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アールグレイの日常  作者: さくら
赤龍討伐
224/615

 僕は、17番の子に声を掛けた。

 「そろそろお昼休憩にしましょう。」

 

 17番の子は、僕の方に振り向いて、ぎこちなくお先にどうぞと言う。

 ん!…僕にはピンと来た。


 僕も学生時代は、お金が無くてお昼を抜いた覚えがある。

 育ち盛りだから、当然お腹は空く。

 でも…我慢するしかない。


 お金が無いということは、…本当に惨めで辛い。


 自分が経験したことだから、この子の気持ちが分かる。

 今の僕なら、些少ながら手助けが出来る。

 この子は、あの時の僕自身だ。



 少しだけ、緊張しながら、それとなく声を掛けてみる。

 「ねえねえ、実は僕、今、ダイエットしててね。お握り2個持ってきちゃったんで、半分食べてくれると助かります。」

 「嘘!」

 僕の声掛けに、こちらを振り向かずに、間髪入れずのキツい拒否の言葉が、発せられる。

 分かる…今のこの子の泣きたいほどに切ない気持ちが。

 この子のプライドを傷つけてはいけない。


 もし、この子を今、手助けできるのならば、僕の経験は無駄ではなかった。

 子供を助ける為ならば、僕は嘘でもつく…泥は大人の僕が被れば良い。

 「嘘ではないよ。大人は、たまに断食するんだよ。身体に良いらしい。聞いたことない?ああ、捨てるのは勿体無いし、この陽気だと自宅に帰る前に傷んじゃう。ああ、誰かが食べてくれると助かるんだけども。」

 ここで、僕は、17番の子をチラリと見る。

 …反応が無い。

  

 少しリアクションを大袈裟にして、リテイクだ。

 「…ああ、誰かが食べてくれると助かるんだけども。」

 チラリと見る。


 この子が、受け入れてくれるまで、何回もやる所存です。

 恥ずかしくはない。

 僕が間抜けを演じればよい。



 …溜め息が聞こえた。


 「…分かったわよ。私が食べて、お姉さんが助かるなら、いただきます。」

 「うんうん、とても助かります。」

 …良かった。


 ならば、あのベンチで食べましょうかと、近場の公園のベンチに17番の子を誘う。

 ベンチに座り、手袋と顔全体を覆っていた頭巾を取る。


 ふー、スッキリ。


 腰に巻いていたバッグから、お握りと水筒を取り出して、横を見た。

 すると、17番の子も手袋と頭巾を取って、水筒を取り出していた。

 頭巾を脱いだ後の17番の子は、茶髪で編み込んだお下げを2本ぶら下げた、顔にソバカスのある13、4歳の、か細い女の子だった。


 ああ、小さい…やはり子供だった。


 この世界の基準だと15歳の成人間近なのかも知れないけど、前世の記憶持ちの僕からしたら、子供が健気に大人ぶってるとしか見えない。

 「はい、お握り、どうぞ。」

 この子の手の平を上にさせて、お握りを乗せてみる。


 女の子は、お握りを手の平に乗せたまま、キョトンとして僕の顔を見た。

 茫然と僕の顔を見ていた眼が見開き、凝視に変わる。


 見ていると、女の子の頬が、だんだんと赤らんで来ているのが分かる。


 …


 ん?

 どうしたのかな…この子、動かなくなってしまったけれども。


 しばらくしてから、女の子は、小さく呟いた。

 「…女神様?」



 …



 「もう、驚かせないで下さい。てっきり、私の境遇を憐れんだ天からのお迎えが来たのかと思って、心臓がとまるかと思いました。」

 その後、二人で、お握りを一緒に食べました。

 一緒にご飯を食べると、心の垣根が取れる効果があるのかは知りませんが、心の距離が近付いてくれた気がして、物言いも、丁寧だけど、心の内を開いてくれている感じがします。

 これは、先程の僕の顔を見て、動かなくなった件の理由を説明してくれてるらしい。

 「でも、驚いたって、何に?」


 「えー!まさかの無自覚?…私の驚きの原因は、頭巾を取ったお姉さんがexcellent、beautiful、wonderful、elegant、great、Fine、super、supreme、finest、finer、cute anyway、えーと、とにかく、お姉さんが、あまりにも可愛いくて、綺麗なものだから天からの御使いかと勘違いしちゃいました。つまり、そーゆーことですよ。」

 早口で、途中から古代E語で言われても、褒められてるくらいしか分かりません。


 無自覚と表された僕だけど、自覚はあります。

 女の子は、皆、可愛いと言えます。

 僕も女の子です。よって僕も可愛い。

 以上、証明終了…うんうん、ほら、自覚あるでしょう?


 だから、もちろん、あなたも可愛いですよ。

 と、頭を撫でながら言ったら「違う違う、そうじゃない。」と頬を膨らます。

 良かった…お握り食べて少し元気が出てきたみたい。

 思えば会ったときは、多少ふらついていたかも。

 もしかしたら、朝も食べてなかったのかもしれない。


 子供がご飯を食べれないのは哀しい。

 袖擦り合うも他生の縁。

 僕が何とか出来ないだろうか?

 ちょっと懐かれてる気もしないではない。


 「もしかして、お姉さん、私を助けてくれようと考えてませんか?」

 まさに、漠然とながら考えていたので、図星を指されてギクリとする。

 「…やっぱり。私が言うのも何なんだけど、お姉さん、そんなお人好しじゃ、この社会渡って行けないですよ。いくら私でも、卒業して、未だに都市清掃請けてる人に、これ以上頼ってはいけないことは分かります。心配御無用、自分で、何とかします。それより私はお姉さんの方が心配です。そんなに可愛いくて綺麗なのにお人好しで、悪い人に騙されないか超心配です。」

 逆に、僕の方が心配されてしまいました。


 でも、これでこの子が、自分が困っている境遇にも関わらず、他人の事を心配する事が出来る良い子である事が分かってしまった。

 …ますます、何とかしてあげたい。


 「あー、そのお顔は、まだ私を助けようとしていますね。もう!…私も、さ来年に学校卒業したら成人です。自分で自分の事は何とかします。でも…心配してくれたのは正直嬉しい。有難うございます。…そ、そうですね、も、もしもお姉さんが良ければ相談にのっていただけますか?初対面の方にこんなお願いするのもなんなんですけど。」


 そう言いだした女の子の顔が紅潮して、身体全体が緊張してガチガチになったのが分かった。

 きっと、これから話そうとする内容は、この子にとって大事な話しなのだと思う。


 ショコラちゃんが前に言っていた、誠意には、誠意でもって応じるという言葉が頭に思い浮かぶ。


 …そうだよね。

 真剣には、真剣になって応じなければ!


 僕は、話しを促すように頷いて、この子が緊張を解せるように微笑んだ。






 

 


 





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