余暇
ロッポ中尉の測量隊を見送り、キャンプ地をセッティングした後、ブルー達は個別訓練である。
エトワールから、それぞれ課題を出されているらしい。
突然、僕は暇になった。
そう言えば、ロッポさんが指定したブルーは、序列が2位、3位、4位の上位人ばかり。
つまり、序列下位の者らに修練のチャンスを与えたわけか。
ならば、今、序列下位の者らに、私が模擬戦しても修練の妨げになるだけだと思う。
うんうん…だいたい軌道に乗り出すと、最初に携わった人は、暇になるのだな。
後は、彼らの成長を待つしかない。
それでもダメなら、谷底に無理矢理突き落とす方法も考えなければならないけど…。
それは、また後で考えよう…だけれども…ああして…こうして… ……厳しけど、こうするしか……。
ダメだった場合のブルー達のトレーニングメニューを考えこんでいると、視線を感じた。
む、これは…視線の元を振り返って見た。
猟師の息子のティナ君が、樹の影から、僕を震えながら見ていた。
どうやら、遊びに来ていたらしい。
声を掛けようと、ティナ君の方へ、一歩踏み出すと、顔面蒼白になり、僕から一目散で逃げて行った。
あっ…。
やっぱり、これって、僕、嫌われているの?
僕は、基本、他人がどう思おうとも関知しない。
でも、子供に嫌われるのは、少し哀しい。
僕…子供に嫌われるの初めてかも。
やはり、初対面時の印象が悪かったのかも知れない。
そんなティナ君は、意外にエトワールと仲が良い。
僕、エトワールが子供に慕われるの初めて見たし。
すると、これは特殊事例…少なくとも原因の一端はティナ君にありとみてよいのか?
そして、ティナ君なりの僕を嫌う理由が、僕自身にある?
推論としては悪く無い。
次に嫌われている場面の個別検証だけれども…。
「アールグレイ少尉殿、少し話しがあるのだけど、お時間もらえるかしら?」
ティナ君の態度について考察していると、アントワネット曹長に声を掛けられた。
僕が、何もしてない時って、大抵は考えているのだけど、他人には、暇に見えてるらしい…構わない…本当に考えたい時は一人になれる場所に勝手に行く。
「良いよ。ここで構わない?それとも場所変える?」
アントワネット曹長は、高飛車な物言いだけど、前世の記憶持ちの僕には分かっている。
これぞ、ツンデレのツンですね!
僕、分かってますから。
うんうん…彼女の中身は、繊細な傷付きやすい少女なのです。
それを貴族の誇りと傲慢、責務で覆い守っている。
でも、それもまた彼女の一部だから、彼女の心は二層構造となっている…喩えれば、ウエハウス…ミルフィーユ…バームクーヘンみたいな感じ?とっても美味しそう。
出来れば人気の無い場所が良いとの彼女の要望により場所を変えることにした。
アントワネットに付いていく。
少しキャンプ地から離れた場所に。
付いて行きながら、少し観察。
アントワネットは、見た目派手な感じの美女です。
ゴージャス、華麗、豪華という形容が相応しい、プロポーションもメリハリがある…大きい、くびれ、大きい、身長もある。
見た目、かなり歳下…16、7歳に見られる僕とは大違い。
自分のも観てみる…僕も、それなりにあるとは思うけど、アントワネットには負けるよね。
一緒に居ると大人と子供みたいな感がある。
僕より、二つ歳上の見た目は大人のお姉さんです。
でも、その心は、不安定な思春期の少女のよう…。
もし、僕が前世の男だったら、こんな美女に呼び出されるなんて、告白だと勘違いして舞い上がってしまうかもしれない。
でも何の用事だろう?…見当もつかない。
でも、まさかやられることはあるまい…仲間だし。
僕は、アントワネットに関しては、すっかり身内のように感じて安心している。
アントワネットは、人気の無い、ある程度キャンプ地から離れた場所まで来ると振り返った。
「…ありがとう。」
アントワネットは、蚊の鳴くような声で言った。
え?
良く聞こえない。本当に小さい声だ。僕は、聞き返す。
「…ありがとうと言ったのよ!何度も言わせないで!」
…僕…こんな怒られるようなお礼の言葉、初めて聞きました。
…どうやらツンは、まだ続いているらしい。
でも、僕、お礼を言われるようなことやったかな?
僕がキョトンとしていると、アントワネットは、説明不足と感じたのか理由を話し始めた。
「昨日の夜、ダルジャンと話したの…あなたの事。全部私の為なんでしょう?…本当は分かってたの…御免なさい…。」
…
見た目、ゴージャスな大柄な美女が、赤面して恥ずかしがっている。
…良い。
そして、僕が惜しい…僕が男であったならば、きっと盛大に勘違いして惚れちゃってる場面だ。
ならば、僕、女の子で正解だったかも。
それぐらいグッとです。
思わず、親指を立てて、イイネしてみた…通じなかったけども。
しかし、話しは、これだけでは終わらなかった。
「そ、それでね、ダルジャンが少尉殿に、相談した方が良いって言うの。だから話すんだけど…。」
あさっての方向を見ながら、ソワソワしながらアントワネットは話し始めた。
どうやら恥ずかしがっているらしい。
もし、僕が前世の男だったら、なかなか難しいシチュエーションです。…でも大丈夫。僕、今世女の子だから。いくらでも力になるから。話しぐらい、いくらでも聞くから。
ベンチを魔法で造って、座るように促し、僕も隣りに座る。
彼女は、長年悩んでいた曾お祖父さんと、姉のように慕っていたメイドの話しをしてくれた。途中、つっかえながらも気持ちを吐露してくれた。
彼女は泣きながら話す。
僕は、黙って聞いていた。
うん…ヘビィな話しです。
正直、聞いてるだけで鉛を飲み込んだ気持ちになりました。
僕は、話し終わった彼女を抱き締めた。
頭や背中を撫でてやる。
アントワネットは、しがみついて来て、僕の胸に顔を埋めてグスグス泣いている。
傍目から見たら、少女が大人を慰めてるような構図に見えるかも。
すっかり泣き終わった後、彼女は僕に言った。
「あなたに気を許したわけではないから。…勝負は別の話しだから、私が勝ったら言うこと効いてもらうんだから…勘違いしないでよね。」
僕は、ハンカチで彼女の涙を拭いてあげた。