対策と傾向
[水手]対策は幾つかある。
攻撃しても多彩な返し技に翻弄されるのが落ちなので、攻撃はせず待つのも一手だ。
[水手]の攻撃の威力は弱い。
基本逃げに特化してるので、前に出て攻撃する技の威力全般は弱い。
でも、水のように流れる華麗な動き、トリッキーで意表を突く技の数々は捉えどころがない。
まさに水の名を冠した武術、ダメージを与えにくく、真綿で首を締められるようにダメージを与えられていく。
武術の選択は、その人自身を表しているのではなかろうか?
まあ、自分で選んでるからね。
だとしたら、フォーチュン曹長の為人も、こんな感じなのかな?
フォーチュン曹長は待っても来ようとはしなかった。
まあ、もしフォーチュン曹長が試験官だとしたら、僕に勝つ必要もないからね。自分の手の内を晒したくないならば、一生待っても来ないかもしれない。
隙も、ありそうで無い。
弱点らしい弱点も見当たらない。
困った、困った。本当に困った子ですね。
戦わないと、データが取れないでしょうに。
また、僕がエトワールから叱られてしまう。
そもそも何故、僕が叱られなければならぬのだ。
いったい誰のせい?もちろんフォーチュン君のせいです。
何度言うが、これは八つ当たりではない。
…やれやれだ。
学生時代読んだ武術史の[水手]対策のくだりを思い出す。
約4400年前、[水手]対策に一つの答えを出した天才がいた。彼は待つことはしなかった。逃げるならば、それ以上の速さで追いつけは良い、防御するのであれば、それ以上の威力で粉砕せよ。
単純明快な思想の元に、新たな技が作られた。
当初[新・火手]と称された技の数々は、後に彼の弟子達によってまとめられ、新たな武術と認められた。
その武術の名は、[雷手]。
技の激しさと速さは、他の武術とは一線を画するほど。
習得の困難さから、途絶え、失伝する技もあったという。
僕は、武術のセンスは無いけれど、逃げる速さは自信あります。握力は趣味で鍛えに鍛えました。体幹に関しては、[火手]の基本である[千日手]で鍛えました。[雷手]に必要な要素は、力と速さ、それを支える身体です。
どうです?僕にも習得する資格はあるのでは?
本当の[雷手]は、無理でも真似なら出来るかもしれない。
うーん…しばし考え込む。
でも、…もし真似できたとしても、過去の天才の足跡を辿るだけで、面白みに欠けるなぁ。
多分、勝てる気がするけど、効果はあるのだろうけど。
…勝てば良かろうでは、つまらない。
フォーチュン曹長も、既定の対処されても、きっと、つまらないに違いない。
うんうん…きっとそう。
僕は、同じ道を通るのは好まない。
だって、つまらない。
他の道へ進めば、新しい景色が見えてくる。
そう、あれだ。…暗中模索、試行錯誤。
閃きは無い。まずは試すだけ。
それにしてもフォーチュン君の目元が見えない。
前髪を切りたい衝動に駆られてしまいます。