トゥール・ダルジャン(後編)
滞りなく、戦いを進めていく。
プランaから、プランbに変更。
僕は、戦闘時、思考を最大7つに分割して活動させる事が可能です。
通常時は、3つ稼働させてました。
メインの思考とは別に危険察知の探索用と武術、魔法を発達させる為の研究用を稼働させてるのです。
人格分割の危険を避ける為、定期的に統合しています。
そして最近4つ目を稼働し始めました。
それは、マネージメント用。
メイン思考が集中して事に当たる際に、補助してもらうのです。日常でもサボりがちな僕を叱り、目標を達成できるよう予定を組み、助言してくれる。
試しに稼働させてみたら凄かった。
Mちゃん、超優秀じゃん。
これって自画自賛?
もしかしたら僕ってマネージャーの才能あるのかも。
とにかくマネージャーがあるのと無いのとは、天地ほど生活が違ってくるので驚きです。
無論、戦う場合も参謀として、稼働しています。
もちろん作戦計画を立案したのも、このMちゃんです。
僕は、作戦通り動いているだけ。
ただ、一言言っておきますが、決断と判断は別物なのです。
判断どおりに、決断するというのは、それだけで多大な意志の力を使うのです。
決して僕がサボっている訳では無いので、あしからず。
ℹ︎…虚の武術が、効果無いならば、実の武術に切り替えるだけ。
木刀では、ダルジャン曹長を傷つけてしまう。
…女の子を傷つけたくない。
もしかしたら、こういう処に前世の影響があるのかもしれないと思う。
僕は、Mちゃんの助言を無視して、木刀を捨てた。
何やら、意識内から呆れた溜め息が聞こえた気がした。
プランbからプランcに変更。
目線で繋げられないのならば、相手の呼吸に自分を合わせます。傷つけない…制圧して捕縛する。
ならば、これは保護だ。
そう意識した途端、カチリと、何かが何処かで噛み合った気がした。
僕が、僕の意識の奥の方と連結したような、意識の奥から烈風が吹き出すようなエナジーが流れて来て吹き出した。
プランcから、プランxに変更。
慌てて告げるMちゃん。
吹き出した僕のエナジーに反応するようにダルジャン曹長が動き始めた。
恐ろしく速い。前へと出て行く摺り足が尋常じゃない。
相手の呼吸に合わせる、動きに合わしていく。
流れに逆らわない、相手の流れに重なる、相手の気に寄り添う。
脚を、身体を回転してダルジャン曹長に寄り添う。
彼女の息を呑む気配を感じた。
相手の流れを、そのまま自分の流れとする。
腰に腰を乗せて、流れを加速させるように、手首を掴み引っ張る。
そのまま、巻き込むように回転させて投げる。
前世で知っている山嵐という技に近い。
ダルジャン曹長の身体が跳ね上がってから、地面に叩きつけられた。
但し、危険なので頭からは落とさなかった。
だから、それ程ダメージは無いはず。
力は、ほぼ込めてないので、ダルジャン曹長からして見れば、自分で勝手に回転して、自分から勝手に地面に落ちたように感じてるかもしれない。
倒れた後、動こうとしないダルジャン曹長の掴んだ手首をクルッと回して、身体を裏表ひっくり返す。
肘を折り手首を腰に付けさせ、僕の膝を背中に乗せた。
ここまですれば、ここからの抵抗は身体の構造上、人間では、まず不可能。
「降参ですか?」
「…降参だ。」
僕は、曹長の背中から膝を外すと、手を貸して、曹長が立つのを手助けした。
「…信じられない。まるで魔法だ。だが魔法の痕跡は無い。いったいどうなっているのか。いや言ってくれるな。…柔術だ、しかも合気術も混ざっている。だが、其れ以上のエネルギーの奔流を感じた。アレはなんだ。私の十年以上掛けた切り通しが、あのように、いなされるとは正直ショックだ。会心の出来だったはず。クルリとスパーンでドンだ。いや、分かっている、しかも手加減されていた。考えられるか。真剣勝負なのに手加減出来るほどに、実力に開きがあるというのか?信じられん…。」
ダルジャン曹長は、立ち上がると興奮した面持ちで、ペラペラと早口で喋り出した。
負けたのに、心なしか嬉しそうだ。
ど、どうしたのかな?
頭は打って無いはずだけど…。
「凄い、流石だ、…いや、流石でした、少尉殿。また勝負して下さい。一生付いていきます。」
僕の両手を、刹那の速さで握りしめて、上下にブンブン振り回す。
ダルジャン曹長の興奮と鼻息が凄い。
嬉しさで、はち切れそうな笑みだ。
何で負けたのに、そんな嬉しそうなの?
そして、その一生付いていきますって何です?
…よく分かりません。
ダルジャン曹長は、ニコニコしながら何ども礼をすると、足どり軽く、ブルー達の列に戻っていった。
僕…勝ったんだよね。
勝ったのに、負けたような気がするのは、何故でしょう?
誰か教えて下さい。