chocolat(前編)
森林の一部を伐採して、土魔法で無理矢理湯船を造成する。
お湯を入れたら露天風呂です。
更に脇に洗い場も設ける。
水捌けを良くする為、多少の傾斜を付け水路も造る。
凄い、魔法、凄いよ。
感動で涙が出そうな感じ。
もう、こんな便利さを体験したら、魔法無しの生活には戻れないよ。
「…少尉殿、如何ですか?」
ショコラちゃんが茂みからヒョッコリと顔をだす。
バッチグーです。
皆んなを呼んで来て下さいな。
少し熱めのお湯をバシャバシャ湯船に満たしていく。
しばらくすると、ショコラちゃんに先導されながら女子達がゾロゾロと現れた。
うんうん…みんなお風呂好きだものね。
温泉でないのが残念ですが。
「少尉殿、私が見張っておりますゆえ、安心してお入り下さい。もし不届き者がおりましたら、我が剣の錆びにしてくれましょう。」
ダルジャン曹長は、着替えだけで無く、武具まで持参して来ていた。
いやいや、大丈夫だから。
人跡未踏の地にそんな人いないから。
皆んなで一緒に入ろうよ。
僕の索敵魔法も常時展開してるから大丈夫。
「…いや、しかし、少尉殿に万が一の事があっては。」
大丈夫、大丈夫。
ルフナに見張りを頼んでいるから。
「…え!ルフナ曹長にですか?…いやしかし。」
ダルジャン曹長は、それでも躊躇している。
ん…僕は察した。恥ずかしいのでしょう?
僕も、人前で裸になるのは、恥ずかしい。
やはり、ここは、大人な僕が見本を見してあげなければなるまい。
僕は、床に簀子を敷き、脱衣した服を入れる棚まで造形すると、スポーンと服を脱ぎ、洗い場でお湯を被り、ササッと身体を洗ってしまう。
必要な桶とかは、あらかじめ木魔法で造り、シャンプー石鹸は持って来ました。
身体の泡をお湯で流して、湯船に入る。
あー、極楽です。
「あら、良いお湯だわ。」
左側から声がすると思ったら、エトワールが、既に湯船に浸かっていました。
エトワール、君、早いよ。
ちゃんと身体洗ったの?
続いて、ショコラちゃんが入ってくる。
勇気を出したのか、ダルジャン曹長とアントワネット曹長も入ってきた。
んんー。…まるでハーレムです。
前世の僕だったら鼻血を出して出血多量で危ない状態になってしまうような光景です。
覗きのようで嫌だから、それぞれの個別な形容は避けたいと思いますが。
ショコラちゃんが僕の右側に、頬を上気させ紅く染めながら僕を見つめて来た。
うんうん…まるで天国のようです。
それにつけても、今日一日は実に濃厚な一日でした。
まるで、何週間にも匹敵するような。
僕は、先ほどのショコラちゃんとの模擬戦を思い出す。
…
さて、模擬戦も最後の一人です。
その名は、ショコラ・マリアージュ・エペ曹長です。
僕の友達?!
なんてゆうか、もう友達と言って過言でないかとも思うかもしれないけど…そう言って否定されたら、怖い。
それでもって会って半日しか経ってないけど、その為人は、誠実で真綿のような柔らかさ、それでいて芯に強さを秘めているような印象を受けます。
もし僕に子供がいたら、お嫁さんに欲しいくらい。
ああ、何故僕は、今世女の子で生まれてしまったのであろうかとも思わないでもない。
いささか歯切れの悪い言い方なのは、僕は既に、女の子として生を受け、18年過ごしているから。男の気持ちは、前世の記憶持ちなので理解は出来るけど、今世の心情としては女の子の気持ちでいるのが標準装備なのです。
でもショコラちゃんは、女の子の目から見ても、とても魅力的で困ってしまう。
僕が心配なのは、ショコラちゃんは、こんなに可愛いのに、か弱いのです。いくらギルドが規律正しくモラルがありきな職場とは言え、実力主義を勘違いする無法者もいるに違いない。
このままでは、ショコラちゃんが危ない。
可愛い女の子は、色々大変なのだなぁと思う。
だから、これを機にショコラちゃんには、不埒な輩から身を護れる程には強くなってもらいたい。
ショコラちゃんと、対面して一礼。
さあ、勝負ですから。
虚実を入り混じりて拳を打ち抜く。
驚いたことにショコラちゃんは全部避けた。
速い。そして迷いが無い。
成長している…?
この短期間で?
うん…若いって素晴らしい。こんなにも早く成長を遂げるとは。まさに後生畏るべし。
あっ、今は僕の方が歳下でした。
ショコラちゃんのタイプに合わせて脚を使って、ハイスピードで移動。ショコラちゃんも脚を使い対応してくる。
クルクルと互いに良い位置どりを取る為、結果として回るように動いていく。
僕は、バレットの銃を撃ち出すように、軽く左拳を連打で打ち出し、更に虚の拳も混ぜていく。
虚実おり混ぜた連撃です。
これでは避けようがないでしょう。どーですかー?
ショコラちゃんは、避け得るものは避け、当たるのは無視して突っ込んで来た。
自分の現在の実力を認識した良い判断です。
そして、大胆不敵な勇気のある決断です。
内に入られ、ショコラちゃんの拳が僕の身体に向かって伸びていく。
これは避けられないな。
だけどショコラちゃんの拳は、僕の身体をすり抜けていきました。
彼女は驚く顔も、とっても可愛い。
隙ありですよ。
でも僕は、虚の拳を一つ放ちて、一旦離れた。
虚…ℹ︎武術はディフェンスでも有効と実証されました。
うん、僕、満足。
きっとショコラちゃんの頭の中は混乱の極みでしょう。
さあ、どうするの?
戦いでは、こんな状況下は良くある事。
渦中で状況は、完全に判断できない。せいぜい60%把握出来れば良い方で、10%でも判断して決断しなければならない場合もあります。
後からだったら猿でも馬鹿でも判断できます。
しかし現在進行形な戦いの場では、待ってはいられない。
今、冷静に判断して、覚悟を持って決断しなければならない。
きっとショコラちゃんならと……想像する。
ブルっと身体を震わす。
未知なる道を行くのは、僕だって不安だし、いつも勇気をふり絞る。
さあ、僕を、楽しませて。