるから大丈夫かも。


 僕は、今世、自分を尊重している。

 自分第一主義です。

 それは、前世の人生経験の反省に基づいている。

 でも、自分を大切にするということは、結局、周りを大切にするということだと思うのです。

 何故なら、僕らは連動している。連結している。全ては影響し合っているから。


 周りを、刮目して見よ。

 そして、僕を、刮目して見よ。


 具体的には、よし…能力向上の為、何か新しいことを始めよう…脱皮です。悟りです。上限突破です。そして、今まで会った人々と連絡して交友してみよう。


 …


 ここで、5分間thinking終了。

 後の残りの休憩時間は、周りの景色を楽しむとしよう。


 その時、僕の足先の陽射しが陰った。

 「おう、15番、さっきは世話になったな!いくらギルドでも、チビのグリーン如きにやられたとらあっちゃ、俺のメンツが丸潰れだ。この落とし前は取らしてもらうぜ。」

 

 目線を上に上げると、先程お会いしたチンピラが、面前に立っていました。

 …わお。

 少し、考えてみる。


 前世でも、チンピラは存在しました。

 今世でも、チンピラは存在しています。


 つまり、チンピラとは時空を越えて存在しているのです。

 ならば、チンピラとは、あらゆる世界に存在していている可能性が高い。

 世界がチンピラを必要としているのだろうか?

 そうは、思えないけど、…分からない。


 わかり易く考える為、試しに、チンピラをゴキブリに置き換えて考えてみる。


 …


 …うん、いらないかな。

 しかしながら、進化する可能性も無きにしも非ずです。



 周囲には、チンピラと同様の人相着衣の方々が、沢山いらっしゃってます。

 その数、ざっと50人近く。

 周りの方々も、チンピラの言葉に、僕を敵と認識したらしく、searchで把握していた一つの赤点が、一瞬にして、ざっと50近くに増えました。

 皆一様なニヤニヤ顔をなさっている。


 なるほど…貴族は怖くて逆らえないけど、小さな白子が一人ならば、衆に頼み餌食に出来るとみましたか。


 うん…腐ってるね。

 まさに社会の塵芥。


 端末を見ると、ちょうど午後1時の時間でした。

 休憩は、終わり。

 ちょうど良い。午後の清掃作業の開始です。

 ゴミは片付け無ければ、仕事は終わりません。


 さっき清掃作業中に拾ってポケットに入れていた、落ちていたドングリを右手の平に握りこんでジャラジャラいわす。

 ペンペン様のお土産にしようとしてた物です。


 因みに、僕の現在の握力は500kgあります。

 学生時代、武術教官にも、お前は武術の才能は無いが握力だけは強いなと褒められたシロモノですから、ついつい嬉しくて鍛えに鍛えてしまいました。


 そっかぁ…僕、握力の才能あるのですね。


 嬉しくて、握る力も離す力も満遍なく鍛えた結果、ちょっとした技が出来るようになりました。


 「おうおうっ、俺たちが恐ろしくて小便でもちびっちまったか、小僧!」

 顔を近づけて能弁を垂れるチンピラ。

 …うざい。そして、レディに対して失礼にも程がある。

 僕、礼儀知らずは嫌い。


 親指で、ドングリを弾き飛ばす。

 それは、チンピラの額に当たり反射して空へと飛んで行きました。

 作用、反作用の法則により、退け反り過ぎて一回転するように後方へ、吹っ飛ぶチンピラ。

 チンピラは、倒れた後、ピクリとも動かない。


 ちょっとした僕の指による力技…指弾です。


 一瞬の静けさに、蝉の声がよく聞こえる気がした。

 「大丈夫。…峰打ちだから。」

 僕の声が、辺りに響く。


 塵だけど、もしかしたらリサイクル出来るかもしれないし…手加減しました。チンピラの脳を揺らした程度で、破壊はしていない。僕は、環境に優しいのだ。エコロジーです。


 だが、そんな僕のエコな思いは伝わらなかったらしい。

 チンピラの仲間が殺気立つ。

 どうやら逃げないで立ち向かう気だ。


 意外と仲間思い?

 うんうん…素晴らしい、一寸の虫にも五分の魂、或いは泥棒にも三分の理?…ちょっと違うかな。


 よろしいでしょう。

 ペンペン様へのお土産は、又今度です。

 僕は、ドングリを両手に持ち直し、突進して来たチンピラ達に向かって、機関銃のようにドングリを連射しました。


 ダダダダダダダダダンッダダダダダダダダダダンッ!

 辺りに飛び交う跳弾ドングリとチンピラ達の悲鳴。


 ドングリが尽きました…。


 僕は、もたれていたペコちゃんの頭を、そっとベンチに乗せると、スクっと立ち上がりました。

 辺りは、痛がり呻いてのたうち回る沢山のチンピラ達。

 跳弾に当たらなかった運の良いチンピラは、一見して残り20名程。


 今のは、サービスタイム。

 次こそ、僕のターンです。


 チンピラ達の間を、回転するように、ステップを踏みながらクルクルと回っていく。

 海原で海水が廻るように、回りながら巡るのです。

 海原に幾つもの渦を描くように。

 直線的歩法とは違う、円の歩法。

 僕の連環駆動を最大限に活かせるように考案した歩法です。

 手脚を廻して、ぶっ飛ばして気絶させていきます。


 幸いに、拳銃、刃物類は、出して来なかったので、命拾いしましたね…良かった。

 流石の僕も、街中でゴミと同じとはいえ、人の形を成したる50体を殺害するのは、気が滅入ります。

 ゴキブリを50匹潰すのは、気が滅入りますよね?


 最後の一人になった時に、目前で動きを止めました。

 おそらくは、一番の兄貴分の顔を見る。

 すっかりニヤニヤ顔がハゲ落ちて、口を開けて呆然としております。

 「大丈夫。峰打ちです。…ゴミは、持って帰りなさい。社会のルールです。」

 頭巾の御簾越しに、チンピラの兄貴分に教えて差し上げる。

 今日の僕は、とても、優しいと思います。


 僕の教えに、兄貴分は、カクカクと何度も頷き、無言で、チンピラ達を起こして、連れ立って帰って行きました。


 …


 この日以降、白子の15番を怒らしてならない都市伝説が生まれたとか…チンピラも白子は無視するようになったとか…白子アンタッチャブルが暗黙のルールになったとか…。

 いずれも僕の預かり知らぬ所で御座います。



 この後、起きたペコちゃんと一緒に掃除して、ミッションを終えました。


 掃除中に、会話して聞き出したところ、日曜日は寮御飯は無いそうで、やっぱりペコちゃんは、朝食も抜いていた事が判明した。

 いけない!…育ち盛りの子供が、ご飯を食べれないなんて。

 むろん、食べれない子供は、ペコちゃん以外に沢山いるのでしょう。

 でも、目前にお腹を空かしている子が居れば、僕は救けたいのです。

 それは、僕の自由で、僕の意志だから。

 ほら、縁を大切にしようと、決めたばかりだし。


 よって、夕食にペコちゃんを誘う。

 「いやいや、清掃依頼を受けてる人にたかれません。だいたい私に奢ったら、今日の報酬ほとんど無くなってしまいます。」

 ペコちゃんとは、今日一日で大分仲良くなったけど、遠慮してくる。

 だけど、断るのは、僕の事を思っているからと分かっている。

 「大丈夫。僕、結構年齢の割に高給取りだから。心配無用です。それに、これは投資です。未来の大冒険者に恩を売っておくのです。これは僕の未来戦略なのですよ。」

 清掃服を全部脱ぎながら、ニヤリと悪く作り笑いをしてみる…演技です…ちょっと楽しいかも。


 でも、ペコちゃんは、僕の迫真の演技も見ず、返答もせず、僕の胸元を凝視していました。

 「お姉さん、胸元の階級章が少尉になってますが…擬装するとギルドから罰せられますよ。冗談でも危険です。」


 「…大丈夫です。僕、少尉ですから。」

 質問に返答すると、ペコちゃんが驚きの表情に変わる。

 「その年齢で少尉?!…き、貴族様?た、た、大変失礼を致しました。ま、まさか、夕食に誘ってくれたのは最後の晩餐?!ああ…私の馬鹿、この気品と美貌で貴族と気づくべきだったのに。あまりの優しさに気安くタメ口きいちゃいました。御免なさい、許してください。生命ばかりは取らないでください。お願いします。」

 その場で、土下座しようとするのを、慌てて止める。

 

 「僕、貴族じゃないよ。ちゃんと学校卒業してギルドに入り、グリーンから順当に上がって来ただけだから。」

 「嘘!…その年齢で、叩き上げの将校なんてあり得ない。私にだって分かる。子供だと思って馬鹿にしないで。」

 いったいペコちゃんは、僕の歳を何歳だと思っているのか。

 「嘘ではないです。僕は19歳ですから。少尉の階級も今年運良くの成り立てです。少し前までブルーでした。」

 嘘ではないのに弁明するって切ないです。


 ペコちゃんは、黙ってしまいました。

 なにやら、ペコちゃんの中で葛藤している御様子。


 なので、今日の分の報酬をギルドに受け取りの際、ギルドの受付嬢のダージリンさんから、ペコちゃんに僕が少尉であることを証言してもらうことにした。

 「ほらみなさい。レッドなのに清掃作業受けるから、こんな目に遭うのよ。次からは、ちゃんと分相応の依頼を受けなさいね。」

 ダージリンさんから、忠告を受けるも何も言い返せませんでした。

 でも、ペコちゃんは、ダージリンさんの証言により、渋々受け入れてくれた。…納得はしていない顔だけど。


 「だから、夕食は、僕の家で食べよう。扶養家族も二匹いるから気にしないで。」

 改めて、ペコちゃんを夕食に誘う。

 

 頷くペコちゃんを見て思う。

 そう言えば、何気に人を自宅に御招待するの、僕、初めてかも。

 夕食のメニューどうしようかな。


 

 




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