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アールグレイの日常  作者: さくら
天竺行路
216/615

森御主神之命

 ハクバ山系の山々は、数千年以上人跡未踏の地であった。


 動物と鉱物、植物の意識が悠久の時の流れに混然と混じり攪拌し深く深く、異質なる意識体へと変異していく。

 いつしか、それは変化し、形となり、異形なりし生き物へと変わりゆく。


 この世は人間ばかりでは無い。

 人間などは、この世の片隅に間借りするようなちっぽけな生き物。こずけば直ぐに死滅してしまう。


 それは思った…我の表面に二本足が来ていると。

 獣を狩る親子は認めていた…あやつらは我を崇めている。

 しからば、ちっぽけな存在を認めても良い。


 だが、ほかの二本足は別の話。

 奴らは災いをもたらす、樹々を斬り、道をつくり、獣を大量に狩り、森を荒らし、山を崩す。

 我は、森であり、山であり、獣であり、大地である。

 畏れが無い者らとは、相容れぬ。…排除しなければならない。

 奴らの好き勝手にはさせぬ。

 我は、精霊、神霊、悪霊、怨霊…なんとでも言え。

 我は、森に顰みし、全体からはみ出た、暗き蠢きもの。

 森の者らは、我をムササビと呼ぶ。

 我こそ獣の形をしながらも、空を巨体で覆い、一歩で山々を闊歩する大いなる存在よ。


 人間どもに、熊、猪、が、敗れ、我が指示した…小竜までも逃げ出した。

 …これ以上は、見過ごせぬ。


 天空を覆い、巨大な瀑布のような足で、踏み潰してくれようぞ。


 この山や森や大地は、我らの版図。

 二本足どもの好きにはさせぬわ。


 特に似たような模様の二本足のあ奴らは、二度と来ない代わりに生命を救ける約束をした。

 にもかかわらず破りおって…舌の根も乾かぬうちに、又来るとは…我との口上を違えおって…。

 偉大なる我を、二本足如きが、軽んじるとは許さん!


 我が排除しなければ…あ奴らを。…報いを受けるべし!



 あ奴らが、移動しているのが分かる。

 山や森は、我の一部であるからに。

 我の承諾を得ずして、土の精霊に命を下し、従わせているのが分かる。なんたることか。

 我の領分で、好き勝手な事を。

 従う土の精霊もなんたることか!


 今回、侵入して来た二本足は、11体。

 こ奴らの頭は、どれだ?

 精霊を従わせたと思われる一際力ある二本足を観る。

 うちに闇色で覆われた光りが凝縮している御玉が見える。


 見れば見るほど、眩しいほどの光り、しかも…暖かい。

 なんだ…これは?


 …



 うちに見れば、見るほどに輝きを増す太陽のような輝き。

 こ、これは、…光りの御子だ…稀に二本足に下るという。

 魂のうちに太陽を宿している。

 しかも、この光りの御子は、闇の衣を纏ってもいる。

 こ、これこそ、黒主様の加護を持った、闇の御子である証左。


 おお…なんたること。

 なんたることだ。


 光りであり闇でもある、誕生していたのか…口伝、思伝で聞き及んでいた、闇夜を照らす月の御子様。


 …クワバラ、クワバラ。


 悪質な二本足共め。

 我と、月の御子様の潰し合いを目論むとは。ますます腹立たしいわ。

 我が気付かなかったら、我が滅んでいたぞ。

 悪辣な二本足共の浅知恵が腹立たしい。

 

 ふーむ、それにしても、今期の月の御子様は二本足にお下り為されたか…月の御子様は、我ら闇の生き物の守り神であり、我らを滅ぼす処断の神でもある月読様の代理人でもある。

 短く生まれては散るを繰り返す二本足に下るとは、なんたる気まぐれか…いや、もっとも弱き生き物である二本足に宿るとは、実に噂に聞く、あの方らしい。


 悪辣な二本足共に、月の御子様の宿りし御体が利用されるのは、嘆かわしもの。

 よし、二本足の寿命など、もって100年ぽっち。

 お護りする為、今期は、我が憑いておこう。


 それに、まだ月の御子様と確定したわけではなし。

 なにせ、我が御子様と御目見えしたのは初だからのう。

 見極める為にも、憑いておくのが良い。


 これは悠久の時に揺蕩いし我にすれば、瞬きほどの時。

 二本足に言う休暇旅行のようなもの。

 む、我…何だかワクワクしてきたぞ。


 広大な山々と原初の深森を支配する偉大なる闇の眷属が一つ、大いなる恐るべき暗黒瞳白面体の大獣である我が、光りと闇を併せ持つこの方を、月の御子様に相応しいか見極める為、今代の御子様候補として御守りしようぞ。

 闇側で、御子様に憑くのは我が一番ぞ…ふふふ。




 --・--・--




 「あれ!アールグレイ様の頭の上に乗っている、それ、何ですか?」

 「ん…この子のこと?」

 僕は、ショコラちゃんの問いかけに、頭の上に乗っているモモンガを指差した。


 僕の頭の上に乗っかっているモモンガが、キュッと鳴いて立ち上がった気配がする。


 「今朝方、お洗濯していたら、森から出て来たの。試しに胡桃あげたら、懐かれちゃって、森に帰ってくれなくて困ってます。小さいからムササビでは無くてモモンガだと思うけど。」

 僕は、頭の上にいるモモンガをそっと手に取ると、ショコラちゃんの目の前に持って行き、手の平を広げて見せた。

 モモンガは、大人しく、ジッとして、ショコラちゃんと見つめ合っている。


 …


 しばらくして、ショコラちゃんが聞いてきた。

 「このモモンガちゃん、これからずっと付いて来る気がします。…お名前はあるんですか?」


 「んー、…名前は、まだ無い。…でも、まあ、付けるとすれば、体が白いから、仮にシロちゃんでいいかな。安直?」

 「いいえ、良いと思いますよ。」


 うーん、こんなに小さいし、親と、はぐれたかもしれない。

 だとしたら、大人になるまで保護しても良いかも。


 僕は、小さいシロちゃんを、優しく撫でた。

 気持ち良さそうに目を閉じるシロちゃん。


 ペンペン様と仲良くしてくれるかな?




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― 新着の感想 ―
[良い点] 滅ばなくて良かったね、シロちゃん。 [気になる点] ペンペン様は何者なんだろう。 [一言] ひ、百話近くブルーとのあれこれが続くとは思いませんでした。長かった……。
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