光
上空の辺りを、10匹の蝿が飛び交っている。
ブンブブンブとヨルも眠れず。
「search and jamming 。」
並列して魔法を使っている。少佐と兵長の分も使用しているので、神経がジリジリと摩耗している。と感じる。
例えて言えば、両手に卵を乗せたスプーンを持ち、平均台を渡っているような感覚である。
つまり、超難しいわけではないが、常時、神経を研ぎ澄ませなければ失敗して落ちてしまうのだ。
落ちた対価は、4人の命だ。胃が痛い。
人は同種の行為を司る精神作業を、並列してはできないと言われている。つまり、並列して思考してると思いこんでるだけで、途中で切り替えてるらしいのだ。だとすれば今の僕は意識を高速で切り替えているのだろうか。分身の術のように。
実際のところは分からないが、今の僕は二つの魔法を三か所に掛けている。合計六つの精神作業だ。
車から飛び出した後、僕達は、なんとか走り抜け、廃墟に分かれて隠れた。探知から逃れるため、撹乱魔法も掛けて今に至る。
集中している為、今の僕は、きっと人形のように無表情だろう。
さきほどまで、火力線が、ズッコン、バッコンと廃墟を差し貫き、火柱が上がっていたが、こちらが反応を示さないと分かると無差別攻撃は鳴りを潜めた。
何しろ廃墟都市の森は、かなりの広さだ。東京ドーム25個分の広さである。しかも夜で、森に覆われている。
いくら火力線の魔法の威力が高くても、森を焼き払うには手間だろう。なにより古代文明の遺産を焼き払ったら、魔導兵の首10個だけでは責任は取れないだろう。
午後8時を過ぎた。
このまま隠れて時間切れを待ってもいいかもしれない。僕が神経衰弱に負けなければの話だが。
両の平を上方に向け、立錐して、願う。
気分は、菩薩だ。
この体勢が一番集中できるのだ。
「ねぇ、テンちゃん、テンちゃんて好きなものなーに?」
「ねぇ、テンちゃんてー、明日暇かな?」
「ねぇねぇ、お話ししましょーよー。」
「……エリヤ様、僕は今集中して魔法を使ってます。話しかけないでください。」
エリヤ様が、僕と一緒に隠れてから随分と慣れなれしい。
ちなみに僕はテンちゃんという名前ではない。
「私のことは、エリちゃんて呼んでね。」
「私達、もう友達だよね。私ね、友達、実はいないんだ、いつも、ひとりぼっちだったの。私に仕えてくれる人達は沢山いるけど、誰も本当に私とは親しくしてくれないの。セイロン本家の娘だと分かると、皆、離れていくの。何回も何回も悲しいめにあったわ、仲良くなった子もいたけど、打算や親に頼まれて仲良くしてくれていたの。もう私には一生友達なんて出来ないと思ってた。親族から命を狙われて、私を大切に思ってくれてる人なんていないって、もうどうでもいいと思ってたの。でも…あなたは違ったわ、私と対等に話してくれた、言葉は丁寧だったけど、全然へりくだってなかったわ、私には分かったの、心で感じたの、あなたは私と対等の存在、私を照らしてくれた光、私の親友、いいえ、心の友と書いて心友よ。しかも私のことを命懸けで守ってくれたわ。私、今日のことを忘れない、一生あたなを離さない、できるなら、ずっとあなたと一緒にいたい、ああ、私の心の片割れが、こんなに可愛い子だなんて、なんてことなの。もう寝る時も、お風呂もずっと一緒、トイレは恥ずかしいけど、あなたがどうしてもと、言うならばやぶさかではございませんけど……。」
ポッと顔を赤らめるエリヤ様。
重い。重過ぎます、まるで石化の呪文にかけられたように重いっす。
そして、先程から密着し過ぎてます。
顔が近いし、良い香りがします。
「スークンクン。テンちゃん、とても良い匂いがする、柑橘系のような、とっても良い自然な香りが微かに首元から、クンクン…。」
あわわー勘弁して、集中が途切れます。