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アールグレイの日常  作者: さくら
天竺行路
217/617

延長

 えーと、順調に期日が過ぎ、一日前に、全員無事であり、異常無しの報告を、ロッポ中尉が本部報告すると、再三何も無かったかを確認された後に、またも延長の依頼が来た。


 え!何それ、どうなってるの?

 流石の僕も、不審に思う。


 ロッポさんも、首を捻っているところを見ると、まるで心当たりが無いらしい。


 スポンサーの一人であるエトワールを見る。

 「私が依頼したのは、最初の依頼だけ。よって私は初回分しか報酬は払わないし、継続から既に私はスポンサーではない。後は、延長を決めたギルドの予算から支払われることになると思う。それは既にギルドに通告確認済み。だいたい一個分隊規模とはいえ、全員レッドとブルーの精鋭だぞ。いくらかかると思ってる?こんな何週間もの依頼料、個人で払えるわけがない。赤字だよ。個人的な目的と合致し無ければ、こんな依頼なんかしないわ。」

 …察したらしいエトワールが、僕の疑問に饒舌に答える。


 「個人的目的って、なーに?」

 僕が聞いた途端に、赤面して絶句するエトワール。

 

 いえ、深い意味無く聞いたんだけど、これほどの反応があると、尚更聞きたくなってくる。

 「個人的目的って、なーに?」


 「アールには関係無い…ことも無いけど言う必要はない。」

 エトワールは相変わらず赤面したまま、煮え切らない回答を言う。


 …それって、僕に関係あるってことじゃん。

 尚更、聞きたくなるよ。

 でも口を開き掛けたら、エトワールに止められた。


 「待て!…ちょっと待て。本当に言えないのだ。言うと私に不利益が発生するやもしれない。アールは、それで良いのか?興味本位に聞くことで、友達に不幸が訪れて、それを善しとすると言うのか?」

 エトワール、必死だ。


 いや、別に、それほど聞きたいわけじゃないけどさ。

 どうせ、エトワールが必死になる程、大した理由でもないと思うし…まあ、いーよ。

 人の嫌がること、したいわけでもないし。


 じゃあ、いーよと、追及を止めると、心底ホッとしている。

 うーん、いったい何だろうか?



 それにしても、延長の原因がエトワールでもないとすれば、何が原因なのか?

 非常に気になるし。

 原因が、全く分からないのは不安だ。


 表の任務である、ハクバ山、カゲ山の測量は、今日で全部終わっている。

 裏の任務である、ブルー達のレッド昇格試験も、合否は不明なるも、少なくとも武力においては、通常のレッドの平均実力を上回っている。


 今日実施したブルーの総当たり戦では、皆、実力伯仲していて甲乙付け難い。

 恐るべきことに、僕が見せた技の数々を吸収して、更にアレンジして使用している猛者もいる。

 これが才能の差と言うものですか?


 分かりやすく強さを数値で表すと、最初の数値を150とすれば、現在は300オーバーです。

 僕でも、油断は出来ない数値です。

 ツルカメ…ツルカメ。


 ならば、表も裏も、任務達成です。おめでとう…パチパチ。

 これ以上、彼らを強くして、どうしろというのか?



 レッド三人ガン首揃えても、回答が出ないので、男子用テントに全員集めて、依頼を受けるか協議することにした。

 ちなみに、延長依頼の内容は、更に隣山のホトケ山の測量だと思ったのに、予想が外れました。

 依頼内容は、ハクバ山とカゲ山付近の異常の有無の調査であるからに、漠然としすぎて、目的が良く分からない。


 依頼の受諾の有無は別として、諾否それぞれ問題点を挙げたほうが判断しやすいので、意見を述べてもらおう。

 テント内で、車座になって座ってもらった。


 最初は、まず隊長のロッポ中尉から、意見を述べる。

 「まあ、俺から言わせりゃ。目的がハッキリしないし気に食わねーな。だが、俺は依頼が来れば受けるだけさ。この依頼は報酬だけは高いしな。」


 僕の頭の上で寝ていたシロちゃんが起きたらしい。

 モゾモゾとしている。


 エトワールが、次に述べる。

 「…判断出来ない。よって、私は保留だ。だが、ある程度は推測出来る。この度の命令権者は、引き際も判断出来ない無能だ。だが、私達に何かを期待している。その何かを、私達は、未だに達成していない。だから繰り返し同じ依頼がエンドレスで来るのさ…これからも。」


 僕の頭から、シロちゃんがバビューンとテント内を、飛んでいく。シロちゃんは、子供だから、寝て起きたら遊びだす。

 仕方ないよね。


 「さて、その未達成の何かだが、実は、私が所属する人事部の方から問い合わせて、探ってもらったのだが…。」


 シロちゃんが、エトワールの頭にフワリと着地して、寛いでいる。

 憮然な顔になったエトワールが、頭を揺すると、パッと飛び出して、僕の胸元に帰ってきた。

 まるで、「お母さん、僕、遊んでるだけなのに、あの人が僕をいじめましたよ。」と、訴えかけるように僕を見つめてくる。

 うんうん…僕は、シロちゃんの味方です。


 「アール、そのモモンガ何とかならないか?邪魔とは言わないが、ピョンピョン飛び回ると気が散る。」

 案の定、エトワールから苦情が来た。


 「子供だからね。遊びたい盛りなの。でもちゃんと言えば、言う事聞くよ。ほら、遊びたいならエトワールのとこに行って許可もらっておいで。」

 僕は、シロちゃんを、高く掲げてエトワールの方へ飛ばす。

 滑空して、エトワールの胸元へ着陸するシロちゃん。


 シロちゃんは、エトワールを見上げて、つぶらな瞳で「僕、遊んじゃいけないの?」と訴えかけている。

 「う、…まあ、よかろう。」

 あっさりと、シロちゃんの可愛いさに陥落するエトワール。

 まあ、僕、エトワールが子供や動物に甘いことを知っている。予定通りの反応です。


 「コホン、話しの続きだが、かなりガードが高いらしく、結局は、何が目当てなのか分からなかった。だが、ロッポ中尉の言うとおり報酬だけは良い。不安要素は残るが、このメンバーなら大抵のことはなんとかなる。ウバ曹長、食材はどうだ?」

 結局、エトワールは、シロちゃんを手元で撫でている。

 女の子は、可愛いものが好きなのだ。


 「食材は、余分に積み込んでいますので、これからも現地調達できる仮定で、何とか持ちます。ただ、これからも天候が保つかどうか…それに無意識の蓄積疲労もあるかと…。」

 ウバ君は、慎重派らしい。

 ただ、意見を言うだけに留めている


 この時、黙っていたルフナが、挙手をする。

 む、自分から率先して意見を述べるとは、講習で、下士官の意識に目覚めたか?

 「帰りたい…酒が切れた。」


 全く参考にならないけど、帰りたい理由がハッキリと分かる。だから、誰も反論ができない。

 

 指揮官のロッポ中尉が延長に賛成し、エトワールが保留。

 あ、しまった。僕が立場的に反対意見を述べるべきであった。でなければ、誰も反対しにくくなる。

 これは、ルフナがフォローしてくれたと見るべきか。


 「中尉、決をとりましょう。因みに僕は、所要があり延長には反対です。」

 端的に述べる。

 反対意見は、しっかりと言う。

 たとえ、自分の意見が反映されなくても関係無い。

 旗幟を鮮明にすることに意味がある。


 中尉が挙手で決を取る。 

 「では、延長賛成の者?」


 …誰も手を上げない。あれ?


 「では、延長反対の者?」

 僕を含め、全員が手を挙げる。

 あれ?…中尉とエトワールも挙げている。

 中尉は賛成だったし、エトワールも保留って言ってたじゃん。


 「よし、全員一致だな。延長依頼は断わろう。」

 中尉が、周りを見回して、断言した。


 …こうして僕のバカンスは、終わってしまった。

 あれれ?



 


 

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