魔法戦(前編)
模擬戦の続き。
ウバ君と対戦す。
この子は、天才かなと思えるけど、天才にありがちな危うさが無い。僕の見立てでは秀才。
でも、ただの秀才でも無い。もっと凄いかも。
もしかして転生者?
何にしろ、歴史に名を残すかもしれない期待感を持たせてしまう才能が開花する前の片鱗がある。
雛には稀な才能の煌めき。
将来、大成した後でも、僕の事、覚えててくれてるかな?
僕とウバ君との距離間は、約30メートル。
この距離は、魔法か遠距離武器でないと攻撃は届かない。
互いに一礼して自然体で構える。
さあ、勝負です。
「search。」魔法言語を唱える。
目視と魔法感知、どちらも大事。
複数の眼で確認する。
物事を正確に知覚するには、虫眼、魚眼、鳥眼、あらゆる眼を活用する。複数の別種の眼、広域のワイドな死角を無くす眼、空からの全体を見通す眼、特に別の視点に立った見方が新発見や新しい考えを促す。
多種多様なインプットを取捨選択して活用する。
この考え方、方針は日常に置いてもしかり。僕は他者の言う事を鵜呑みにしない。もし、する時は、自分の責任と覚悟はする。それでも最低限、確認の質問はする。
「察知乃候。」
ウバ君の小さく呟く声が聞こえた。
因みに魔法を創起させる言葉は、何でも良い訳ではないが、少なくとも術者本人にとって成す魔法内容を意味する言葉でなくてはならないする考え方が一般的です。
本当は、そうでもないけど。
僕と同じ、斥候・探知系の術式と見ました。
僕を探るような魔法の波を感じました。
全身を触られるような感触。
僕は、対魔法皮膜を常時張っているので、身体中に他者の魔力を入らせないし、服の上から触られている感じを受けました。
…なるほど。
自分と同じ察知系を得意とする魔術師と対戦したことが無いので、分かりませんでしたが、断りもなく髪を触られてるような不快な気分です。
これからは、相手に悟られないように、不快な気分にさせない魔法を開発する必要ありですね。
それにしても、鏡返しですか?
戦術としては悪くはありませんが、後手後手にまわり、それだけでは、勝てませんよ。
「shield。」
僕の前に白透明な大きな盾が現れる。
「大楯之是。」
ウバ君の前にも黒枠透明の大楯が現れる。
魔術師には、相性とか専門、専攻、好み、拘りが必ずある。
割と魔力消費の小さい生活魔法程度ならば、全般使えることもある。僕もそう。
でも複雑化するほど、難易度が高いほど、魔法系統との相性は際立つ。
僕との相性が良いのは、風、光。
次いで、土とか植物とかが好きなせいか、僕の魔法と互換性が良いみたい。
僕の前世は、魔法は使えなかったけど、魂が同一なので、おそらくは風、次いで彼の為人から月光、闇と推察する。
ウバ君の得意魔法は何だろうか?
それによってウバ君の為人も判り、戦術も予想が絞れる。
因みに僕のsearchもウバ君の魔法壁に弾かれました。
むむ…やりますね。
「lancer。」少し圧を込めて言う。
白透大楯の前に、白光の槍が浮かび上がると同時に、ウバ君を目指して直線で駆けていく。
「黒色槍騎兵之突駆也」
僕とほぼ同時に、ウバ君も唱え終わる。
もしかして僕の思考読まれている?
だとしたら油断出来ない。
僕が放った魔法と、ウバ君が放った魔法は、ちょうど中間地点でぶつかり合い、互いに打ち消しあった。
威力は互角、相殺だ。
しかし、これは少しまずい。
僕は、少しだけ魔力を多く込めた。直感でそうした。
それで同じ魔術で相殺とは、威力においては、僕の負けです。
…いや待てよ。ウバ君が唱えた詠唱文字数は多かった。
あれで威力を上げている?!
侮れない…向こうも実は少し威力を上げていた?
お互いに見つめ合う…ビンゴだ。
お互いに察した。
化かし合いは、ドロー。
ならば威力と数で押し切るのみ。