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アールグレイの日常  作者: さくら
天竺行路
218/615

人事一課長の憂鬱

 個室の自席にて、企画書を見る。

 ギルドの人事一課長のわしの処には、レッド以上の将校クラスが関わる依頼の承認の為、すなわち重要事案の企画書があらかじめ来る。


 隊長としてレッド1人、ブルー2人、ブラック18人の変則一個小隊編成か…妥当なところだ。

 南ギルドから、左遷されて来たニルギリ公爵家長子からの企画提案であり、長子が所属する企画課からの発案。…無碍には出来ない。

 主に政治的な思惑からだろう…既に局長会議で、この発案は承認なされている。


 ニルギリ公爵家からの依頼扱いであり、内容はハクバ山の探索により、測量を実施し、地図を作成して人類の版図を広げること。

 …企画の内容自体は、悪くはないな。

 だがギルド的には、あまり旨味は無い、儲けが少ない企画だ。

 それに何故にハクバ山系の探索なのか、…よく分からん。

 海沿いは、既に探索されて、Heat Oceanまで拠点が伸びている。…発案者は、内陸部の探索一番乗りの名誉を欲しているのかもしれない。


 ふん…可もなく不可も無い。

 わしは、承認印を押して、決裁箱に放り込んだ。


 

 

 

 ニルギリ貴族発案の企画は、実施され…失敗したと聞いた。


 まさか、ハクバ山系に山の主級の変幻自在体がいるとはな。

 依頼を受けたレッドの報告では、大精霊級の顕現であり、ハクバ山系を支配に置いているという、戦いにすらならず蓬々の程で逃げ出して来たらしい。

 二度と来ない約束で、命を取られなかったそうだ。


 これを甘く見るものは、手痛いしっぺ返しを喰らうであろうな。

 人は、この世界の主人公面をしているが、そうではない。

 そして自然精霊系の怪異は、概して人間より賢く、大いなる力を持っている。

 人を生かして返したのは、殺す理由が無かったからに過ぎない。わざわざ蟻を踏みつぶすのが面倒だっただけだろう。


 依頼を受けた者達には不運であったな。

 だが、山主級の怪異と遭遇して命があっただけ幸運であっと言える。





 しばらくして、またも企画課から提案があった。

 第二回のハクバ山探索の企画だ。

 前回の失敗に懲りなかったらしい。

 既に局長会議で承認済み。

 ニルギリ家の長子は無能の癖に、政治的圧力は使えるらしい。


 しばし、考えた。

 企画書を見るに、内容は前回と変わりない。


 うーん、…何故に人は、こんなにも愚かなのだろうか?

 

 これって大精霊級の怪異に喧嘩売ってるよね。

 しかも、何も対策してないし。

 下手すると、自然精霊の怒りに、都市が全滅しかねない企画だ。

 そして何故に、この企画書が私の手元にあるのだろうか?


 都市内で、平和に暮らしている家族の事を思った。

 ああ、知らなければ、こんなに憂うことはなかったろうに。

 …胃が痛いよ。

 左手で胃の辺りを抑える。


 わしに、今、出来ることを考える。


 …



 …解決できる者をメンバーに紛れ込ませるしかないな。

 何人かの顔と名前が頭に浮かぶ。

 わしの頭の中には、3桁のレッド以上のギルド員プラス有望な者のデータが入っている。


 そう言えば、…ジーニアスからの企画提案があったな。

 組織活性化の為の、探索系任務を装った叩き上げからのレッド昇格試験案。

 ジーニアスが投資として予算を出したとしても赤字で、立ち消えになった企画。


 よし、ジーニアスには、裏任務として参加してもらおう。

 企画課の提案書には、レッド昇格試験案の追加修正案を添付して、ジーニアスに丸投げだ。

 レッドには、ジーニアス執心のテンペストを入れるが良かろう。

 ブルーの選抜には、若手のダージリンに任せてみるか。

 下手をすると、都市が壊滅しかねない事案だ。

 層は、厚みを持たせた方が良い。

 更に、責任者をハッキリさせよう…あくまでも、責任者は、発案したニルギリ家長子であることを、くどいほど明記しておく。

 

 わしは、修正案を追加条件付きで、了承印を押印した。


 わしの出来ることはやった。


 わしは、部屋にある戸棚の観音開きの扉を開けて、黒山羊様の偶像に手を合わせる。

 人事を尽くして天命を待つ。


 黒山羊様、人事は尽くしましたので、あとは宜しくお願いします。


 何の因果か、極稀にこのような事案がわしの元に来る。

 でもいつまでも、心に留め置いたら、心がストレスで病んでしまう。

 正直、効くか効かぬか分からぬが、黒山羊様は、この手の事案に御利益があるらしい。

 御参りすると、スッと心が軽くなった気がした。



 まあ、いっか…。まあ、一課だけに。

 …ククク。



 あとは、テンペストとジーニアスがなんとかするだろう。

 …まかせたぞ。


 わしは、部屋の窓から平和な街並みを、眺めた。


 今日の昼飯は、カレーピラフが食べたい。



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