継続
6日目の朝、ロッポさんと、エトワールから、ハクバ山探索の継続依頼の話しを聞いた。
ロッポさんが、途中報告で、無事順調であり予定通り終了出来る旨を、本部報告したら、何回も無事であることを確認され、測量継続依頼が来たらしい。
測量場所は、隣山の影山が対象です。
こんなバカンスの様な依頼、二度と無いから構わないけど、自宅のペンペン様が心配です。
そろそろ買い置きしていた、パンなど食料品が尽きるかも。
携帯から自宅に電話を掛けてみる。
かなり長い呼び出し音が流れた後、ペンペン様が出た。
「…ウキョー、ウキョキョ、ウキュウ、キョ!」
ふむふむ…なるほど。
…まったく分からない。
ペンギンの言葉など、僕に分かる訳がない。
けれども、彼ら魔法生物は、人間の言葉が分かるらしい。
その一事だけで、彼らが人よりも、よっぽど上等の生き物だと言うことが分かる。
だから、僕から事情を一方的に話す。
電話の向こうから、ウキウキ、ウキョウキョと、相槌を打っている鳴き声が聞こえてくる。
最終的に、ウキュー!という鳴き声と共に通話が切れました。…声の調子からすると了承してくれたらしい。
まあ、自宅には非常食料が常備されているし、冷凍食品もある。お米のストックも十分ある。
ベランダのプランターには、各種野菜も生えているし…いよいよとなれば、戸棚の奥に蜂蜜の大瓶がありますから、ペンギン一匹くらいなら、一ヶ月は余裕で大丈夫でしょう。
僕よりも逞しいよ、ペンペン様は。
でも、連絡しとかないと機嫌が悪くなるのだ。
憂いが晴れたので、ロッポさん達にOKをだす。
でも、本部の反応が腑に落ちない。
…気になります。
もしかしたら、僕達には僕達の思惑がある様に、本部には、又、別の思惑があるのかもしれない。
この件は、朝食の際、ブルー達にも、連絡された。
何故か、全員了承し、継続依頼を受諾。
議案は、必ず賛否両論ある。
もし、無ければ異常であり、議案自体を作り直した方が良い。それは一時的な感情や、誰かの恣意的な影響を受けてる場合があるからで、歪んで誤った結論を選ばぬようにとの為です。だけど、今回は、特殊事例。
ブルー達は、全員レッド昇格が掛かっている。
断ろうにも、断れない。
「ロッポ中尉、本部は依頼継続について、他に何か言ってませんでしたか?代替依頼を用意するとか?」
僕は、皆の前で、本部の意向を確認した?
これは、本部が僕達を対等に大切にみているか、確認する為。何も無ければ本部は、僕達を下にみて、大切にしていない一つの証左になる。これが積み重ねるほど、僕は本部を信用しなくなる。
ロッポ中尉の答えは否であった。
決定…今回の依頼出しの決定件者は、責任感希薄の無能。
僕の中の組織への信用は、また一つ失われた。
僕らは、基本、自営業。
公共の福祉を目的にした、共通理念の制約を受ける、一みなす公務員の側面があるから離反はしないけど。
でもこれは、明らかに自由意志の阻害。
僕は、あまり、この様な依頼の仕方は感心しない。
最初から人の選択の自由が無い依頼は、敢えて否と言いたいけど…。
ショコラちゃんが、喜んでいる。
満面の笑みだ。
フォーチュン曹長以外は、大なり小なり皆、嬉しいらしい。
フォーチュン曹長は、面倒くさそうな顔している。
それでも継続依頼は受諾すると言う。
ねえねえ、僕の中では、君の態度から、君が裏試験官であることが8割方決定している。
君、こんなにあからさまで大丈夫なのですか?
もしかして、無理矢理本部に依頼を受諾されたのか。
フォーチュン曹長だけが、最初からやる気が無かったし。
君も、結構苦労しているんだね。
ギルドは、実力至上主義を採用している。
更に、規律、規範を重要視している。
僕としては、概ね、この職場に満足しているけど、三番目に自由をいれたい。
自由とは、我儘や気まぐれとは一線を画する、似て非なるもの。実力主義や規律と相性が良いと思うし。
ああ、誰か実力あって野心ある人が、ギルドを良き方に改革してくれないだろうか。
僕は、上に行く程、自由が無くなる気がするから、これ以上、上には行きたくはないけど。
他力本願では、願いは叶いそうに無いけど、少尉と言う階級だけで、僕、お腹いっぱいです。
すると、将来的には、今、ブルーのこの子達が、僕の上司になる事もあり得ます。
うんうん…ならば、今のうちに胡麻でも擦っておこうかな。
「君達、食後の紅茶でも、どうだい?」
思ったことは、即、実行です。
声を掛けて、恐縮するブルー達に、紅茶を入れていく。
フフフ…これで、将来偉くなった時に、僕を思い出してくれるだろうか?
まるで、悪代官に賄賂を渡す商人の気分です。
お代官様、これでよしなに。…紅茶を注いでいく。
越後屋、お主もワルよのう…いえいえ、お代官様ほどではごさいません。わっはっは。自作自演です。
…少し楽しい。
はっ…視線を感じる。
ティナ君がエトワールの影からジッと見ている。
君達、結構仲が良いよね。
ティナ君は、僕と目が遭うと視線をずらしてエトワールの影に完全に隠れてしまった。
うん…僕、完全に嫌われてるね。気分が落胆する。
前世で、可愛い野良猫に近づいて何度も逃げられた記憶が浮上する。…哀しいけど、ティナ君の自由です。
でも、いつかは仲良くしたい。
…
皆で、紅茶を堪能しつつ、自然と小会議に移行。
皆で話しあい予定を決めて行く。
予定通りならば、期日は、もう一週間伸びる。
今日が、当初の予定の最終日一日前なので、今日中にはハクバ山の測量は終わらせる。
明日一日で、拠点を影山に移動。
影山は、五日間で測量を終了させ、六日目でバスに戻る。
予備日を一日設ける。
以上、決まった。
さあ、今日一日の始まりです。
今日の午後の自由時間は、僕も、皆に倣って訓練しようかな。