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アールグレイの日常  作者: さくら
天竺行路
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散策と雑談

 やれやれ…。

 人は、普段、他人から誉められたい、認められたいと無意識に思ってたりする。承認欲求と言うものです。

 でも、ジャンヌの場合は、やり過ぎです。


 自分の身になって、想像してみて。


 誉められ過ぎは、恥ずかしくて居た堪れない気持ちになります。しかもプレッシャーです。

 過ぎたるは及ばざるが如し。


 メキョメキョ!


 うんうん…やはり、庶民的感覚って大切だよね。

 誉められて、自分が偉いと勘違いしてはいけない。

 人は、そんなに変わらない。

 ドングリの背比べだ。

 

 それなのに偉いと勘違いする。

 偉い地位にある人が、自分自身が偉いと勘違いするのと一緒かもしれない。


 メキョメキョ。


 他人を、尊敬し、偉いと思い、真似する。これはOK。

 でも、自分自身を、偉いと思い、勘違いする。これはダウトだ。まともな感覚を取り戻し、振り返ることができる人はましな方で、当時を思い出し恥ずかしいという罰を受ける。ある意味、黒歴史だ。


 メキョメキョ!


 大人になっても、黒歴史を伴うとは、…なんて恐ろしい。


 これを避けるには、まず偉い地位にはならない。

 間違って偉い地位になってしまった人は、役割りを真っ当してもらわなければならないのだけど、孤独な責任感に潰れ、変質して、他者を圧迫し、他者を責め、他者を蔑めるようになるぐらいなら地位を返上した方が良い。

 圧倒的に向かない人が、責任ある地位に就くと、自分も周りも不幸になる。


 黒歴史を避けるには、誉められないことも肝要。

 でも、多少ならば、たまにならば、友達から誉められたら…やる気がでるかも。


 御褒美です。


 すると、誉めというのは、味覚に例えれば、甘味なのかも、調味料ならば、砂糖なのかも。

 美味しいけど、摂り過ぎは身体に毒になる。

 うんうん…言い得て妙です。僕、上手いこと言うなあ。


 メキョメキョ!


 さて、僕は今、山の森の中を歩いている。

 道なき道を行くのは、割と大変で、遥か昔は道であったはずの山々を結んだ稜線を、道を作りながら歩いている。


 先程から、メキョメキョ!と、音がして五月蝿いのは、魔法により、土が道へと変化していく音なのです。


 土を、造成すると、どうしても音がでる。

 魔法が土に干渉する際、僕の場合、メキョメキョと奇妙な音が出る。


 気になりました?


 まるで数千年寝ていた土の妖精を、魔法の騒音で無理矢理起こして、整列させてる様な感覚…あくまでも、僕の勝手なイメージです。




 今、何をしてるかと言うと、散策です。

 僕は、余暇を利用し、山の中を散策しております。

 お昼にソーメンを食べ終えた昼下がり、腹ごなしの意味も込めて、散策しています。


 ロッポさんは、午前中、補助員を数名連れて測量。

 午後は、御休憩。

 エトワールは、午前中、指導内容の修正、午後はブルー達への訓練の個別指導。

 僕だけ暇になってしまったので、主に雑用をしている。

 でも雑用と言っても、洗濯と料理ぐらいだから、ルーチンワークで直ぐ終わる。だから他の時間は自由に使えるのだ。


 山の中は、何があるのか危険。

 だから単独行動は基本禁止。

 僕が決めたので、むろん、その決まりは自分も守らなくてはならない。

 …だもんで、交代で僕の趣味に付き合ってもらっている。

 ブルー達に話したら、気を使って全員立候補してくれたけど、犠牲者は一人で良いですから。


 ブルー達は、妙に、気合いの入ったジャンケンで決めてくれた。


 白熱したジャンケン勝負の中、勝ち残ったのはウバ君でした。はい、今日の犠牲者は、ウバ君に決定。…ウバ君、悪いね。

 ショコラちゃんが、ガックリとテーブルに両手を着いて項垂れてる。

 ジャンヌが、空を見上げている。

 最後まで残ったアンネは、自分が出したチョキを見つめていた。

 男子陣は、割と平静でした。

 うん、まあ、訓練に集中できるから、ホッとしていたのかもしれない。

 

 さて、今日の午後だけのバディのウバ君ですが、エトワールや僕と同じ、魔法特化のギルド員、少数派なので、少しだけ親近感を持っている。

 当年16歳、僕の3歳も歳下です。

 僕の後輩は、彼だけ。僕、先輩ですから、導いてあげないと。

 背丈は、初めて会った時は、僕より下だったくせに、いまや同じくらいに伸びている。…いや、並ぶと僅かに越されてるのが分かる。

 むむ…ちょっとショック。

 後輩の癖に生意気な。

 でも、成長期の男の子の背丈は、あっという間に伸びる。

 分かっている。めでたいこと。


 彼は階級も順調に出世している。

 ギルドに入って2年と達ってないはず。

 それなのに、もう曹長とは…近年ギルドで導入された特例人事制度の指定生なのかもしれない。

 これは、学業並びに指定された技能を優秀な成績で卒業した者を、ギルドの人事部が特例幹部候補生として指定して、各階級の在職期間を短縮させる制度だ。


 昨今、割と革新的な人事部の試みだけど、僕は、この制度には割と懐疑的です。

 幹部将校を育てる士官学校ならば既にある。

 優秀な叩き上げなら、放って置いても勝手に上がって来ます。それこそ雑草のように。叩き上げは、そんなヤワでは無い。彼らは実力が階級に見合うか、自分の目で判断する。仮に短縮しても、階級と実力の乖離が甚だしくなるならば、階級自体が意味がなくなるだろう。

 指定された者に、その階級に見合う実力を短期間で備えられるだろうか?

 近い将来、この制度は、自然消滅するか、特殊事例として細々と存続するか、どちらかだと思う。

 始動した案は、中止にはならない。

 あからさまに中止と決定すると、政治的な諸々の問題が発生するから。


 ウバ君の場合、この制度の数少ない成功例かもしれない。


 さて、ウバ君が特例に指定された要因であるが、心当たりがある。それが、彼が魔法特化であること。

 ギルド員の魔法使用者は9割なのに、魔法をメインに使う魔法特化は、割と少ない。

 僕の感覚では、2割を切る。

 純粋な魔法使いだと、もっと少ない。

 僕の見立てだが、ウバ君の魔法は、かなり技術的に秀逸です。精緻と言って良いほどの技能、特に温度変化については専門的に研究してると思う。

 これほどの魔法使いは貴重。ギルド内でもなかなか見かけない。


 これはやはり、戦う場面が多い冒険者ギルドならではだからなのかな。多いのは前衛の脳筋ばかりが目につく。或いは、少ない要因は、学術研究がメインの魔法ギルドに人員を取られてるせいかもしれない。


 そのようなことを、ウバ君と話しながら散策する。

 僕は、普段、割と必要以外喋らない無口だけれども、歳下の子といる時は別です。

 やはり、こちらが気を使ってあげなければ、面倒を見てあげなければという気持ちになります。

 僕は、先輩のお姉さんだからね。優しくしてあげなくては。


 ウバ君も、割と気安く喋ってくれる。

 もしかして、上司、先輩に接待するような気持ちだったら嫌だけど、言葉使いがぞんざいなので、全然気を使ってないのが分かる。

 態度がナチュラルだ。

 きっと将来大物になるだろう。

 

 「え!少尉殿は、…魔法特化なんですか?マジ?」


 「え!少尉殿は、…19歳なんですか?嘘!」


 「え!少尉殿は、…平民だったんですか?何故?」


 マジも嘘も何故もありません。

 僕は、魔法特化で、今年19歳で、庶民です。

 第一思考で、ウバ君と会話する。

 因みに、第二思考で、警戒、察知を、第三思考で、魔法で道造りを担当している。


 ウバ君、会話の端々に入ってくる、その君の、え!ってなんですか?感嘆符が妙に気になるので、聞き返してみた。

 …まあ、世間話ですから。

 

 「うーん、てっきり少尉殿って前衛、拳闘術使用の武術特化メインのオールラウンダーだと思ってました。歳は僕と同じくらいで、貴族だとばっかり思ってました。聞いてみないと分からないものですね。はははっ、すっかり僕の先入観でした。すいません。」

 素直に謝るウバ君。


 すると、割とぞんざいなタメ口調も、同じ歳だと思ってたから?

 見た目、幼く見えるのは、認識してましたけど、僕って、それ程ですか?

 器用貧乏をオールラウンダーと、言い換えればその通りだけど、前衛で戦ったのは君たちに合わせたからで、元々は魔法特化ですから。

 君の時の第二戦は、合わせて魔法戦だったでしょう?

 それより、ザ・庶民な僕を貴族と間違えるなんてあり得ない。今後の為に、詳しく聞きたい。


 「うーーん。ならば、単刀直入に言いますけど、少尉殿は、見た目は、幼くて可愛い気品あるお嬢様です。それなのに戦いかたが超接近前衛タイプのゴリゴリだから、ギャップにビックリしました。中身は… … …なので、コメントは控えさせていただきます。」

 最後の中身は云々は、よく聞こえなかったよ。

 僕って、そんなに幼く見えるの?

 …結構、胸もあるのに。

 思わず、自分の身体を見てみる

 気品?何それ?

 今まで会った貴族のお姫様を、思い返す。


 うんうん…無いな。僕に気品は無用の長物です。そんな物は生えて来てません。


 ウバ君から、そんな風に見られていたとは、意外です。

 ウバ君には、認識を修正してもらう為、念を押しておく。

 あと、僕は、君より歳上で先輩だからね。



 それにしても自分自身の認識と、他者の僕に対しての認識の相違について、今まで考えたこともありませんでした。


 ん!…そう言えば、前世でも似た事があった。

 当時、僕は、他者への無関心からくる優しげな対応、馬鹿には馬鹿な対応、大馬鹿には逃げで対応していました。

 そうしたら、ある日、周りの子に、ちょっと怖いと言われた事がある。

 いやいやいやいや、兎のように柔らかく、対応しているのに嘘でしょう。何故?

 見た目なの?いや、でも見た目も、いつも眠そうな風貌の普通の見た目の男であったと思う。


 兎に角、認識の相違は、多少に関わらずあるものなのだな。

 そして、…それが当たり前なのだろう。

 通算90年、約一世紀の人生経験で、初めて認識しました。

 うんうん…長生きはするものだ。今世は、まだ20年もいってないけどね。

 


 本日の散策コース、土を、メキョメキョ言わせながら、隣山まで行って戻って来る。


 歩きながら、取り留めの無い事を、第四思考で考える。


 センスについて。


 感覚で、選ぶ。

 これは、何と無く分かるような気がする。


 感性で、センスで、選ぶ。

 僕には、全般的に、センスというものが無い。

 だから、僕は分からない。…ポンコツです。

 学生の頃、教官から断言された時は、心理的に反発を覚えたもの。しかし、皆から自然と差をつけられて納得した。


 僕は、平均的に劣っている。理解した。

 感性、センスとは、志向ではないかとも思う。

 ならば、僕にセンス無いのも納得です。

 やる気が無いもの、覇気が無い。


 なにせ、僕は、出不精の面倒くさがりで、いつまでも寝れるし、動物に例えれば、コアラ、ナマケモノのようだ。


 前世の記憶さえ無ければ、僕は、コアラやナマケモノの様な生き方を選択して居ただろう。


 きっと、ウバ君のような子は、センス抜群に違いない。

 羨ましくは無い。

 大変だろうなと思ったりする。


 分相応と言う言葉がある。

 まさにそれ!


 僕は、分相応な庶民になるのだ。

 普通の大人を目指している。


 分相応に働いて社会を支えて、将来は夢のスローライフを目指すのだ。


 そんな考えを、雑談でウバ君に披露したら、呆れた顔で、少尉殿、それは多分叶いませんと予言されてしまった。


 うんうん…ウバ君、昨今の情勢からスローライフが難しいのは、僕は分かっている。

 でも、夢があるから、人は生きていけるのさ。

 夢は諦めてはいけないよと、僕もウバ君に言い返す。

 青年よ、大志を抱け!だよ。



 …



 散策と雑談で、ウバ君と話しが盛り上がって午後を過ごす事が出来た。…楽しい。


 そう言えば、今日は、熊さんに遭わなかった。

 ヒグラシが盛んに鳴いていた午後でした。


 すっかり夏の様な気候…一日が過ぎ去っていく。


 

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