均衡
前進です。前へ歩く。掌を突き出す。
弾かれる。前へ歩く。掌を突き出す。
弾かれる。前へ歩く。掌を突き出す。
ルフナ曹長は後ろに下がりながら、僕の掌を弾いていく。
簡単に言ってるけど、前進しながら戦うより後退しながら戦う方が難しい。
ルフナ曹長は、大雑把に見えるけど、結構器用で緻密なんです。まるで後ろに眼があるように下がって行く。
しかも、下がる軌跡は微妙に曲がっているので、最後には円を描くに違いない。無限軌道だ。
僕の爆裂掌を捌く動きが、安定している。危うさも無い。
これは、僕と対戦する為に、考えて練られた作戦なのですね。十分修練して来ているのが分かります。
いったいいつから…
一朝一夕で、こんなことは出来ない。
僕は、…攻撃しながら泣きそうになった。
これは良く考えられた作戦です。そして、良く練られた功夫です。
ああ、今、僕が抱いている、この暖かな気持ちは、僕以外に仲間がいて安心したような心持ちなのです。
…発見しちゃった。
僕と同じように弱くて、修練をしている仲間が、こんなところにいたなんて。
僕は、独りぼっちではない…これほど嬉しいことはない。
こんな風に、僕と同じような修練してれば、きっと直ぐ僕に追いついてくれるよね。
そしたら、僕たち、対等の友達。ライバルになるかも。
うんうん、僕、とっても嬉しいかも。
僕も転生した時、チートやギフト、スキル、才能なんて、これっぽっちもなかった。弱かったよ。今でも強いとは言えないけど。
だから、今の僕は、生まれた時から、これまで修練してきた過去の僕が成した成果なんだよ。
ルフナ曹長、ありがとう。
君が居るだけで、僕、希望が持てる、勇気百倍だよ。
僕は、ボッチではなかったんだ。
早く追いついて来て欲しい。
当然、ここからの勝ち筋も考えているんだよね。
よし!待とう。
ドキドキするし、ワクワクもする。
…ドキドキ、ワクワク
…ドキドキ、ワクワク
あれ?…3周しちゃったぞ。
ドキドキワクワクしながら、待ってるけど一向に進展が無い。
僕は、掌を突き出しながら、呼びかける。
「ねえ、ルフナ。この後は考えてるよね。僕、待ってるんだけど。」
「… … …。」
む、ダンマリですか?まあ、考えてみれば、自分の手の内をペラペラ喋る人はいないですよね。
別に僕は一晩中、推手しても構わないけど、飽きるし、この後も4人模擬戦を残している。
推手のパターンを変えてみた。
そして、わざと隙を見せる。
ルフナは、変化パターンに動じないし、隙にも応じない。
少し、イラつく。
そう言えば、模擬戦初戦では、対応してなかったよね。
もしかして…[火手]対策だけ?
僕の使用する武術は、基本のスタイルが3パターンある。
ジャンケンのそれぞれの手に対応してると考えると覚えやすいです。
パー [火手]を使用した、空手系武術。
チョキ[橘流居合術]を使用した、抜刀術系。
グー [円環駆動]を使用した、拳闘術系。
通常、織り交ぜて、他にも護身術とか使用してます。
なんか節操が無いみたいだけど、元々、僕は学生時代から魔法・神道系を専攻してました。
だからエトワールと一緒で、僕は魔法特化なのかな。
武術は、才能無いので、いろいろ習って、それこそ、それぞれの武術の短所を互いにカバーするようにしたのです。
だから、単独の武術では僕は弱いの忘れてました。
僕がたまたま勝っているのは、あくまでも不断の修練と常に創意工夫を怠らないからです。
自分驕るべからず。
では、混ぜましょう。それと創意工夫を。