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アールグレイの日常  作者: さくら
天竺行路
204/617

登山

 ハクバ山探索3日目。


 朝、テントの布地越しでも分かるほど明るい。

 目覚める。

 これほどの明るさでは、きっと外は、直射日光が眩しいだろうと思う。

 頭がボゥッとしている。

 昨日は、楽しくて嬉しかった。

 この最高の思い出を抱えたまま、ずっと眠りたい…。


 …


 …でも、そんな訳にもいくまい。

 周りの状況を把握する…僕、なんか柔らかいものに囲まれていることに気がついた。


 昨日は、一番に早々と広々としたテントのど真ん中で寝たはず。


 右側を、首を回して見るとエトワールが寝ていた。

 超直近です。胸元にキス出来る程度に近い。

 角度を変えて、エトワールの顔を見る。

 きめ細かい肌、顔の造作が整っているのが分かる。

 美人さんだ…これで性格が良ければ、引くて数多だろうに。

 溜め息をつく。残念美人さんです。

  

 疑問は、何故に僕がエトワールに抱き締められているかだ。

 僕の右腕をガッツリ巻きつかれるように掴まれて、しかも僕の右手先がエトワールの両脚の間に挟まれている。

 何だろう…これでは動けない。

 しかもエトワールから良い香りがして来る。

 恥ずかしくなり、僕は、左側に顔を振り向いた。


 ショコラちゃんが寝ていた。

 顔が超近い。少し顔を動かすだけでキス出来そう。

 寝ているショコラちゃんの顔を凝視する…可愛い…ショコラちゃんの吐息が顔に掛かる。

 ショコラちゃんから、ほのかに香る、心を掻き乱すような甘い香り。

 何か知らないけど我慢する。

 そして何故ショコラちゃんは、僕を抱き締めているのだろうか?僕の身体全体ににショコラちゃんの手脚が巻きついている。

 ひゃん…何ですか、この状況!


 気がつけば、僕の首から、顎辺りに掛けて、スベスベした柔らかい手が、上方から回されている。

 時折り撫でるように動き、くすぐったい。

 首を伸ばして上方を見る。

 アントワネット曹長だった。

 スヤスヤと安心した子供のように幸せそうに寝ている。

 これでは、文句もつけられない。


 そうすると、消去法で、僕の脚をさっきから、緩々と触っているのはダルジャン曹長?

 脚先から、だんだんと触る場所が登ってきているように感じられるのは気のせい?

 僕は、女性陣に囲まれている。アールグレイ包囲網だ。

 身体を緩々と幾つもの柔らかい手で触られ続け、悶々としながら、皆が起きるのを待った。

 

 

 


 青空を仰ぐ。

 うんうん…良い登山日和です。


 あれから、皆が起きるのに30分位掛かった。

 前世の記憶ある僕としては、男であった時の記憶が呼び起こされて、なんだか悶々して少々辛いのかもと、思い至った。

 むろん、今の僕は女性の意識なので、同性であるから間違いは起こらないし大丈夫。多少ドキドキするだけ。

 でも、僕は前世の自分をも含んだ僕で、誰しも男女別なく、男性的な面と女性的な面はあると思うけど、僕は前世の記憶持ちの分だけ、普通の女性より男性的な面が強いのだろう。

 大丈夫…許容範囲内。


 …


 山の日没は、早い。

 だから、朝早くから支度して、朝食は豚汁にご飯を入れた

雑炊に、刻んだ葱をたっぷりと入れ、卵も入れたものをいただく。

 うん…美味し。


 …

 

 装備を整えて、集合したら出発です。

 おっと、バスの周りに結界を張るのを忘れずにしなくては。


 改めて出発。

 今日は、軽運動なし。


 登山だから、歩いていく。

 走らない。走らない。身体がウズウズしても走っちゃだめ。


 今日は拠点を山頂に移す為、荷物が多い。

 皆んなで分けて持つ。


 銃は有るけど、襲われない限り使用しない。

 僕らの方が、この山では異物であるから、なるべく使わない。生態系を大切にするのだ。

 まあ襲って来たら容赦なく使用しますけど。

 僕は、なるべくこづいて転がしとく方針です。


 先頭で戦闘は、僕です。洒落です…クスクス。

 左隣りにショコラちゃん。道幅が広いけど、僕との距離感が近い近い。例えはなんだけど、まるで僕を主人と認めて、懐いて来た犬のようです。

 僕の隣りにピタッと着いてくる。

 なんだか女の子同士とは言え、距離が近過ぎてドキドキします。

 この距離感は普通なのかな?

 正直、僕は今世でも友達は少ないので、普通かどうか断定できるほどのデータが少ない。


 ショコラちゃんに直接聞いたら、「普通です!」断言されましたので、そうなのだろう。

 そっか、女の子同士は普通なんだ…普通ならば仕方ないよね。

 …人によって距離感って、かなり幅があるのですね。

 学生時代、仲が良かった僕の親友とは、着かず離れずの距離感でした。…たまに僕が落ち込んだ時とかに抱きしめてくれたけども。

 そうか…認識を新たにする。

 ショコラちゃんが嘘をつくはずがない。


 でも、ショコラちゃんが、たまに僕のうなじ辺りに顔を近づけて、クンクン匂いを嗅いで来るような仕草をするのが気になります。


 え!…僕臭いかな?

 き、昨日、ちゃんとお風呂入ったし。

 僕、ま、まだ、加齢臭無いよね。

 そんなに汗も、かいてないし。

 先程とは別の意味の恥ずかしさでドキドキする。


 ショコラちゃんがクンクンするとき、髪が僕の耳に掛かったりしてくすぐったいので、振り向くと、ニッコリと微笑んでいるショコラちゃんがいる。

 うっ…何も言えません。

 不可解ですけど、僕が恥ずかしいだけなので、保留。

 

 こ、これは、もう、昨日の今日で、総合的に判断して親友にランクアップと言っても良いのかな?

 登山でドキドキしてるのか、もうショコラちゃんでドキドキしてるのか、もう良く分からない。

 こんなに仲良くなって、きっと将来、ショコラちゃんがお嫁に行ってしまって疎遠になったら、僕、泣いちゃうかもしれないです。




 さて、後列ですけど、エトワールは、列の真ん中、最後尾はロッポさんを配置しました。

 非常時の際は、それぞれ対応できるよう将校を分けた作戦です。

 山の中は、人跡未踏の地。用心しすぎることはありません。晴れの日でもアンブレラです。



 ロッポさんは、昨日キャンプ地に戻った後、起きたらスッカリ回復していました。

 何やら、とても良い夢を見たようで、因みに寝言で言っていたケイちゃんとは、奥様では無く、初恋の人らしかったです。奥様との仲をからかうつもりで聞いたら、ギョッとした顔をして、固く口止めされました。


 うん…まあ、夢の中ならば浮気にはならないですかね。

 ケイちゃんは、僕に面影がちょっと似てるとか。

 そんなこと聞かせられても、どう反応したら良いのでしょう?…少し困ります。


 性格は、僕とは全然違うとか。

 そんなこと聞かせられても、どう反応したら良いのでしょう?…少しイラッとしました。


 ハッとする。


 うんうん…流石年の功、僕の方が逆にからかわれてることに気がつきました。


 

 登山は、順調。

 前に遭遇した熊さんは、会ってもソソクサと道を譲って来れる…スッカリ礼儀正しい。又は、首を垂れたり、お腹を見せたりしてくる。

 或いは恐怖の悲鳴を上げて全速力で逃げていく熊さんもいる…いやいや、僕、そんなに怖くないよ。むむ、失敬なり。

 まあ、僕、心広いから許しますけど。


 うんうん…やはり僕の対応は、間違いではなかった。

 初対面の印象って、大切だよね。


 極偶に一見さんに会うと襲って来るので、ハートブレイクショットを打ち込み、動きが止まった処で、刹那に三発の拳を正中線上に打ち込んでみる。 

 威力を重要視したトルネードとは違う、速さと精密さに特化したブローです。

 どう?


 熊さんは、コチラをジロッと見た後、目玉がグルリと回って、苦悶の呻き声を一瞬だけ上げ、その場で昏倒した。

 手脚がピクついている。

 うん…こ、効果あり。


 そして、意識無し。

 間があいたから、効かないかなとなどと思ってしまいました。

 だいぶ、ゆっくり行ったけど、昼前には山頂に着きました。

 皆で早めのお昼ご飯のサンドウィッチを食べて後、ロッポさんは、防御に定評のあるショコラちゃん、ダルジャン曹長、いざという時なんとかしそうなダークホースのフォーチュン曹長を指定して測量に出発。

 僕との別行動を泣いて嫌がるショコラちゃんをダルジャン曹長が宥めて、出発です。

 これ程別れを惜しんでくれるとは、友達名利につきます。


 ショコラちゃん、お仕事頑張って下さいと、手を振って見送る。

 ショコラちゃんは、最後まで、振り返り手を振り返していました。


 さあ、残りの者で、キャンプ地のセッティングですよ。


 今日は、特異事項は、ありません。

 日常に、スリルを求めてはいけない。

 日常とは、通常、何事もないのです。

 やるべき事をやり、食事ができ、住む処があって、仲間がいれば、幸せ。

 あと暇があれば、良いかな。


 見晴らしの良い山頂から、彼方を望む。

 ふむふむ…あの山々を越えた遥か先にハコネがあると言う。

 温泉と山と湖の極楽都市と噂に聞く。

 割りと近いので、いつかは行きたい都市である。


 誰かハコネまでの護衛任務を発注してくれないかな。

 



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