表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アールグレイの日常  作者: さくら
天竺行路
206/615

捕縛術

 心と身体のバランスを取るには、運動が良いらしいと聞きかじったことがある。

 アントワネットは、序列最下位から第5位まで駆け上った。



 泣き止んだアントワネットを、煽てて、演舞を見してもらうことにする。

 少し運動すれば、心身のバランスを取れるだろう目論みと、純粋に、アントワネットの成長具合をみたいから。


 アントワネットは、恥ずかしげにテレテレしながら、腰から3本の樫の木の棒を取り出し、瞬時に組み立てた。

 それは、僕が作ってアントワネットにあげた携帯用の組み立て杖である。




 僕は、以前アントワネットに助言をした。


 内容は、最近僕が感銘を受けた出来事。

 シン・ラプサンスーチョン師こと火猿さんとの対局。

 あの対戦は、火猿さんは勝ちを譲ってくれたけど、内容的には、ぼくの完敗である。


 なかでも最後に見せた技、なんと奥義とも言える技を直前で止めたのは、まさに神技。

 あれぞ、僕が目指す頂の一つ、[不殺の極意]から生じた技の一つであると思う。


 うんうん…あれは凄いよ。普通不可能ですから。

 しかしあそこ迄いかなくても、不殺の概念は、杖という武器にも表れている。


 何が言いたかったと言うと、僕は、繊細な心優しいアントワネットに、相手を殺す必要は無いんだよと伝えたのだ。


 要は、相手が敵対しないように制圧すれば良いだけの話しで、武士の剣術の中には、活人剣なるものもある。

 他に、捕縛術など、殺さずに制圧、武装解除する技は、調べれば、結構ある。 

 もちろん、活人か殺人か、試される場面は、いつかは来るかもしれない。それでも、どちらかを選ぶかは自由だ。

 この実力主義尊重の世界では、活人こそ難しい選択かもしれない。だけどそれは本人の自由自在だと思う。


 あの時、僕の話しを聞いたアントワネットは、

 「… …殺さなくても良いの?」

と、呟いて呆然としていた。

 僕は、その質問に、頷いた。だって、あなたの自由ですから。


 全く、貴族というのは面倒くさい。

 直ぐに殺す殺さないの話しになる。

 二択は、まだましで、何かあると直ぐ殺す一択だ。

 中間は無いのですか?


 あなたが殺したくないなら、殺さないで良いじゃないですか。自由です自由。

 僕は、呆然としているアントワネットの耳元で囁いた。


 そして、当日に携帯用の杖を作って、アントワネットにプレゼントした…更に技を、何手か教えただけ。

 僕がしたのは、それだけ。

 困って泣きそうな女の子が、いたから、少しだけ手助けしただけ。

 お礼を言われるようなことはしていない。

 僕がしたいから、しただけの話し。



 後の努力や修練は、アントワネットが勝手にやっただけだから。



 アントワネットが見せてくれた演舞は、華麗に踊るように流れるような杖と一体となった動きだった。

 綺麗…流麗…魅せるような体術。

 凄い、たった一日経っただけなのに、僕より遥かに上手くなっている。


 多分、杖術自体がアントワネットに合っているのだろう。

 教えた子が、僕を越えていく姿を見ると…不覚にも感動してしまった。

 この子は、自分の力で山を一つ乗り越えたんだ…。

 胸元が熱くなる。


 思わず、拍手して…駆け寄って、両手でアントワネットの手を握って、上下に振り回して、最後に抱きしめてしまった。…凄い凄い。


 アントワネットが棒立ちになって硬直している。

 

 感動です。

 前世を通じて、この様な感動は初めて。

 僕は、アントワネットの師匠ではないけど、たいした手助けはしてないけど、それでも人が成長する姿を間近で見るのは、感動です。凄い。


 この時、僕は接近して来る足音を見逃した。


 味方である深い青色のマークが接近している事は気がついていた。味方であるから気にしてなかった。

 しかも、これほどの深い青色はファーちゃんレベルで、かなりの親近感のある超味方であるから、全然警戒していなかった。


 ガサゴソと垣根を掻き分けて、ショコラちゃんが現れた。

 「アールグレイ様ー!あなたのショコラ・マリアージュが帰って来ましたよ♪… …あ!」


 あ!


 ショコラちゃんの動きが止まった。

 アントワネットを抱きしめていた僕の動きも止まった。


 何も後ろめたいことは、無いはず。

 なのに、なんだろう、このマズイ雰囲気は。

 まるで、浮気現場を見られた亭主のような…。


 ショコラちゃんの目元に涙が滲み出ている。

 「アールグレイ様のバカー!」

 踵を返して駆け去っていくショコラちゃん。


 あ…!

 「少尉殿、いけません。直ぐにショコラ様を追って行って誤解を解いて下さい。早く!」

 アントワネットに諭されて、直ぐにショコラちゃんを追いかける。


 で、でも、僕達、女の子同士だよ。

 誤解も何も無いでしょうに???

 全く、訳が分からない。



 ショコラちゃんに追いついた僕は、訳が分からぬまま、必死に言い訳した。

 散々謝って、ようやく許してくれた。

 解せぬ。

 何故、僕が謝らなければならぬのか…全く分からない。

 でも、何か謝らなければマズイ気がする。


 世の中には、まだ僕の理解できぬ理があるらしい。



 この後、ショコラちゃんから、アントワネット嬢もエペ家の一門ですから、特別に認めますけど、一番は私ですからね。と宣言されたけど。

 うーん…考えたけど、よく分からないよ。


 アントワネットも友達の輪に加わって良いとの、了承なのだろうか?


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ