魔法戦(後編)
僕の専門は、ウバ君と同じ魔法・神道系です。
…半分被っている。
専門で負けるわけにはいきません。
このメンバーでウバ君は、年齢的にも唯一の後輩です。
もし負けてしまったら先輩としての沽券に関わります。
だから、全力投球です。
思いを魔力に込める。
皆の僕に対する気持ちが、とっても嬉しい。
飛び上がりたいほど。
ウバ君が、雨霰の如く魔法槍を打ち出して来ています。
うんうん…今までの僕だったら、僕もそうしてました。
僕達、思考形態が似ているかも。
僕が構築した魔力障壁がガシガシと削られていきます。
でも、1枚障壁が破られる度、内側から新しい魔力障壁が作られて前へと移動していく。
だから、魔力障壁は常に、僕の前に10枚建てられて攻撃を防いでくれる。全自動です。
どうやらウバ君も、それに気付いたみたい。
魔力総量は、年齢に比例する。僅かに僕の方が多い。
このままでは、僕の勝ち。
ウバ君、どうする?
僕の一気に決めたい思いを封じ込める。
僕も反省し、成長しているのだ。
決して、コチラをジロリと見たエトワールを気にした訳ではない。
落ち着け、僕、落ち着け。
ドキドキする。
来た。
ウバ君が、僕の方へ歩いて来ました。
勝負ですね。
「透過円転斬左右曲射。」
「黒色円転斬上下曲射。」
透明と黒色の回転する刃物が上下左右から襲ってくる。
shieldを球面状に展開して防ぐ。
「風弾丸射掛百。」
既に距離は10メートルと縮まっている。
風の弾丸が、近距離から僕が張った盾をボロボロに打ち砕く。
更に無挙動からの、光りの一閃が僕の最後の障壁を打ち破った。
割れて散る障壁の欠片がサラサラと風に舞った。
うんうん…実に楽しかったよ。
「我は見る、月明かりの小道。我は行く歩きて辿り着く散策路。楽しかり哉。」
僕は、詩を口遊む。言霊を籠めるから辺りに僕の声が木霊する。
これに名前は、まだ無いけど…
世界の理の隙間に言語で介入して、自分の思い通りの結果を残す。魔法ですら無い。
世界と自分を騙す虚の魔術。
仮にℹ︎の魔法と名づけようか。
僕は、スルリと前に歩き出す。
弾は当たらない。
当たらない場所を歩いているから、当たらないのだ。
当たり前の話しで、そういうものだから、散策するように向こうへと抜ける小道を歩いていく。
ウバ君の後ろまで、擦り抜けて、首に手刀を打ち込もうとして、しばし考えた。
たしか魔法勝負してたかも。
振り向いたウバ君の額に、人差し指を向ける。
「shot。」
空弾が、ウバ君の額を押し出す。
ウバ君は、そのまま後方に倒れて気絶した。
「…ズルい、ズルいズルいです。少尉殿、あれはないでしょう。」
気絶から起きたウバ君は、大地を拳で叩き泣いて悔しがった。
意外と負けず嫌い?
そして、ウバ君は僕にアレコレと言い出し始めた。
「そもそも、魔法対決の様相でしたのに、あの反則技は無いでしょう?あれはなんですか?魔法の一種?信じられない。何の魔力の揺らぎを感じませんでした。ℹ︎魔法?何ですかそれ?初めて聞きました。自分で作ったって?非常識にもほどがあります。私にも教えて下さい。お願いします。」
いいえ、教えるも何も、まだ研究途中ですから…無理。
だから、脚に縋りつくのはやめなさい。
教えるのは無理でも、勝手に真似するのは良いですから、あなたの自由です。
土下座してお礼を言うのもやめて下さい。
まるで、僕が悪者みたいじゃないですか。
ハッ…ティナ君がエトワールの身体に半分隠れながら、僕の方をジッと見ている。あの顔は、…また誤解しているよ。きっとそう。だって僕の事、嫌そうに睨みつけてるもの。
…なんたること。
僕、やっぱり、子供は苦手です。