新生
10分過ぎたので、バスから外へ出る。
深緑の薫りがした。
うんうん…良い薫りです。
やはり、山は素晴らしい。
軽くステップを踏み、バスから地面へと降り立つ。
前を見ると、バス前にブルー達が、一列に勢揃いしている事に気がついた。
ん?
見渡す…ロッポ中尉とエトワールは、列外の上席の位置にいる。
あれ?
列最右翼に位置するルフナ曹長が、僕に対し敬礼して叫ぶように申告する。
「ハクバ山探索部隊、集合終わり!」
??…君達、いったいどうしたの?
さっきまで、自分勝手にグダグダで、動いていたのに、僕に対しての、あまりの変わりように、少し驚いた。
えーと、僕、そう言うのはちょっと趣味でないです。
「…リテイクでお願いします。」
密集隊形を指示し、皆んなを集めて事情を聞く。
「俺は、自分の、弱さに呆れちまったぜ、あの時から少尉殿を目指して、自分で修練を積んだつもりだったが、全くなってなかった…やり直しだ。襟を正すぜ。俺なりのケジメだ。」
「未熟者の私ですが、アールグレイ様の脇に控えてお助けしたいのです。ですから…私と末長くよろしくお願いします。」
「そうね、少尉殿とは決着はついてないし、ショコラ様が支持するから、私も貴方に付いていくのよ。私が貴方に恩を感じてるとか、ドキドキしてるとかじゃないから勘違いしないでよね。」
「わたくし、アールグレイ殿の天晴れな決断、対応、物腰に感服致しました。先程の武術的な舞も眼福で、もう一生付いて行きたいです。」
「もう怖くて怖くて、生きた心地がしません。逆らわないので、もう勘弁してください。」
「あー、私は、少尉殿の強さは、前から知ってたので、今更ですけど、勿論少尉派ですから。」
「俺は未熟者で全くなってなかった。見た目で判断する愚かさを思いしったぜ。これからは少尉殿を師匠と崇めるから許して欲しい。」
「…以下同文。よろしくお願いします。師匠。」
誰がどの台詞を言っているのかは割愛するけど、態度が豹変してる人や反省してる人、降参してる人、僕に対しての言動、態度が大なり小なり変わってしまっている。
エトワールが、天を仰いでヤレヤレと首を振っている。
ロッポ中尉が、瞼を伏せ、腕を組んで、ウンウンと頷いている。
何が何だか良く分からないけど、僕が着替えてる間に、状況が上手く変わっていた。
ハッ、…ジンクスだ。
凄い。ジンクスまたもや達成!
学生時代の親友の助言、凄いよ。
聴き入れた当時の僕も、凄い、偉い。
みんなの殊勝な物言いに、僕の心もジーンと来るものがある。
僕の皆んなへの想いは、一方通行だと思ってまして、それでも良いと覚悟している自分もいて、…そのように返してくれると、ちょっと感動してしまいますよ。
クルリと皆んなに、背を向けて眼を瞑る。
絶句して背を向けてるけど、怒っているわけではありません。…こんな気持ちは、もしかしたら前世を通じて初めてかもしれません。だから、少しだけ待って下さい。
ロッポ中尉が、訳知り顔にウンウン頷いているのが見えた。
振り返ると、皆が心配そうに僕を見ている。
大丈夫。君達は、もう大丈夫。
きっと全員、試験に合格する。僕が保証するよ。
今、君達は、素直に耳を傾けることを会得した。
傾聴と言う、心の有り様。
指揮官には必須の項目。
更に、自分が弱いという事実認識。それでいて、諦めず上を目指す覚悟。
僕を知り、己れを知る。
人は変われる。君達は変わった。
準備は整った。
本番は、これからです。
僕は、ニッコリ笑って、皆に言う。
「さあ、模擬戦の続きです。次は誰?」
全員が手を挙げる。
いやいや、続きだから…