指定依頼
制服に袖を通す。
黒地に赤ラインの制服だ。ああ…僕、レッド(士官)になっちゃったよ。ちなみに准尉なので階級章に星は、まだ付いていない。
階級が変わろうと、働かなければ食ってはいけないのは世の理である。この理に外れることができる者は、扶養されてるお子様と、働き終わった御隠居様だけである。
かくいう僕も労働者のゴールである定年退職からの年金生活を補助とした自給自足のスローライフが夢だ。そのために若いうちから年金を積み立てしている。
夢がかなうといいなぁ。
さて、今日も依頼を受けにギルドに来ている。
前回の件以来、指名依頼が増えた。
今までは悪評から指名依頼など無きに等しかったが、どうやらセイロン家の姫を守り通したことで、評価が上がったらしい。
半自営業の身の上の僕には有り難い話であるが、スローライフを夢とする僕にはもったいない話ばかりなので、丁重に断り、原則週休二日制は堅持してます。
よって、今日の依頼は、郊外の植物採取がよかろう。と思ったら、受付から呼び出された。
受付嬢いわく、植物採取等の依頼は、グリーン(新人)やブラック(兵隊)の仕事で、せいぜいブルー(下士官)までの依頼で、レッド(士官)が取る仕事ではないと小言を言われた。
初耳だ。と言い返したら、暗黙の了解です。と言われる。
ならば規則に明記されてないならば良いではないか。と言い返すと、レッドの指定依頼受忍義務を明示してきて、山ほど指定依頼を持って来たので降参した。
受付嬢が、ニッコリ笑顔で指定依頼の中から一件選んでくれた。
端末からデータを画面上にだす。
こ、これは、貴族の10歳児童の護衛任務…。
「アールグレイ准尉は、貴族の接し方が上手いと評判ですから、きっと貴族様にご満足いただけると思います。指定依頼を受けるとギルドと准尉の評価もあがります。期待してます。」
言葉も返さないうちに、勝手に受注扱いして、「次の方〜。」と他のギルド員を呼び込んで話しを終わらせている。
まだ受けるとも言ってないのに、何という押しの強さだ。
呆然と佇みながら、仕方なく詳細データを読み込む。
期間:一週間
対象:キャンブリック・アッサム10歳
アッサムは、現都市王を輩出している名家中の名家だが、キャンブリック君の家は、中央から若干外れている。
それでも僕からみれば、雲の上には変わりなく、ランクでいえば、侯爵よりの伯爵といったところだ。
トビラ都市の衛星都市を領土に持つ辺境伯の次子で、一週間の都市見学中の護衛が任務だ。
むろん護衛はいたが、歓迎に出された牡蠣に運悪く当たり、身動きできない状態らしい。そこで、規律の厳しい西門ギルドに依頼を出したようだ。
添付されている写真には、利発そうな顔立ちの子が写っていた。茶色の髪が長い。女の子?
うーん、子供の世話は、ちょっと苦手かも。
それとは別に、なんだかやな予感がするよ。
今世、僕の勘は良く当たるのだ。