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アールグレイの日常  作者: さくら
天竺行路
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猟師の子

 僕の名前は、ティア。

 遥か昔から、この山々を拠点にしている猟師の子だ。


 僕の御先祖様は、文明崩壊後、神様から魔法の力を授かった際に、サトリの魔法を得た。

 これは人の考えた事が分かる魔法。

 でもこれはオンオフの切り替えが効かないんだ。

 常時展開型の魔法であるから、呪いのようなものだと、父さんが言ってた。


 父さんが言うには、人間社会に疲れた御先祖様は、都市部を離れて山々に住み着いたらしい。

 僕はその子孫。

 魔法を受け継がなかった者は、都市部に帰り、受け継いだ者は山々で猟師として暮らす習わしだから、御先祖様の力を受け継いでしまった僕も都市部には住めないんだって。

 酷い話しだよね。


 お陰で母さんにも、僕は普段会えない。

 山で父さんと二人暮らしだ。

 サトリ同士は、魔法が反発し合って逆に、考えてる事が分からない。変な話し。


 僕は、まだ8歳だから、一人では山を遠出は出来ない。

 でも、昨日、父さんが病気で熱を出して、寝込んでしまったんだ。このままだと危ない。

 何とかしなければいけないけど、こんな山奥では救けを呼ぶにも山々を越えて行かなければならない。


 叔父さんが、一山向こうに住んでいるから、僕は救けを呼ばなければならないんだ。


 僕が、きっと救けを呼んで来るから待っててね、父さん。




 ああ、なんてこと…僕、熊に襲われて、逃げてるうちに噴火口の縁を、足を滑らせて落ちてしまったんだ。

 伸ばした手が木の根を掴んだけど、土がボロボロと崩れて、もうダメかもしれない。

 崖で、僕じゃ登れない。

 足元も力を入れたら崩れていくんだ。


 救けて、誰か助けて。

 死にたくない。僕、父さんを置いて死にたくない。


 その時、誰かの心の声が聞こえてきたんだ。

 女の人のような心の声…崖上に誰かいるの?

 

 (何故に、この様な所に子供がいるのか?いや、そんな疑問は後から考えれば良い。おそらく足を滑らせて落ち、運良く、崖にたまたま生えていた木の根を掴むことが出来たのだろう。だが、はたして運は良かったのか?救けることは可能か?…100%無理。崖淵から、子供の所まで、約30メートル、斜面の角度は、怖ろしく鋭角に見えた…だが、そう見えるだけかな。それでも、30度も無い。場所によっては、ほぼ垂直。地盤は、最悪な事に、砂の様にもろい。これではピッケルが刺さらない。ロープは、非常用に腰に巻いたものがある。細く伸ばせば20メートルは届く。幸い僕の今世の体重は軽い、少年をプラスしても、何とか荷重には耐えるだろう。問題は、長さが10メートル足りないこと。子供は、もう10分と持たないだろう。今にも噴火口に落ちそうだ。エトワール達は間に合わない。どんなに急いでも、ここまで30分以上は掛かる。飛行魔法は?僕は風とは相性は良い。だから挑戦はしてるけど、いまだ完成の域には達していないし、更に難しい浮遊は、魔法力よりバランスの極致の様な感覚が必要で、このような熱風が噴き上げる場所では、コントロールしきれない。…おそらくは落ちる。僕は、出来る事はするし、出来ない事はしない。当たり前の事だ。二次遭難は避ける。これは絶対だ。冷徹に判断しなければならない。僕は、今世、自分の命、身体を第一に考えている。これが、僕の信条なのです。だから…御免なさい、名前も知らない君。僕では、力不足であった。君の助けにならなかった。結論は、出た。…でも、これでは僕が、まるで冷血漢のように、後から来たエトワール達に思われるかも知れない。その通りだから思われても構わないけど、僕に対するブルー達の評価は下がるかも知れない。それは部隊運営上まずいかもしれない。だから、救ける努力を装うことはするべきだよね。そうだね。救けられない事は分かった。でも、装う事は僕でも出来るはず。今から僕がやることは救ける事ではない。だから僕の信条にも反しない。方針は決まった。……)


 顔は見えないけど、考えている事が明瞭に、僕の頭に流れてくる。

 …酷い。なんて酷い人だ。

 ゴチャゴチャと言い訳してたけど、この人の中では、もう僕は死んだ事になっているよ。

 救けようともしないことを決めている。

 自分の命第一だって考えている。

 既に、僕の事は御免なさいで済ませて、自分の立場ばかり気にしている。

 僕を救けるフリだけ…するつもりらしい。

 なんて、汚い人なんだ。

 

 もう、聞きたくなんかない。

 酷い、酷い、酷い、酷い………。

 僕は、自分の頭の中を自分の言葉で一杯にした。

 こうすると、聞こえてくるけど、理解できなくなるんだ。

 崖の上の人が何か考えてた言葉が流れて込んで来たけど、もう僕は、あんたの汚い言葉なんか聞きたくないんだ。

 

 崖上を見上げると、黒髪の綺麗な女の人が、見下ろしていた。

 あの人が、あんな酷いことを考えてたの?


 (恐怖に顔がこわばっている…この子は、これから死ぬのだ。…無理も無いことだ。僕は…)


 黙れ、黙れ、黙れ、黙れ。

 僕は、お前なんか信用しない。

 お前なんか、大嫌いだ。


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