言の葉
月日は、瞬く間にたった。
発案者の手元を離れ、計画が軌道に乗ると、本当に暇。
ロッポさんは、毎日、ブルー達を交代で助手として引き連れて、午前中一杯、測量に向かっている。
でも午後は、ほぼ休憩状態。
ロッポさん曰く、「毎日めいいっぱい仕事を詰め込んで、誰が得をするんだ?少なくとも、俺じゃねぇ。仕事をしたら、その分休む、当たり前だ。疲労を残したら仕事に支障をきたすだろ。休むのも仕事の内なんだよ。仕事を最大のパフォーマンスで高い成果を出すには、まず休む事だ。お前さんも、今の内に休んでおけ。お前さんのような実務職が、一番大変だと俺は思うぞ。何しろ最前線で責任取らなきゃならんからな。まあ、今回は形式上、俺が責任者だから、…頼むぜ。測量は完璧に仕上げるからよ。がははは。」
豪快なんだか、調子が良いのか分からないような物言いをしてくる。
…分かっている。
ロッポ中尉は、人として上等の部類に入る人だと思う。
40年以上、人間をやってるのだから、人間関係で散々苦労した経験があるはずだ。
それなのに曲がらず拗らせずに立派に職業人として務めを果たしている。
だから、たとえ、その言葉の字面の意味や、言い回しが芳しくなくとも気にする必要は全くない。
その言葉に付随する真意が大切で、それは年月と言う風雪に耐えた石の滑らかさに似ている言葉にならないものを、僕なりに感じとっています。
だから、僕の返事は気持ちの上では、「しょうがないなぁ、腰据えて最後まで、僕が責任取りましょう。」となる。
でも、僕も、そのままでは回答しない。
僕が、今、それを言っても詮無きことだから。
行動で証明するしかない。
それは、ロッポさんも分かっていると思う。
「…では、頼まれた件は、善処しますね。」
僕は、ロッポさんの方を見ずに、澄まし顔で答えた。
「…おお。…頼んだぜ。」
ロッポさんが頼んだことなのに、僕の回答は意外だったらしい…あれ?ちょっと困惑しているみたいです。
ロッポさんは、剃っていない不精な顎髭辺りを、右手で摩りながら、ポツリポツリと、僕に言って来た。
「お前さんは…見た目は…そんな可愛い女の子なのに、…たまに、いや、結構頻繁に、古老のように思慮深い伝え方をするなぁ…。俺の爺ちゃんは賢者と言われるくらい賢かったが、お前さんと話してると、時々、その爺ちゃんと会話してる気分になるよ…って、俺、何言ってんだろ?…はははっ、若い娘さんに失礼だったな、忘れてくれ。」
「…光栄です。」
「え?」
「中尉殿は、そのお祖父様を尊敬しているのでしょう?ならば、そんな尊い方に似ていると言われるなんて、光栄です。」
僕は、ロッポさんを正面から見つめて、僕が本当に感じたことを、ありのまま正直に言った。
真剣に言わなければ、伝わらないこともある。
「あっ…。」
ロッポさんは、そう言ったきり、口を開けていた。
しばらくすると、俯き、突如「あー!」と言い、頭をガシガシと掻き出した。
そして、「あ、ありがとよ…。」と言いつつ顔を隠すように去って言った。
うん?伝わったのかしら?
それにしても、ロッポさんの感覚は、かなり鋭い。
だとしても、僕が前世の記憶持ちだとは、想像の範疇ではないでしょう。
うんうん…ばれる事は、まずありません。
もし、指摘されても、僕、否定しますから。
客観的証拠が何も無いので、証明のしようが無いはず。
だいたい告白しても、僕に何のメリットもありませんし。
妙な誤解を受けて、自己の不利益になるだけですから。
真実や正義が、幸福につながるとは限らないのです。
幸福になる為の宗教のお陰様で、不幸が発生している現状を見れば、それは明白です。
僕は、宗教を否定しません。
何故なら僕も、お祈りはしますから。
でも、僕の場合、実は、お祈りの先は頓着してません。
僕の思いや行動が正しければ、悪神、邪神に向かってお祈りしても、その祈りは正しい神様に届くと思うのです。
また、僕がよこしまな思いで願ったり、その行動が非道な行いならば、たとえ正しい神様に向かってお祈りしても、その祈りは、よこしまで非道な神に届くと思うのです。
つまり、僕の信心や祈り先に、神の種別は関係ないのです。
自分の心や行動が大切なのであって、あとはオートマチックなのです。
平たく言えば、やるだけはやる。
あとは野となれ山となれのスタンスなのです。
だいたい神と人の間に、変な具を入れるから、神を悪用する悪辣愚昧な彼奴らがわいてくるのです。
個人的には、神域と管理だけする人が居れば充分ではないかと思います。
話しは、それましたが、僕の物言いって、年寄りくさいですか?
実は、ロッポさんに指摘されて初めて気がつきましたが、ぜ、全然、僕は、気にしてないんですけど。
もしもの話し、将来、僕に好きな人が出来て、年寄りくさいとか言われたら、やはり、ショックかもしれません。
…
長年の経験上、この手の悩みは一人で考えこんでも埒があかないことを、僕は知っています。
これは、ジャンヌに相談してみようかな。