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アールグレイの日常  作者: さくら
天竺行路
200/615

天竺

 山の麓のキャンプ地に、無事に帰って来た。

 何事も無し。


 俯いてニヤリと笑う。

 ふふん。


 何となく勝った気になります。

 でも、喜んでいるのを運命の女神に気付かれてはならないのです。だから俯きました。


 世の中は、理不尽な程に不幸や不運が、転がっている。

 まるで、運命の神が、人間に試練を与えるかのように。

 しかし、当たった人間の方は、たまったものではない。

 

 だから、避けるのだ。

 危険を、耳を立てて察知するのだ。

 備えるのだ。いざという時の為に。

 傘は、晴れの日でも持つべきなのだ。山の天気は変わりやすいし、不慮の作為不作為が来るかもしれぬ。


 判断する。決断する。

 正解な決断などは、無い。そんなものは無い。

 ただ、決断して行動する事で、事態を切り拓いて行くしかない。


 もちろん、運命の女神の下りは、僕が心構えとして、勝手にそう思っているだけの話しで、実際には天上に座す神々は、ちっぽけな僕の存在など歯牙にもかけないだろうと分かっている。


 だけど…


 皆んなの姿が見える。

 ショコラちゃんが、大きな鍋の前で、お玉を鍋の中に入れて、かき回してる姿が見える。

 その近くに、エトワールが立っている。


 ルフナが、キームン曹長、アッサム曹長と薪を運んでいる。

 ダルジャン曹長が、アントワネット曹長と一緒に、肉を切り分けている。

 ウバ君が、冷気の魔法を解除しているようだ。

 フォーチュン曹長は居ない。お風呂かな?



 …帰って来た。

 皆んなの元に、無事に帰って来ました。

 何も非日常的なものなど無い一日でした。

 でも、それで良い。

 それが良い。


 お風呂に入り、皆と一緒に夕食を取ろう。

 少しお酒も飲みたい気分だけれでも、ダメダメ。

 今世の僕は、まだ二十歳前だし、アルコールに凄く弱いみたいだから。


 「ケイちゃん、俺、お腹すいたよ…ぐぅ…。」

 後ろから、声が聞こえて来ました。

 あっと、ロッポさんを背中に背負ってるのを、スッカリ忘れてました。

 …クスクス。

 そうですね。僕もお腹空きました。


 

 僕は、僕に気がついて、こちらに向かって手を振っているショコラちゃんとエトワールに、手を振り返しました。

 ショコラちゃんが、さかんに手を振り、声を出しているようだ。

 …まるで、僕に何かを知らせるように。



 もちろん気がついている。

 僕らの後を付けて来た、送り狼ならぬ、送りドラゴンが、僕の後ろに、静かに降り立ったのを。

 気に入らない。

 おそらく隠形の術と静音の術、重力制御の術もかけてるに違いない。

 姑息である。

 これが、生物の王者、強さの象徴であるドラゴンのすることか。

 クルリと半回転して、体内の連環を駆動させる。

 ドラゴンがちょうど体重を乗せようとした脚に、水平型トルネードを打ち込む。

 足払いである。

 …ドウッと倒れる。


 暗褐色の5メートルくらいのサイズのドラゴン。

 ドラゴンにしては、割と小さい…子供かもしれない。


 見下ろして、目線からℹ︎武術を発動させる。

 ドラゴンの目に怯えが見えた。


 成功…ドラゴン程に知能が高ければ、効果あると思ってました。

 僕は、そのまま、ドラゴンを睥睨したままにした。

 僕から、仕掛ける気は無い。

 夕食の時間だし、お風呂にも入りたいから。


 ドラゴンからしてみれば、夕食だと思って、いただきます直前で、食べものから一撃をもらったようなものだから、理解するのに一定の時間が掛かるかもしれないと思う。


 引くなら良し。

 引かぬでも良し。夕食にドラゴンステーキが一品増えるだけの話し。


 ドラゴンは、目を見張り、さかんに首を振ると、夜空に逃げるように飛び立っていった。

 …妙に人間臭い仕草をするドラゴンだ。


 すっかり空が暗くなり始めている。



 「ただいま帰りました。」

 僕は、皆の方に振り向くと、大きな声で挨拶をした。


 今日も、何事も無き日常で助かりました。

 何事も無き日常こそ、至高の幸せだと、僕は思うのです。



 

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