ℹ︎の武術
何か策があるのかもしれない…少し楽しみ。
礼をする間もなく、キームン曹長から脇差しが飛んできた。
なるほどなるほど…知覚範囲外からの攻撃ですか。
一応は考えてるけど、つまらない。
それ、5000年以上前から考えられ済みですよ、自分で考えられないのかしら。
天地の構えから、手甲で撃ち落とす。
遥かな向こうから、白刃が降って来たかのように見えるので、避ける。
遠間から、斬撃が飛んでくる。手甲で撃ち落とす度に、金属が擦れて、たわむ音が凄いなぁ、煩いなぁと退屈しながら思う。
一撃一撃が必殺なのに、流れるように足元を狙う一撃が厄介です…かも。
曹長が使用している武器の名前は、薙刀という。
近近接では、勝てないと諦めたの?
取り敢えず試行錯誤はしたのかな?
期待した僕のせいかな。内心、この程度かなとガッカリする。
でも試行錯誤の一環よと味方したい僕もいる。
ブルっと頭を振る。
乱雑な思考を統一して集中する。
そう、僕には近づきたくないんだ…チョッピリ乙女心が傷ついちゃうぞ。ハッ、もしかして、それを狙ってる?
ならば有効だよ。
僕はね、勝負は、心が負けを認めたら負けだと思っている。
だから、自ずから武術も、応じて然るべきに変化している途中だよ。
刀は持ってないけど、持っているかの様に構える。
そして「橘流居合術、飛燕。」と呟いてみた。
これ、本来真空の斬撃を飛ばす技ですけど、今回はイメージのみ。
但し、心は真剣以上に真剣に真似る。
空中に斬撃が飛んだイメージが…
見えた!
僕は、今、キームン曹長の手脚を切り飛ばした。
そして…曹長の斬撃が止まった。
元から白い顔が、いまや青白くなり、驚愕に眼を見開いている。
それを見て、伝わったと、僕は確信した。
これは高段者ほど有効な技であるから、キームン曹長はかなりの使い手であるのが、今、証明された。良かったね。
僕も、今、心に対する技が有効である事が証明されて嬉しい。
切ったはったの実の武術に対して、これは心を対象にした虚の武術です。いわば数学の虚数のようなもの。
イマジナリーな武術。ℹ︎の武術とでも名付けましょうか。
キームン曹長の眼が、変わらない自分の手脚を見つめる。
「あ……。」
手脚が、まだ繋がっていることに気がついたらしい。
そうです。それ…幻ですよ。
でも、技倆が高いほど伝わり安いから、遮断出来ませんよね。
曹長に対し眼を飛ばす。
寄らば斬る。武器ごと斬る気合いを込める。
さあ、イメージを共有しましょう。