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アールグレイの日常  作者: さくら
天竺行路
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友達

 資力には限りがある。

 資力内で、万事解決しなければならない。


 一時的に限界を越える。

 それは誉められた事ではない。戒めるべし。


 日常を余裕を持って過ごしたい…。

 

 緊張を脱力すると、沸々と考えが浮かぶ。

 一人でお風呂に入る為、服をシュルシュルッと脱いでいく。

 良いと断ったけれども、見張りにダルジャン曹長が着いていてくれる。

 女子全員立候補してくれたけど、そんなには要らない。


 でも、周りに誰かいてくれると安心する。

 ダルジャン曹長、ありがとう。


 真っ裸になりました。

 自然の中での解放感が、素晴らしいです。

 山麓の森の中、森緑の香りに満ちた露天風呂です。

 嗅覚、視覚、触覚と、周りを堪能する。


 「schön!」

 僕には、この世界が素晴らしく綺麗に見える。


 サッと洗ってスルリと湯に入る。

 んーーー。お風呂の湯は、少し熱いくらいが丁度良い。

 熱が!身体の表面から震度で伝わって、体内を解していくようで心まで震える。

 手脚を伸ばす。

 枝葉の間からのぞく天夜を見上げる。

 煌めく星々が見える。


 excellentですよ…。

 今日一日を思い返す。


 うんうん…なかなかの良き一日でした。

 特に山林の中を縦走したのは、良き思い出となりそうです。

 巻道が何箇所かあり、そのまま進んだら、道から外れて迷いそうになったり、途中、山獣を見かけたのも都会では遭遇出来ないものだから、山野に来たのだなと思えてしまう。


 昼間午前中に仕事を済ませて、午後は自然を散策。

 夜は、露天風呂に浸かり、昼間の疲れを癒し、仲間と野外で食事…。

 

 僕って、今、人生を満喫している?

 お湯に浸かっていると、身体の芯まで温まります。


 ん…あれ?気が付くと、湯煙の向こうに人影が見えた。


 …僕一人ではなかったんだ。

 一人だと思って油断して、感激に声を出してしまっていたよ…ちょっと、恥ずかしいじゃない。

 思わず赤面す。

 

 「少尉殿、お湯加減いかがですか?不肖このショコラ、湯加減を調整しておきました。」

 湯煙の向こうから聞こえて来たのはショコラちゃんの声でした。…少し安心してホッとする。


 でも、ショコラちゃん、あなたいつの間に回りこんでたの?

 先程会ったばかりなのに、どうやって僕より早く来たのだろう?

 うーん、魔法では無い。

 何故なら魔法特有の揺らぎが見当たらないから。


 僕は、察知に関しては、最近ちょっとだけ分かって来た気がするのだ。自然な呼吸と同じで常時使っている。

 絶対とは言わないが、ショコラちゃんは今回、まずメインで魔法は使ってないと思う。

 だとすれば、僕の心理的な隙、タイミングと緩急、地理を含め状況、人の動線の把握から総合的に、僕の察知の隙をついて回り込んできたのか?

 なにげに凄いけど…なんか無駄に高性能の能力を使っている気がする。

 いや、もしかして意識すらせずに使っているのかな。

 ショコラちゃんなら、有り得るかも。


 居た驚きに考えを巡らせていたら、スススッと、ショコラちゃんがお湯に浸かりながら、僕に寄って来た。


 そして、ピタっと横並びに身体を貼り付かせてきた。

 えーー?

 ちょっと、位置的に近くないですか?ショコラちゃん。

 ショコラちゃんのくっついた肌が柔らかくて気持ち良い。


 …これって、僕、慕われてるのかな?

 

 でも、なんだか妙な気分になってしまう。

 いけない事をしてる気がして、若干位置をズラして離れる。


 そしたら、ショコラちゃんは、また詰めて来て、ピタリと貼り付いて来だ。

 

 …これって、どんな意味?

 姉的な慕われ方?でもでも僕はショコラちゃんより歳下なんだけど…だとしたら妹的な?

 はたまた、お風呂で、くっつくのはエペ家の風習とか?

 僕って、もしかして家族なみな好待遇?

 思考がグルグル回る。


 流石に、前世でも、こんな経験はなかったです。

 その間でも、ショコラちゃんは何も言わずに、スリスリ擦り寄ってくる。

 僕、これ以上いると、のぼせて鼻血出そうです。


 「ショコラちゃん、そろそろ上がって夕食食べようか。…僕、お腹すいちゃった。」

 僕は、お湯からザバーッと立ち上がりと、ショコラちゃんに呼びかけた。


 「はい。少尉殿。」

 ショコラちゃんは、返事をすると、立ち上がり、浴槽から出ると、何処からかバスタオルを持って来て、同じく浴槽から出た僕の身体を吹き始めた。

 「ちょっ、ちょっと、ショコラちゃん、大丈夫だから、一人で出来るから。」

 「いいえ、私がアールグレイ様のお身体を、お拭きしますから。私にお任せくださいね。」

 ショコラちゃんは、柔らかいのに押しが強い。

 あっという間に、身体のあらゆる処をタオル越しに触れられてしまった。


 僕、凄い恥ずかしいのだけど。

 これって、僕もショコラちゃんの身体を拭いた方が良いのかしら?

 上気した頭で、ボウッとしてると、ショコラちゃんはササッと自分の身体をタオルで水気を取ると、着替えを置いてある脱衣所に行く。

 ハッ、まさか着替えまで?

 僕は、慌てて自分の着替えを置いてある場所まで走った。




 何とか、自分で服を着た。

 何故にショコラちゃんは、そんなに残念そうな顔をするのだろう?

 それならばと、ショコラちゃんは、改めて僕の髪を拭き、熱風の魔法で、髪を乾かしてくれた。

 僕は椅子を作り、座ってくつろぐ。

 魔法って、本当便利。


 …乾かしてくれてる間、なんとなく、ショコラちゃんが近いと感じる。

 嫌ではないけど、戸惑ってしまう。

 これって好かれているんだよね。


 「ねぇ、ショコラちゃん、僕達って友達だよね?」

 ドキドキしながら返事を待つ。

 勇気を振り絞り、僕、聞きました。


 ショコラちゃんの動きが止まり、ちょっと間があった。

 ドキドキ。

 「もちろんです。私は一生涯、アールグレイ様の友達ですから。」

 それを聞いて、僕の身体の内から喜びが湧きだす。


 そっかぁ…友達かぁ…僕達、両想いだったんだね。

 足をバタ付かせる。

 顔がニンマリしちゃう。

 友達、友達、僕の友達…。


 今日、僕に友達が出来ました。

 ショコラちゃんみたいな素敵な友達が出来たなんて、自慢したい。

 僕もお返しに、ショコラちゃんのレモン色の髪を乾かしてあげる。畏れ多いと少し抵抗しましたけど、友達だからと言い、丁寧に乾かす。

 ショコラちゃんの顔が赤い。

 僕に対し、こんなに押しが強いのに、自分が押されると恥ずかしいがりやさんですね。


 手を繋いで、露天風呂を後にする。

 暗がりだから、危ないからね。


 見張っていてくれていたダルジャン曹長に、ありがとうと言った際、ショコラちゃんと繋いだ手に視線を感じた。


 「友達だから!」

 ショコラちゃんと繋いだ手を上に挙げて、ダルジャン曹長に見せる。

 僕の自慢の友達です。


 ダルジャン曹長は、あらあらまあっと表情をして、ショコラちゃんと僕に、ようございましたねと微笑んで声を掛けてくれた。


 明るい場所に出ると、途端に恥ずかしくなり手を離す。

 すると、ショコラちゃんはススッと近寄り、僕に張り付いた。近いです。嫌ではないけど、近過ぎるのでは?

 友達の距離感って、こんな感じですか?

 それともショコラちゃん特有?



 この後、隣りあって、夕食を食べる。

 …美味し。

 豚汁は、五臓六腑に染み渡ります。

 うーーーーん、美味し!

 あまりの美味しさに二度思う。

 猪さん、ありがとう。


 ショコラちゃんが、言い出して献立を決めたらしい。

 ナイスです。ショコラちゃん。

 料理もショコラちゃんメインで作ってくれたらしい。

 美味しいです。ショコラちゃん。


 もし、僕が男だったら絶対プロポーズしてるよ。

 優しくて、綺麗で、可愛いくて、かいがいしく世話してくれて、料理もできる。

 …お嫁さんにしたいNo.1です。


 でも、ショコラちゃんは親しみやすくて柔らかくて優しいから忘れがちだけど、高位の貴族令嬢だから、もし、僕が男で産まれて来たとしても結婚は無理だから。

 女の子同士の友達が一番良い関係かもしれない。


 目の前で、ロッポさんがステーキを焼いてくれている。

 熱い鉄板に、ジュワッと焼いた猪肉の匂いが辺りに漂う。

 タレを肉の上から掛けている。

 美味しそうな、タレと肉の焼ける匂いが鼻口に入ってくる。

 うむ、タレは醤油ベースに大蒜も入っているとみました。

 あれ、絶対美味しい。


 ロッポさんが、はいよっと、焼き上がったお肉を僕の目前の鉄板に置いてくれる。

 切って、一口食べる。


 !


 うう、美味し!

 舌が喜んでいる。

 同じく一口食べたショコラちゃんと、顔を見合わせる。

 んーー!

 美味しい…タンパク質が身体に摂取される喜び。

 微かに葡萄酒の味がする。


 ロッポさんを見ると、良い加減で葡萄酒をお飲みになっている。あれかぁ?

 まあ隠し味に使うだけならアルコール分は飛ぶので大丈夫。

 美味し、美味し、おかわりです、ロッポ中尉。


 ホクホクご飯と豚汁。

 贅沢を言えば、お漬物が欲しい。

 え!あるって?

 アントワネット曹長が持って来てくれた。

 ありがとう、曹長!


 最高です。

 来て良かった。


 最高の誕生日です。

 僕、今日19歳になりました。

 周りに気を使わせてしまうから言わないけど。


 僕、ずっと、この日を覚えているよ。

 嬉しい。

 感極まって、涙が出て来た。

 気付かれないようにササッと袖口で拭く。



 ありがとう、皆んな。



 幸せな気分で、寝ることできました。

 ハクバ山探索二日目終了。

 


 



 

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