怒りの脱出
前世の記憶からランボーが、弓矢で、戦闘ヘリと戦っていたことを思い出す。
ランボーと言っても詩人のランボーではない。
いやいや…無理無理。
あれは人間技では無い。
…考える時間は、あまり無い。
「ディンブラ少佐、意見を具申します。この先に廃墟都市の森があります。そこに逃げ込みましょう。開けた場所ではなぶり殺しされるだけ。事態は好転するか分かりませんが、少なくとも今よりましです。」
僕の意見に少佐は首肯した。
このままでは絶体絶命の窮地であることは少佐にも分かっている。
「到着したら、車は捨てる。テンペストは、お嬢から離れるな。兄ぃ…兵長、貴様は単独だ。三つに分かれて隠れる。テンペストの探知魔法は最高難易度レベルだ。探知は任せる。奴らが地上近くに降りてきたら無線で教えろ。それまでは逃げ回るしかない。」
少佐がまともな判断力を持つ上司で良かった。
違っていたら僕達の未来は絶望感で黒く染まっていたことだろう…まだ運は尽きていない…最悪は逃れている。
僕らが乗っている車は、既にアクセルほぼベタ踏み、大地との摩擦から振動ガタガタで舌を噛みそうです。
車窓の暗がりの景色が流れていく。
これって、かなりのスピード出てるよね。
奴らとの距離、スピードを計算。
廃墟都市の森までの距離と車のスピードを計算。
対比する。
ああ…このままでは間に合わない。
ヤバい…運転手の兵長に慌てて指示を出す。
「ルフナ兵長、全速力。追い付かれるぞ。」
全員セイロン姓でややこしいから名前呼びに変える。
「軍曹殿から、名前呼びされるとは新鮮ですな。一気に親しくなった気分ですな。」
「あらあらまあまあ、それでは私もテンペスト様をテンちゃんと呼んでいいかしら。」
「兵長、貴様、調子に乗るなよ。」
外野が色々うるさい。
ヤバいと感じているのは僕だけなのか?
皆さん余裕そうに見えるのはセイロン貴族の特徴?
少しイラッとする。
兵長が指示に従いスピードを上げた。
平地なのにオフロードで上下に揺れる、揺れる。
尻が宙に浮きそうだ。
思わず脇の取っ手に掴まる。
おそらくアクセルペダルはベタ踏みだ。
エンジンが唸りを上げている。
機械って全力だしたら、どれくらい持つのだろう。
埒も無い考えが浮かぶ。
唸りを上げて走ること数分…。
前方には暗がりの空と大地。
地平線上に廃墟の暗い鉄塔が見えてきた。
おお、もう少しだ。
希望が見えて来た。
影が差す。
空を見上げれば、魔導空挺部隊の姿は、近づいてきて、夜空に黒い人型が目視でも分かるようになって来た。
目測で、距離を測り瞬時に概算…これ、僅かに間に合わないかも…。
ならば、人為的な救済措置が必要だ。
外は、半月の月明かりがあるとはいえ暗い。
相手も探知魔法を使っているはず。
魔法を紡ぐ。…探知撹乱魔法「jamming。」
探知の魔力線を感じる。
反射せず通す、月明かりも通す。
これで、相手からは、消えたように感じるはずだ。
更に高度の探知を使われなければ、多少は誤魔化せるかも。
廃墟都市の森の寸前で追い付かれたのが分かった。
上空に気配あり。月明かりが遮られる
「マズい!来るぞ!」
ディンブラ少佐が叫んだ。
ルフナ兵長が、右に急ハンドルを切る。
車の中の何処かが軋んで悲鳴を上げている。
上空から、火力線が地上に伸びるのが見えた。
車両の左側の地上にぶつかり火焔が周囲に爆けた。
周囲が爆裂した火焔で、ここだけ明るくなる。
….撹乱魔法が解けた。
イヤな予感がした。鉛を呑みこむような嫌な感じ。
し、し、しぬ?
「逃げろ、飛び出せ!」
僕は無理矢理大声をあげながらドアを開けると同時にエリヤの手を引っ張って外に抱えるよう飛び出す。
チラッと振り返ると暗がりに少佐と兵長が続いて車から飛び出したのが見えた。
車は、運転手不在のまま、しばらく走っていった。
そして…上空からの火力線に、何本も貫かれ、派手に燃えあがり爆発炎上した。
熱い爆風が、ここまで吹いて来て頬を撫でる。
ああ…間一髪だよ。
もし、躊躇してたら、今頃…僕達は…?
炎上する車だけが宵闇に目立つ。
炎が天を焦がしている。
…
…依頼キャンセルしたいです。
一日で、2回も走っている車から飛び出す人生は、流石に嫌です。
誰でもそうですよね?