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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの生活
17/615

侍魂

 侍だ。侍がいる。


 ?!


 チョンマゲこそ結ってないが、長髪を首後ろで締め、羽織袴を着ている。

 身長180cm以上、体格ガッシリ、黒髪長め、大刀を抜き身で右手に持っている。


 そ、そうですか…侍も生き残っていたのですね。

 文化的保存の観点からみれば実に喜ばしいことだと存じます。

 因みに僕は、侍に遭遇したのは前世も今世も初です。


 その侍は、もし、擬音語が添付されていれば、ゴゴゴゴゴゴゴゴッと描かれてるに違いない登場の仕方であった。

 侍の異様な風態と雰囲気に少佐もエリヤ嬢も呑まれて、動けない。

 

 一瞬の静けさと舞い散る砂埃


 突如侍が咆哮した。

「ウオェアアウオーーーーーガァーー!」

 音の爆破動が空間を揺らめかせる。

 直接地肌にビリビリと来て身体を揺らめかせる。

 音の波動で光りさえ屈折して波となってチカチカする。


 何これ?

 侍って口から波動(ブレス)吐けたっけ?


 僕が逡巡してるうちに、侍が一瞬で、少佐の目前に出現す。

 いや違う…接近に気づいた少佐が同時に間合い詰め、剣撃の間合いを殺したのだ。

 同時に少佐の爆裂発勁が侍の胴に直撃する。

 爆発するような物凄い音が聞こえた。

 重量級同士の最初のガチのぶつかり合いは少佐に軍配が上がった。


 だが侍は直線に後方約10メートル吹き飛ぶも、構えを崩さず睨みつけて来た。


 この間の攻防は、一秒に満たない。


 …ヤバシ。

 ついてけませんわ、僕。


 前世では巻き込まれて、そのまま退場パターンです。

 きっとそう!

 しかし、今世では余剰経験に基づく気づきと魔法がありました。

 よって、普段の準備には余念なく。

 不断の成果を、今、丁寧に魔法を紡いで出していく。

 指先から、掌、身体全体を使って、丁寧に素早く、そして速く魔法を紡ぐのだ。

 更に呪文を歌のように放ち、効力を上げる。

 何重に幾重にも編まれる魔法。

 更に身に付ける魔法陣を起動。

 手動と自動を組み合わせ、魔力を効率的に最小限に使用し、効力を最大限になるよう細かく調整す。

 …

 …完成。

 

 魔力を鎖の様に編み上げ、風や川のように流れ、生き物のように動く防御壁。

 その規模と堅牢さは、もはや砦。

 風と魔力で編み上げた透明な絶対無敵流動性防御壁です。

 モブな僕ですが、最近少しだけですが魔法防御の作り方が分かってきた様な気がします。




 侍の咆哮!

 先程よりも重低音の波動が大地を滑るように流れ砂煙を巻き上げる。

 思わず目を細める。

 よし、第二ラウンドだ。…来い!

 続いて放たれた侍の震脚に大地が震えた後、侍が刀を振り降ろす。

 魔力を伴った威力ある風の刃が何枚も繰り出された。


 大丈夫!


 フッ、貧弱、貧弱。この程度では僕が創り出した一枚目の防御陣も破れませんよ。

 侍が放って、僕が創り出した壁に弾かれた風の刃は、そこかしこに跳刃して、周りの建築物を切り裂き、建物が崩壊し、信号柱、電柱が倒れまくり、辺りは、まるで廃墟のようになっていくが、決して僕のせいではないので気にしない。


 しかし、これはもはや対人戦闘なのか?

 少佐が、風の刃を避けながら、侍の間合いに強引に入る。

 勇気とは、一番行動的な徳であると聞いたことがある。

 だとしたら少なくとも少佐にはあることが行動で証明された。

 …僕にはとても出来ない。

 少佐の右張り手が、ソッと触るように侍の顔面に貼り付くと、爆裂。

 侍の顔面が焼け燃え上がる。

「がぁがぁがぁー!」顔面から噴煙を上げながら侍が叫ぶ。

 流石にダメージがあったようだが…?

 …

 侍の目玉がギョロリと少佐を見下ろすと、右手で脇差を振り上げる。

 それを予想したように後ろに避けながら、目眩しの炎壁を前面に出す少佐。

 侍の顔は、多少煤けたようだが、ダメージはあまりないようだ。

 こいつ怪獣か?!





 侍の空気や大地まで振動させるような大咆哮!

 第三ラウンドだ。


「ぬぉーー。引かぬ、引かぬ、引かぬ。引かぬわぁ!」

 二刀流で前進する侍。

 絶対引かぬと豪語している侍が、後退すると、いったいどうなってしまうのであろうか?

 天地の構えで、侍の突撃を待ち受ける少佐。


 刀に対して無手では不利ではないか?

 ヤバイぞ、少佐。

 援護するぞ。

 少佐肉壁が壊れたら、こちらに来るからね、…アレが!


 呪文を歌い、弓を引く。

 光風合体魔法「lancer。」

 光の長矢が風を纏い、missileのように飛んでいく。


 飛んでいく。無数に飛ばす。

 …着弾。爆烈。

 「ぬぁ、おがぁ。」爆裂する侍の悲鳴が木霊する。

更に飛ばす。更に飛ばす。更に飛ばす。

 …

 …着弾、爆烈。…着弾、爆烈。…着弾、爆烈。…着弾、爆烈。

 「やめっ、ぐぁ。」「まてぁあ、わかっ。」

 中途半端は良くないので、…飛ばす。飛ばす。飛ばす。飛ばす。飛ばす。飛ばす。


 …着弾、爆烈、…着弾、爆烈、…着弾、爆烈。

 「わかっ、それがしのまけ、ぐはっ。」「テンペスト、やめっ、どわぁ。」


…着弾、爆烈、…着弾、爆烈、…着弾、爆烈。

 んん…爆烈の音で、良く聞こえない。

 途中、少佐の声が聞こえた気がしたが?


 …多分、大丈夫だろう。

 今の優先順位は、僕の命と、次にエリヤ嬢の無事だ。

 きっと任務達成を至高とする少佐なら分かってくれるはず。


 飛ばす、飛ばす、飛ばす、飛ばす、飛ばす、飛ばす。

 …着弾爆烈、…着弾爆烈、…着弾爆烈、…着弾爆烈、…着弾爆烈、…着弾爆烈。

 超効率化して魔力を最小使用の最大爆破に成功した魔法なので、僕の体力の続く限りほぼ無限に撃てます。






 更に、撃ち続ける。






 …しばらくして、手が、いい加減疲れたので、一旦撃つのを止める。

 モウモウと土煙が辺りを覆い、見晴らしが悪い。

 しばらくすると、風で土煙が晴れていく。




 侍が前のめりに倒れていた。

 立派だ、自己の言葉どおり引かなかったらし。

 ピクピクと、たまに痙攣しているところを見ると、まだいきているらしい。

 …

 うむ、立派だ、そして丈夫だ。

 彼は最後まで負けを認めなかったし、退かなかった。

 敵ながらあっぱれな人だ、さすが侍だ。

 トドメを刺すことはしないけど、二度と相対はしたくないなぁ。



 倒れていた少佐が、被っていた土砂を跳ね除けて立ち上がる。

 かなり消耗してるように見えるが、侍よりも早く起き上がった。

 …素晴らしい。


 少佐、あなたの勝ちだ。おめでとう。

 


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