chocolat裏(前編)
私は、今、試練を受けています。
私の対面には、アールグレイ少尉殿がいらっしゃってます。
私の推しが、真正面にいるのです。
きゃー。
見ている。見られている。
興奮して、鼻血が出そうです。
私の名は、ショコラ・マリアージュ・エペ。
エペ侯爵家の息女であり、ギルドのレッド昇格試験の二次試験を受験中の者です。
受験生ブルー全員で、第一次試験を突破しました。
皆さん、お見事です。
んん…わたくしも何度挫けそうになったか…それだけに嬉しさも一入です。
しかし、問題点も浮き彫りになりました。
それは基礎体力不足です。
何と言う事でしょう。
考えもしませんでした。
わたくし達は、自分で勝手に限界を設けていたのです。
意識に限界は、ありません。
それが分かりました。
身体には無論限界があるのでしょうけど、意識続く限り、結構しぶといです。
わたくし達は、いつも意識が諦めようと決断する際、体力のせいにして来ました。とんでもない冤罪です。
単にわたくし達が、怠慢で、身体のせいにして楽な方へ逃げてただけ…それがハッキリ分かってしまった。
なんてこと。
わたくし、怠け者だったんですね。
辛い認識ですけど。
わたくしの目の前に、怠けて無い人が厳然と存在するのです。わたくしより歳下なのに、こんなに儚げで小さいのに、頑張りやさんな少尉殿が。
わたくしよりも歳下ですけど、尊敬と敬愛の気持ちで、もう一杯なんです。
我が家に伝わる古文書に曰く、わたくしの、この気持ちの行き先は、推しと言うらしいです。
子供の頃、読んだときは分かりませんでしたが、このわたくしの胸に灯った明かりは、まさに推しと呼ぶしかございません。
恋とか愛さえも超えた崇高な思い、其れこそが推しなのです。
その推しと、正面から二人きり。
もう幸せ感満載で高揚して、頭がクラクラですよ。
あん、どうしたらいいのかしら。
いつまでも、少尉殿に着いて行きたい。
独占欲と仲間がこの気持ちに同意してくれる喜び、わたくしの中で常にせめぎ合っています。
なんてわたくしは、不安定なんでしょう。
いつかは、嫉妬から独占欲が勝ってしまいそうで、怖い。
そう悩むことさえ、今は幸せ。
少尉殿の期待に応えたい。
愛が溢れてしまいそうです。
皆にわたくしが、どんなに、どれほど少尉殿を推しているのか知って貰いたい。
言葉では、とても語りつくせませんけど。
そもそも、今日一目会った時から、わたくしの心は少尉殿に奪われてしまいました。
あの漆黒の濡れたように美しい髪、それとは対照的な白磁の様な肌、小さくて硝子細工のような儚く繊細な印象、それでいて活発で好奇心旺盛で生き生きとした瞳、輝いています。
まさに地上に降りた天使、わたくしの前に顕現なされた神です。可愛さを凝縮した容姿なのに、少年のような純粋な凛々しさと慈愛の御心をお持ちなのです。
もう、推すしかないでしょう。
まるで造形美の化身のような、食べたら死ぬほど美味しいお菓子が目の前に、無造作に置かれているような感覚。
美しくて美味しそうだけど、食べてはいけないのです。
食べたら絶対美味しい。
でも食べたらなくなってしまうのです。
なんなの、このジレンマは。
苦しい、愛おしい、この気持ちは推しの負の側面。
ダメよ、ダメダメ。
ダークサイドに堕ちるわけにはいかないの。
だって少尉殿が哀しむもの。
ああ、わたくしの少尉殿への気持ちは、一頁ニ頁では語り尽くせないの。
でも、聴いてくれますか?
わたくしの少尉殿への想いを。