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アールグレイの日常  作者: さくら
赤龍討伐
223/615

清掃

 あれから月日が経ち、僕は、変わらず週休2日で働いている。

 無理はしないのだ。

 固定の仕事は、わざと受けない。

 ずっと同じ仕事だと飽きてしまう。

 

 うんうん…そう考えると冒険者ギルドって、僕の天職かもしれない。

 補助金と言う名の基本給も出るしね。

 出来れば、ずっと勤めていたいものだ。



 今日は、都市清掃の仕事。

 ダージリンさんから、レッドがする仕事では無いと言われたけど、人の好きずきだから、自由に依頼を受ける。

 都市清掃は、もっぱらグリーンの仕事で、僕も学生の時から受けていた。

 報酬は、雀の涙だ。


 労働量からいうと、もっと出してもいいんじゃないと、学生時代は思ったりしたけど、単純反復作業は概して報酬が安い。

 都市清掃だけが安いわけではないのだ。


 清掃服に着替えると、階級章が付いてないので、僕も新しい現場では学生と間違われることがある。

 僕って、いったい何歳に見られてるんだろう?


 同じ地区を、担当する女の子とペアになる。

 あの小ささは、まだ学生さんだ。

 うんうん…偉いぞ、勤労学生よ。


 僕より背が小さい…よしよし。

 一応、僕にも見栄みたいのはある。

 清掃作業中は、皆んな黒子のような格好をしているので、体格くらいしか分からない。服の色は白なので、黒子ならぬ白子です。

 では何で識別するかと言うと、胸と背に番号が付いている。

 僕が、15番で、彼女が17番だ。

 番号自体に意味は無い。

 現場に来た順に、割り振られました。

 今日は、早く来たので若い番号なのです。



 「お姉さんは、どちらの学校なんですか?お見かけしたことがございませんが。」

 おお、若い子から話しかけられました。

 最近の子は、物怖じしませんね。


 僕は、もう卒業してることを話す。

 嘘つく必要ないし。


 「すると、卒業しても清掃作業を請け負ってるのですか。…大変ですね。…私は、卒業したらギルド職員を目指しているんです。お給料は安定してるし、ギルドの皆さんのお世話が出来る大切な仕事だと、思うんです。私は強くないから、その分、ギルドの皆さんの手助けになれば良いなって。お姉さんも、か弱そうだから現場ではなくて、事務職の方が向いてますよ、きっと。」

 うん…おとなしい子だと思ったら、よく喋る子でした。

 僕も、このくらいの歳の時は、きゃぴきゃぴしてたのかしら…違うような気がする。


 たしか、清掃作業も受けたけど、もっぱら都市巡回の仕事を受けてた気がする。

 チンピラに腕を掴まれて、困っていた下級生達を助けたような。その後にペアを組んでた親友に、こっぴどく怒られた覚えがあるけど。僕、何で怒られたんだろう…覚えてないや。


 うーんと思い出に浸ってると、まさに似た光景が目の前に展開されていた。

 おそらく日曜午前の部活帰りと思われる女子学生が、チンピラに絡まれていた。

 女学生の顔が目に付く、…雛には稀な美しさだ。

 駄目だよ、あんな綺麗な子を一人にさせては。


 ペアの17番の子が「ど、ど、どうしよー?」と慌てふためいている。

 クスッ…ちょっと面白い。


 そのまま見てるわけにも行かないので、僕は清掃作業を一旦中止し、スタスタと女学生の前まで歩いていった。

 おお…近くで見ると、凄い可愛い子であることが分かった。

 ショコラちゃん並の可愛さです。

 チンピラも、なかなかお目が高い。


 「なんだ、テメェは?かんけーねぇ奴は引っ込んでな!」


 チンピラがなんか言ってるけどガン無視です。

 「何かお困りですか?」

 女学生に声を掛ける。

 「はい、こちらの方が、突然現れて、俺と付き合えと、手を掴んで引っ張って行こうとするのです。爺やと離れてしまって困っていたところです。」

 うん…ガチお嬢様だった。


 そうと分かれば…僕は、お嬢様の手を掴んでいるチンピラの手を掴んで捻り上げた。

 「あぎゃゃあぁ、いでぇ!」


 ははは…大袈裟だな。

 「この子、貴族だよ。もうすぐお付きの人が来るけど、逃げた方がいいんじゃないかな?….僕、君が真っ二つにされると清掃が滞るから困るんだけど。」 

 「まあ!爺やは、真っ二つにはしませんわ。首を、こう360度グルリと捻じるだけですわ。」

 「なら、大丈夫かな。君、首は一回転しても大丈夫なタイプかい?」


 チンピラは、僕が手を離すと、悲鳴を上げて逃げて行った。

 頭の悪いチンピラも、貴族の恐ろしさは、理解しているのだろう。

 「冗談だったんだけどね。」…やれやれ。

 「あら、そうだったんですの?」

 お嬢様は小首を傾げた。


 これだから貴族は…あまり関わり合いたくない。

 

 その後、お付きの人が、本当に直ぐ来ました。

 爺やと言われるほど、歳を取っていない。50歳くらいか。

 細身の黒服。白髪のオールバック、モノクルを付けている。

 問題は、外形では無く、底無しの穴から冷気が漏れるような印象…寒気がします。


 ヤバい…ヤバい、とにかくヤバい。

 底冷えして風邪引きそう。

 僕は、きっと、あのチンピラの命の恩人です。

 お嬢様が、僕を恩人だと紹介しなければ、僕の首は回っていたことでしょう。


 お嬢様が僕に向かって、お辞儀をした。

 とても美しい所作だ。

 「困っている所を、お助けいただき有難うございます。私、ハーネス・フラウ・ニルギリと申します。是非御礼をしたいのですが。」

 お嬢様が、爺やを見る。

 爺やが頷いて、僕に話しかけてきた。

 「この度は、お嬢様をお助けいただき有難うございました。失礼ですが、御名前と御住所、連絡先を頂戴できますか。後ほど御礼に伺いますので。」


 もの凄い圧だ…平民如きが調子にのるな…身の程を弁えろと爺やさんの裏の声が聞こえてきます。


 いえいえ、結構でございます。

 名を名乗る程の者では、ございません。

 女の子や子供が困っていたら救けるのは、当たり前の事ですからお気になさらずに。

 それでは、失礼します。

 …などとモゴモゴと口早に言って、逃げ出しました。


 

 …



 ふー、危ない、危ない。

 ペアの17番の子の所に戻る。

 「ほえー、お姉さん、凄いよ。救けに行くなんて、凄い勇気があるよ。ギルドの人って、皆んなそうなの?こんなにちっちゃいのに凄い。私、お姉さんの事、卒業しても清掃しか出来ないうだつの上がらない人だとばかり思ってた、御免なさい。」

 ウダツって言葉良く知ってるね。

 ちっちゃいのは余計です。

 「救けるのも、救けないのも、自由ですから。」


 僕が、そう言うと、17番の子のお喋りが、何故かピタッと止まった。

 その後は、清掃作業が捗った。

 

 うんうん…やはり、自分が住んでる都市内を清掃するのは気持ちが良い。

 こう、自分の心までも、キレイになるみたい。


 そろそろ、お昼ご飯の時間ですね。

 この進捗状況だと、担当区は時間内に余裕で終わりそうです。

 17番の子に声を掛けて、お昼休憩にしよう。



 

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