延長
えーと、順調に期日が過ぎ、一日前に、全員無事であり、異常無しの報告を、ロッポ中尉が本部報告すると、再三何も無かったかを確認された後に、またも延長の依頼が来た。
え!何それ、どうなってるの?
流石の僕も、不審に思う。
ロッポさんも、首を捻っているところを見ると、まるで心当たりが無いらしい。
スポンサーの一人であるエトワールを見る。
「私が依頼したのは、最初の依頼だけ。よって私は初回分しか報酬は払わないし、継続から既に私はスポンサーではない。後は、延長を決めたギルドの予算から支払われることになると思う。それは既にギルドに通告確認済み。だいたい一個分隊規模とはいえ、全員レッドとブルーの精鋭だぞ。いくらかかると思ってる?こんな何週間もの依頼料、個人で払えるわけがない。赤字だよ。個人的な目的と合致し無ければ、こんな依頼なんかしないわ。」
…察したらしいエトワールが、僕の疑問に饒舌に答える。
「個人的目的って、なーに?」
僕が聞いた途端に、赤面して絶句するエトワール。
いえ、深い意味無く聞いたんだけど、これほどの反応があると、尚更聞きたくなってくる。
「個人的目的って、なーに?」
「アールには関係無い…ことも無いけど言う必要はない。」
エトワールは相変わらず赤面したまま、煮え切らない回答を言う。
…それって、僕に関係あるってことじゃん。
尚更、聞きたくなるよ。
でも口を開き掛けたら、エトワールに止められた。
「待て!…ちょっと待て。本当に言えないのだ。言うと私に不利益が発生するやもしれない。アールは、それで良いのか?興味本位に聞くことで、友達に不幸が訪れて、それを善しとすると言うのか?」
エトワール、必死だ。
いや、別に、それほど聞きたいわけじゃないけどさ。
どうせ、エトワールが必死になる程、大した理由でもないと思うし…まあ、いーよ。
人の嫌がること、したいわけでもないし。
じゃあ、いーよと、追及を止めると、心底ホッとしている。
うーん、いったい何だろうか?
それにしても、延長の原因がエトワールでもないとすれば、何が原因なのか?
非常に気になるし。
原因が、全く分からないのは不安だ。
表の任務である、ハクバ山、カゲ山の測量は、今日で全部終わっている。
裏の任務である、ブルー達のレッド昇格試験も、合否は不明なるも、少なくとも武力においては、通常のレッドの平均実力を上回っている。
今日実施したブルーの総当たり戦では、皆、実力伯仲していて甲乙付け難い。
恐るべきことに、僕が見せた技の数々を吸収して、更にアレンジして使用している猛者もいる。
これが才能の差と言うものですか?
分かりやすく強さを数値で表すと、最初の数値を150とすれば、現在は300オーバーです。
僕でも、油断は出来ない数値です。
ツルカメ…ツルカメ。
ならば、表も裏も、任務達成です。おめでとう…パチパチ。
これ以上、彼らを強くして、どうしろというのか?
レッド三人ガン首揃えても、回答が出ないので、男子用テントに全員集めて、依頼を受けるか協議することにした。
ちなみに、延長依頼の内容は、更に隣山のホトケ山の測量だと思ったのに、予想が外れました。
依頼内容は、ハクバ山とカゲ山付近の異常の有無の調査であるからに、漠然としすぎて、目的が良く分からない。
依頼の受諾の有無は別として、諾否それぞれ問題点を挙げたほうが判断しやすいので、意見を述べてもらおう。
テント内で、車座になって座ってもらった。
最初は、まず隊長のロッポ中尉から、意見を述べる。
「まあ、俺から言わせりゃ。目的がハッキリしないし気に食わねーな。だが、俺は依頼が来れば受けるだけさ。この依頼は報酬だけは高いしな。」
僕の頭の上で寝ていたシロちゃんが起きたらしい。
モゾモゾとしている。
エトワールが、次に述べる。
「…判断出来ない。よって、私は保留だ。だが、ある程度は推測出来る。この度の命令権者は、引き際も判断出来ない無能だ。だが、私達に何かを期待している。その何かを、私達は、未だに達成していない。だから繰り返し同じ依頼がエンドレスで来るのさ…これからも。」
僕の頭から、シロちゃんがバビューンとテント内を、飛んでいく。シロちゃんは、子供だから、寝て起きたら遊びだす。
仕方ないよね。
「さて、その未達成の何かだが、実は、私が所属する人事部の方から問い合わせて、探ってもらったのだが…。」
シロちゃんが、エトワールの頭にフワリと着地して、寛いでいる。
憮然な顔になったエトワールが、頭を揺すると、パッと飛び出して、僕の胸元に帰ってきた。
まるで、「お母さん、僕、遊んでるだけなのに、あの人が僕をいじめましたよ。」と、訴えかけるように僕を見つめてくる。
うんうん…僕は、シロちゃんの味方です。
「アール、そのモモンガ何とかならないか?邪魔とは言わないが、ピョンピョン飛び回ると気が散る。」
案の定、エトワールから苦情が来た。
「子供だからね。遊びたい盛りなの。でもちゃんと言えば、言う事聞くよ。ほら、遊びたいならエトワールのとこに行って許可もらっておいで。」
僕は、シロちゃんを、高く掲げてエトワールの方へ飛ばす。
滑空して、エトワールの胸元へ着陸するシロちゃん。
シロちゃんは、エトワールを見上げて、つぶらな瞳で「僕、遊んじゃいけないの?」と訴えかけている。
「う、…まあ、よかろう。」
あっさりと、シロちゃんの可愛いさに陥落するエトワール。
まあ、僕、エトワールが子供や動物に甘いことを知っている。予定通りの反応です。
「コホン、話しの続きだが、かなりガードが高いらしく、結局は、何が目当てなのか分からなかった。だが、ロッポ中尉の言うとおり報酬だけは良い。不安要素は残るが、このメンバーなら大抵のことはなんとかなる。ウバ曹長、食材はどうだ?」
結局、エトワールは、シロちゃんを手元で撫でている。
女の子は、可愛いものが好きなのだ。
「食材は、余分に積み込んでいますので、これからも現地調達できる仮定で、何とか持ちます。ただ、これからも天候が保つかどうか…それに無意識の蓄積疲労もあるかと…。」
ウバ君は、慎重派らしい。
ただ、意見を言うだけに留めている
この時、黙っていたルフナが、挙手をする。
む、自分から率先して意見を述べるとは、講習で、下士官の意識に目覚めたか?
「帰りたい…酒が切れた。」
全く参考にならないけど、帰りたい理由がハッキリと分かる。だから、誰も反論ができない。
指揮官のロッポ中尉が延長に賛成し、エトワールが保留。
あ、しまった。僕が立場的に反対意見を述べるべきであった。でなければ、誰も反対しにくくなる。
これは、ルフナがフォローしてくれたと見るべきか。
「中尉、決をとりましょう。因みに僕は、所要があり延長には反対です。」
端的に述べる。
反対意見は、しっかりと言う。
たとえ、自分の意見が反映されなくても関係無い。
旗幟を鮮明にすることに意味がある。
中尉が挙手で決を取る。
「では、延長賛成の者?」
…誰も手を上げない。あれ?
「では、延長反対の者?」
僕を含め、全員が手を挙げる。
あれ?…中尉とエトワールも挙げている。
中尉は賛成だったし、エトワールも保留って言ってたじゃん。
「よし、全員一致だな。延長依頼は断わろう。」
中尉が、周りを見回して、断言した。
…こうして僕のバカンスは、終わってしまった。
あれれ?